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神怨の矢


「…………っ‼」

「…………っ⁉」


 僕とサズ子は、お互いに声にならない声で悶えながら地面を転げ回っていた。

 最早、痛いとかの次元じゃない……何故、お互いに生きているのか分からないレベルだ。


「ぁ……蒼…………何をする……」

「し……死ぬかと思った…………」

「そ、それは……こっちの台詞だぁぁああああああああっ‼」


 すると、いち早く喋れるほどに回復したサズ子がブチギレる。

 何気に、こんなに怒っているサズ子は初めて見たかもしれない。


「私に何の恨みがあるというの⁉ 見て! この信じられないくらい腫れ上がったこのコブを! よく見て! 普通、この程度じゃ済まないよ⁉ 脆弱な人間の身体なら、余裕で頭カチ割れて死んでるよ⁉」

「わ、悪かったって……でも、コブならどデカいのが僕の額にも出来てるし……大体こうなったのも、全部お前が僕に着けたこのガントレットのせいだろうが!」

「はぁーー??? なに??? 逆ギレですか??? 言っておくけど! 私はそんな趣味の悪いガントレットの事なんか、カケラも知らないから‼」

「……え?」


 どうやら本気でブチキレているサズ子を見て、僕は色々な意味で血の気が引いていく。

 じゃあ、ほんとにナニコレ……?


