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スーパーヒーロー(笑)

 私は何度も転びながら、恐怖から逃れたい一心で必死に走る。


 何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ……っ!


 あの悍ましい生物は、本当に何なのだ⁉


「うぷ……っ、おげぇぇええええええええっ!」


 その瞬間、先程見た光景がフラッシュバックしてしまい、耐え切れずに嘔吐してしまう。

 しかし、足は止めない。

 私は顔中汚物塗れになりながら、ただ生きるために走り続ける。


 ……あの時、あの女が私の目の前に来た瞬間、突然あの女の纏う雰囲気が変わったのが、肌で分かった。

 私は言い知れぬ不安から、あの女の運命を覗き見たのだが……気が付いた時には、私は自ら自分の片目を抉っていた。

 

 自分が一体、何を見たのかは分からないし、思い出したくもない。

 そもそも思い出そうとすると、自己防衛本能が働いているのか、その瞬間に頭が真っ白になり気付くと吐きながら走っている。


 ただ、確実に言えるのは、あの女は絶対にこの世のモノではない。


 それどころか、人間ですらない。

 この世界を滅ぼしに来た悪魔か、それに準ずるナニか……とにかく、マトモじゃないのだ。


「何故、あんな奴が平然と人間のフリをしてここにいる……っ!」


 私は港に着くと、船には戻らずに一直線に海を目指す。

 あの悪魔は、自分の正体を知った私を絶対に追ってくる。

 船なんかで、逃げては駄目だ。

 目立ち過ぎるし、何より私一人で出航の準備をするのは時間が掛かりすぎる。


 私は大きな音を立てながら泡と一緒に海に飛び込むと、身体を滅茶苦茶に動かして少しでも岸から離れようとみっともなく海の中をもがく。

 すると、目の前に黒いナニかが沈んでいるのを見つける。


 ——私を使え。


 それを見た瞬間、頭の中に力強い声が響き渡る。

 私はまるで伸ばされた蜘蛛の糸に縋るように、その黒いナニかを手に取った。



 ****************



「サズ子ぉぉおおおおおおおおおおおおっ‼」


 僕はここにはいない、あの最悪女に向かって魂の咆哮を上げる。

 何だ、このドラクエに出てくる呪いの装備みたいなヤツは⁉

 絶対これ僕の身体をどんどん侵食していって、そのうち意識とか乗っ取ってくるタイプの装備だろ⁉


「しかも、これ外れないし!」


 僕は何とかガントレットから腕を引き抜こうと引っ張るが、まるで腕と一体化しているかのようにジャストフィットしているせいで全く外れる気配がない。


「お、おい……」

「何だ⁉」


 僕がそれでも腕をガントレットから引き抜こうと必死に奮闘していると、横にいたアランさんが戸惑ったように声を掛けてきた。


「い、いや、何が起こったのか知らないが……俺は一応、お前をお嬢様の元に連れて行かなければならないから……その」

「今の状況が、見て分からないのか⁉ 僕にそんな暇はない‼」

「そう言われても、俺には何がなんだか……」


 アランさんは僕のあまりの剣幕に困惑しているようだが、冗談とかではなく本気で焦っている僕にそんなものを気にしている余裕はない。


 ……確かに、僕はサズ子を受け入れると決めたさ。

 しかし、だからと言って、僕にも帰りたい家はあるし、何としてでも超えたい人だっている。

 いくら受け入れるとはいえ、アイツに僕の身体を渡してやるつもりなんかサラサラない!


「……はぁ、事情は分からないが、俺だってあまり遅いとお嬢様に怒られてしまう。悪いが、無理矢理にでも連れ行かせてもらうぞ」


 アランさんは状況を理解する事を諦めたのか、砲台を再び構えると僕に向かって光の弾を放ってくる。


 僕がそれを咄嗟に槍でガードしようとすると、腕のガントレットから再び水銀のようなものが溢れ出し、僕を守るように光の弾を受け止めた。


「クソッ、一体それは何なんだ⁉ 何故、紅弾が効かない⁉」


 水銀がガントレットの中に吸収されるように無くなると、攻撃を防がれたアランさんは驚愕したような顔をしていた。


 ブチッ。


 ……コイツこそ、さっきから一体何なのだ?

 言っている事は訳が分からないし、何度も攻撃はしてくるし………ていうか、良く考えればコイツのせいでこの薄気味悪いガントレットを付けるハメになったのではないか。


 いくら、僕だって、いい加減キレるぞ。


「ていうか、もうキレた」

「は?」


 僕は一旦ガントレットを外すのを中断すると、黒銀の槍をアランさんに向ける。

 アランさんは一瞬呆けた顔をするが、僕が戦うつもりだと分かると慌てて砲台を構え直す。


「さっきから、危ねえんだよ‼ 僕が抵抗しないからって、あんまり調子に乗るなぁ‼」


 僕は構わず走り出すと、砲台からあの紅い光の弾が飛んでくる。

 僕は黒銀の槍を構え、刃で光の弾を斬り裂く。


 パァンッ! という風船が弾けるような音を立てながら、あっさりと光の弾は弾け飛んだ。


「な……っ⁉ ぐはぁっ!」


 しかし、僕は立ち止まらずに走りながら槍を回転させると、怒りのままにアランさんの横顔を柄の先端で思いきりぶん殴る。

 すると、アランさんは顔面を変な風に歪めながら吹き飛び、高台の柱に頭をぶつけるとそのまま気絶してしまった。


「……はぁ、駄目か」


 僕はアランさんを片付けた後、再びガントレットから腕を引き抜こうとしながら、何度も外れろと心の中で念じるが……駄目だ、一向にガントレットが外れる気配はない。

 戦闘が終わればガントレットも外れるのではないかという僕の淡い期待は、残念ながら外れてしまったようだ。


 ——ガントレットは外れないのにね。


 その瞬間、何故か頭の中でドヤ顔のサズ子にそう言われた気がした。


「……良し、アイツをぶっ飛ばして外させよう」


 僕は少なくとも一発ぶん殴ると心に誓いながら、サズ子の元に向かうために高台から街へ下りようとする。


 ガチャコン——ッ!


「うん?」


 その時、突然鱗が逆立つようにガントレットの一部がズレて隙間のようなものが出来る。


 ……何だろう、凄く嫌な予感が。


 僕が冷や汗を流しながらガントレットを見つめていると、次の瞬間、物凄い勢いでガントレットの隙間から水銀が噴射された。


 あまりに激しい勢いのせいで肩の関節が外れそうになりながら、弾かれたようにガントレットは上を向くと、僕はガントレットに引っ張られるようにそのまま空高くへと打ち上げられる。


「って、うぇぇええええええええええええええええええええっ⁉」


 僕はただでさえ街が一望できる高台に居たのに、最早島が一望出来る位置まで来ると、再びガントレットから港の方に水銀が噴射され、アンパンが主人公のアニメのように、拳を突き出しながら港の方まで一直線に飛んで行く。


「だ、誰かぁーーーーっ‼ 助けてくれぇぇええええええええええええええっ‼」


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