「ほ、本当に知らないのか?」

「しつこい! そんなものは知らないと、さっきから言っている!」

「で、でも、これはお前の槍と一緒に現れたぞ?」


 僕が戸惑いながらも、これ以上ないほどキレ散らかしているサズ子に向かって恐る恐る尋ねる。

 正直、どうせサズ子が何かやらかしたのだろうと思っていたので、こんなにサズ子が怒るとは思っていなかった。


「……槍と一緒に?」


 しかし、それを聞いた瞬間、サズ子は逆立てていた眉をピクリと動かすと、ガシッと乱暴にガントレットを掴んで凝視する。


「…………そんな事より、ずっと姿が見えなかったけど蒼は何処にいたの? 私、蒼のことをずっと心配してた」

「おい、誤魔化せると思うなよ。良いから、早く説明しろ」


 僕はサズ子に掴まれていたガントレットを無理矢理振り解くと、ぐわしっとサズ子の頭を掴む。


「あ、あいたたたたたたっ⁉ ガントレットの尖った部分がコブに当たって死ぬほど痛い⁉」


 サズ子は本気で涙目になりながら、僕の額にあるコブを何度も叩いてくる。


 ……あまりの痛さに、本気で泣くかと思った。

 しかし、僕はグッと涙を堪えながら、さも平然とした様子で話を続ける。


「よし、分かった。一時休戦にしよう。お前が事情を正直に説明してくれると約束するなら、僕はこの手を放す」

「話す! 話すから、放して!」

「交渉成立だ」


 サズ子があまりにもバンバンと額のコブを叩いて来るので、我慢の限界だった僕はサズ子が言い切る前にさっさと手を放して距離を取る。


 ……平静を装っているのに、それでも的確に何度も弱点を狙ってくるのだから、やはりコイツは最悪だ。

 僕はズキズキと痛むコブをさすりながら、僅かに掠れた声でサズ子に問う。


「それで、これは一体何なんだ」

「……それは、恐らく槍の素材になった私の別人格が勝手に作ったもの」

「は? 素材?」

「そう。その槍は私の身体から作られているから、私の魂を共有している蒼は本来なら私にしか行けない深い部分まで共鳴してしまったのかも知れない」


 僕はギョッとしながら、黒銀の槍を見る。

 確かに、槍の黒銀は蛇状態のサズ子の身体の色と酷似しているが……これが、サズ子の身体という事は、つまり……。


「何をそんなに驚いているかは知らないけど、人間は普通に動物の身体で衣類や武具を作る」

「じゃあ、これは人間が……?」

「……まあ、そんな感じ」

「お前は……それで、人間を恨んでいるのか?」

「それは関係ない。私は、お母様からそういう風に創られただけ。何度もそう説明したはず」


 サズ子は拗ねたようにそう言うと、一つの嘘も見逃さないといったように僕の目を真っ直ぐに見つめる。


「蒼。貴方は、その槍で何を見たの?」

「……サズ子の悪意」

「そう……感想は?」

「……すっげえ、怖かった」

「……でしょうね。だって、私は最悪だもの。私のことを恐れるのは当然だわ」

「ああ、僕もサズ子の言っている意味がようやく分かったよ。だから、僕はお前を必ず幸せにする」

「あっそ……うん? なんて?」


 途中から耐え切れなくなったように目を逸らしていたサズ子は、不意を突かれたように目を点にしながら僕の目を再び凝視する。

 僕は相変わらず天邪鬼なサズ子を安心させるように笑いながら、疑り深いコイツが存分に確かめられるように目を合わせてやる。


「お前が幸せを求めるのは、当然だ。あんな気持ちをずっと抱えたまま生きていくなんて、辛すぎるもんな。だから、僕はお前を幸せにしてやる。まあ、だからと言って、僕の身体を渡すつもりも、帰ることを諦めるつもりもないけどな」

「……じゃあ、もし私が幸せになるために、貴方には死んで貰わないと困ると言ったらどうするの?」

「その時は、お互いが幸せになれる方法を一緒に考えようぜ。僕達は対等なんだろ?」

「……ズルい答えね。それじゃあ、貴方は帰れるけど私は不幸になる。そうなった時に、貴方は私を見捨てて帰らないと言い切れる?」

「当たり前だ。僕は、お前を絶対に見捨てない。それに、もしそんな状況になっても、お前は全身全霊で僕の邪魔をするんだろ?」

「いや、するけど……最悪な答えだわ」


 サズ子は顔を伏せると、いつかの夜のように顔を僕の服に埋める。

 どうやら、今日は僕が枕代わりのようだ。


「本当に、最悪……今そんな事を言われたら、私はその時が来ても貴方を笑顔で見送るしかないじゃない」

「それじゃあ、僕も同じことをするよ。もし、サズ子は帰れるけど、その代わりに僕が帰れなくなったとしたら、僕も笑顔でサズ子を見送る」

「……引き止めてよ。馬鹿」


 サズ子は顔をあげると、たっぷりと悪意を込めて笑う。


「言っておくけど、蒼が見たのは、素材となった私の身体に残ってた悪意の残留思念に過ぎない。そうでなければ、蒼は今頃狂い死んでいる。本当の私は、もっと残酷で恐ろしくて……あり得ないくらい、しつこい。だから、元の世界に帰ったくらいで、私から逃げられるとは思わないでね」

「知ってるよ。だから、僕はお前が満足するまで逃げないさ。後が怖いからな」

「分かっていればいい」


 サズ子は満足そうな顔をすると、僕からそっと離れた。

 その顔に、涙の跡は見当たらない。

 どうやら、僕はまたコイツの嘘に騙されたみたいだ。


「……それじゃあ、いい加減にあそこにいる馬鹿をぶっ飛ばそう」


 サズ子は途端に鬱陶しそうな顔をすると、目の前にいるピンク髪の美少女を睨みつける。

 ……確かに、僕もさっきから彼女のことは気になってはいた。


「…………っ!」


 何故なら、ピンクの髪に露出の多い黒い服を着たその子は、僕が来た時からずーっと声にならない声をあげて大爆笑中だったからだ。


 それどころか、地面を転げ回り、床をパンパンと叩いては、堪え切れないといった風に再び地面を転げ回っているので、大きなお尻を包んだ短いスカートや開いた胸元から零れそうな豊かな胸がそれはもう大変な事になっている。


「——【千変万化】、大地よ、あの笑い転げているクソ女をぶっ殺せ!」


 サズ子が地面に手を付いてそう叫んだ瞬間、少女が転がっている地面の周囲から針山のように無数の棘が飛び出し、少女は一瞬串刺しにされたかのように見えた。


「……ぷっ! きゃっははははははははっ! あっぶなーい! あと百年は笑いが収まりそうにないんだから、ほっといてよもぉーっ! きゃははははははははははははははははははははははっ‼」

「そのまま、笑い死ね。この淫乱女」


 ……しかし、少女は一瞬で手元にあった鎌を引き寄せると、ちょうど棘が飛び出してくる場所に合わせて身体の下に鎌を滑りこませ、鎌越しに棘の上に乗ると再び腹を抱えて笑い出す。

 とても人間に出来る芸当とは思えないほどの、とんでもない神業だ。


「サズ子、あの子を知ってるのか?」

「……あれは、ドゥルジ。あの性悪女が持っていた鎌が、迷惑女の身体と魂を奪って人間の姿をしている」

「えっ⁉ じゃあ、あれはダイヤさんなのか⁉」

「元の肉体はそうだけど、今はドゥルジに弄られ過ぎて最早別人みたいなもの」


 僕はまじまじと、その少女の顔を良く見る。

 特徴的な困り眉、幼い顔立ち、オッドアイの瞳……サズ子の言う通り、どれを取ってもダイヤさんの容姿とは少しも結びつかない。


 しかし、唯一共通点があるとすれば……。


「その瞳……」

「きゃはっ☆ 可愛いでしょ~? 本当は黄昏色で統一しても良かったんだけど、瞳の色を変えるとスキルまで消えちゃうみたいだから、そのまま残してるんだよ☆ まあ、私は最強可愛いから、これもアリだよねぇー」


 ドゥルジという名の少女は瞳を歪めて嗤うと、見下したような目で僕を見る。


「ていうかぁ、人間如きが気安く私に話しかけないでくんなぁ~い? さっきから、視線が童貞臭くて気持ち悪いんだよ。ブサイク☆」


 突然向けられた剥き出しの悪意に、思わず怯みそうになるが……これくらい、サズ子の悪意に比べたら大したことない。

 すると、僕の隣でサズ子が怒ったように声をあげる。


「調子に乗るな、ドゥルジ。蒼は、お前よりも百倍可愛いぞ。そして、私はお前の五億倍可愛い」


「……お前、自分でそんな事を言って恥ずかしくないのか?」

「分かる。私には、とてもそんな図々しいこと言えないわ」

「キレそう」


 サズ子が額に青筋を浮かべながら、僕の肩をグーで殴ってくる。

 僕はそれをガードしながら、チラリと呆れたような顔をしたドゥルジに視線を向けた。


 あまりにもアレな発言だったので、思わずツッコんでしまったが……まさか、ドゥルジが賛同してくるとは思わなかったな。


 僕の視線に気が付いたのか、ドゥルジはまるで天使のような顔を歪める。


「お前、人間の割には面白いな。サズウェルに面と向かってそんな事を言える人間が存在するとは、思いもしなかったぞ」

「……どうも」

「蒼、ドゥルジと仲良くしない方が良い。アイツは、この港の船を全て燃やした放火魔」

「……分かってるよ。あの黒い炎は忘れられそうにない」


 僕は未だに港で激しく燃え逆っている黒炎を見ながら、天使のような顔を持った悪魔のように嗤う少女を睨みつけた。


「何でこんな事をしたんだ」

「理由なんて、決まってるわ。サズウェルに対する嫌がらせだ」

「サズ子、お前あの子に何したんだ」

「何もしてない」

「私との契約を破って、海へ投げ捨てただろう!」

「ああ、そういえば」

「よし、お前が悪いのは良く分かった」


 どうやら、相手が悪器であってもサズ子が最悪な事に変わりはないらしい。


「おい、ドゥルジ。取引をしよう。サズ子を謝らせるから、その身体を持ち主に返せ」

「はぁー? サズウェルが謝るわけないじゃない」

「サズ子」

「それだけは、絶対に嫌! 迷惑女はすでに死んでいるし、仮にアイツに謝ったところで問題は何一つ解決しない!」


 サズ子は断固拒否すると示すように激しく首を横に振ると、話を逸らすためか慌ててドゥルジに話を振る。


「それより、お前が船を燃やした理由は、嫌がらせは嫌がらせでも明確な狙いがあるな? それを話せ!」

「うーん、どうしようかにゃ~? サズウェルが、私との契約を破って海に捨てた事を誠心誠意謝罪するなら、教えてあげても良いんだけどにゃ~?」

「ぶち殺すぞ」

「へい、そこの人間☆」

「サズ子」

「いくら、蒼の言うことでも、これだけはぜっっっったいに嫌‼」


 本気で嫌そうな顔をしたサズ子が、懇願するような顔で僕を見る。

 うーん、ここまで嫌がるサズ子も珍しい。

 まあ、実際相手はサズ子と同じ悪器だし、サズ子を無理矢理謝らせたところで約束を守る保証もない。


「やっぱ、力づくか」

「実力行使に出るの早すぎ〜。これだから、童貞は困るにゃあ~」


 その瞬間、ドゥルジの身体が黒炎に包まれると、地面から飛び出た棘が瞬く間にドロドロに溶ける。


「まっ、どうせ殺すつもりだったから、別に良いんだけどね☆」

「ほら、コイツはこういう奴。だから、謝る必要なんてない」

「ああ、やっぱりお前達はそういう奴だよな」

「そこで複数形にした理由によっては、私は泣く」

「じゃあ、絶対泣くから理由は言わない」

「はい、病んだ」


 何故かいじけているサズ子を放って置いて、僕は戦闘態勢を整えると黒炎を纏ったドゥルジと向かい合う。


 それにしても、凄い悪意だ……こうして向かい合っているだけでも、自然と身体が震えてくる。


「……槍は、返した方が良いか?」

「ううん、それは蒼が持ってて。それに、ガントレットの事も気になる」

「……あれ? そう言えば、結局このガントレットがどういう物なのか聞けてないぞ?」

「正直、詳しい性能は私も分からない」

「はぁ⁉」

「来るよ。【千変万化】」


 その瞬間、足元の地面が急速に上に伸びる。


「【禍火】」


 すると、波のような黒炎が一瞬で僕達が先程までいた地面を飲み込む。

 それどころか、黒炎は伸びた地面を伝うと、僕達を逃がさないとばかりに追ってきた。


「蒼、【有翼の皮】で空を飛んで!」

「わ、分かった!」


 僕とサズ子は空気を蹴るように、空へと逃げる。

 すると、丁度そのタイミングで足元の地面を黒炎が包み込み、一瞬でドロドロに溶かしてしまう。


「あの炎は、触れたものを焼き尽くすまで消えない。だから、絶対に触れちゃ駄目」

「で、でも、そしたら、どうやって近づくんだ?」


 僕は真下に出来上がった、黒炎の海を見る。

 あの炎の中にドゥルジがいるはずなので、こちらからは手の出しようがない。

 このままでは、ジリ貧だ。


「ドゥルジの炎は強力だけど、唯一清浄な空気だけは燃やせないの。だから、このまま空中にいれば向こうも手は出せない」

「でも……」

「……蒼、海を見て」


 サズ子はそう言って、海の地平線を指差す。


「あの迷惑女は向こう側、つまり、第一海層がある方から来た海賊。これが何を意味しているか分かる?」

「……どういう事だ?」

「私は、ずっと疑問だった。何故、あの性悪女は私達を見逃したのか……恐らく、あの女はガイア黒海に居座って、第一海層にいる海賊達を次々と解放している」

「なっ⁉ 何でそんな事を⁉」

「そんなの知らない。ただ、あの迷惑女の狙いは間違いなく蒼だった。なら、このままだと——」


「そうだ。もうすぐ、祭りが始まるぞ。とびっきり狂った、海賊王の狂宴パイレーツ・パーティーがな」


 その時、背後の建物が炎に焼かれて倒壊したと思ったら、炎から生まれるようにドゥルジが飛び出してきた。


「キャハッ!」


 ドゥルジは狂ったように嗤いながら、満月を描くように鎌を回転させて僕の首を刈り取る凶刃を振るう。


「蒼、避けて‼」

「む、無理だ!」


 サズ子は本気で焦ったように叫ぶが、まだ飛ぶことに慣れていない僕は空中で避けるどころか、まともに動く事すら出来ない。


 槍を使って受けるしかない……っ!


「キャハハッ! 触れたな? じゃあ、死ね!」


 ガキィンッ! と火花が散るほど大きな金属音が響いた瞬間、鎌から黒い炎がほとばしり、槍を伝って僕の全身をあっという間に包み込む。


「蒼っ⁉」

「このまま、地獄の底まで落としてあげる!」


 僕はそのままドゥルジに首を掴まれ、まさに地獄のようになっている黒炎の海の中に叩き落とされた。


 しかし、黒い炎は見た目に反して全く熱くはない。

 それどころか……むしろ、その逆だ。


 僕の身体は、まるで氷漬けにされたように炎に包まれた瞬間から芯まで冷え切ってしまい、指先一つ動かなくなってしまった。


「お前が死んだら、サズウェルがどんな反応をするか楽しみで仕方ない! だから、早く死ね! 今すぐ死ね! 絶望しながら焼死しろ!」


 ドゥルジは本性を現したのか、まさに悪魔の如き表情で呪詛を吐きながら嗤い続ける。

 僕は寒さなのか恐怖なのか分からないが、ガタガタと震えるばかりで一向に動こうとしない身体を何とか動かそうともがくが……駄目だ! 身体が全く言うことを聞いてくれない!


 ガシャコンッ!


「は?」

「……っ! 吹き飛べ!」


 その時、右腕のガントレットから装飾の鱗が逆立つような音が聞こえる。

 ドゥルジが一瞬その音に気を取られた瞬間、僕は全身の力を振り絞り、何とか右手をドゥルジの腹部に向ける。すると、ガントレットから激流のような勢いで水銀が一気に噴射された。


「がぁ……っ⁉」


 ドゥルジは苦し気に呻くと、僕と共に吹き飛びながら海に落ちる。

 しかし、文字通り最後の力を振り絞った僕に泳ぐ気力などあるはずもなく、それどころか身体の感覚すら無くなりかけていた。

 その時——


「な——っ⁉」


 目の前にいたドゥルジが、驚愕の表情を浮かべながら僕を見る。

 不思議に思いながら身体を見ると、何と全身の黒炎がみるみる消えていたのだ。

 それに、どんどん身体に力が戻ってくる。


 そうか! 海の中だったら、この炎は効かないのか!


「何故、私の【禍火】が消えた⁉」

「海の中で炎が燃えるか! お前の力は、ここでは使えないみたいだな!」

「ふざけるなぁ! 私の炎は、絶対零度の中でだって燃え盛る獄炎だぞ‼」


 ドゥルジは再び全身に黒炎を纏うと、海の中を燃やしながら黒炎で僕を包む。

 しかし、黒炎が僕にいくら触れようとも、何故か僕の身体には弾かれたように炎が燃え移らないのだ。


「な、何でっ⁉」

「いい加減、観念しろ!」

「く、クソがぁっ! この私が、人間如きに負けてたまるかぁ‼」


 ドゥルジは全身に纏っていた黒炎を濃縮するように手のひらに集めると、まるでブラックホールのような真っ黒い球体を作った。

 僕の生存本能が、アレは不味いと全力で警鐘を鳴らす。


「塵も残さず焼死しろ! 【神怨の矢(ブラマダッタ)】‼」

「斬り裂け、【黒銀の槍】!」


 黒よりも黒い、漆黒の炎が線となって放たれる。

 僕は炎の線を中心から両断するように、槍を構えた。


 漆黒の炎が、槍に触れた瞬間——


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