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祭りの始まり


「ここだ」


 そう言って、アランさんに案内されたのは街を一望出来る高台だった。

 しかし、ダイヤさんの姿は何処にも見えない。


「あの、アランさん? ダイヤさんがいないようなんですけど……」

「ああ、そうだな。だが、すぐに連れて行ってやるさ」


 その瞬間、全身に鳥肌が立ち、今すぐにでもその場から飛び退かなくてはいけない気がした。

 僕は本能に逆らわず……とういか、逆らうという選択肢がまるでないかのように、そのまま思い切り地面を蹴る。


「ほう。勘がいいな」


 すると、同時に背後から地面が爆ぜるような爆発音がした。

 僕が慌てて後ろを振り向くと、先程まで僕が立っていた場所からは大きな穴が空いている。

 いや、それどころか……。


「アランさん、その腕……」

「何だ、見るのは初めてか? これは、【機血外装(レッド・マーダー)】。所有者の血をエネルギーに変換する【漂流物(カデラ)】だ」


 アランさんの腕は、まるで機械が腕を取り込んでしまったように巨大な砲台が身体と一体化していた。

 ……まさか、あの砲台で僕を撃ったのか?


「何で……」

「悪いな。これも、お嬢様の命令だ。手足の一本くらいは吹き飛ぶかも知れないが、恨まないでくれ」

「いや、手足どころか指の一本でも吹き飛んだら恨みますよ」

「それもそうか。では、存分に恨んでくれていい」


 そう言って、アランさんは巨大な砲台を僕に向ける。


「……どうやら、向こうも始まったみたいだな」


 その瞬間、街から先程とは比べ物にならない程の大轟音が街中に響き渡る。


「なっ⁉︎」


 僕はアランさんを警戒しながら横目で街を確認すると、遠目からでも分かるほどの大きな煙が港の方から立ち上っている。


「あ、アレも、アランさん達がやったんですか⁉︎」

「私と言うよりも、全ての元凶はお嬢様だ。何故なら、お嬢様は……海賊なのだからな」

「か、海賊って……でも、ダイヤさんは船に……」

「お嬢様は、元公爵家の跡取りだ。当然、隠蔽魔法だつて所持している」

「で、でも、じゃあ、アランさんは何故ダイヤさんを捕まえなかったんですか!」

「お嬢様を捕まえるだと?」


 アランさんはそこで、初めて僕を見下すように失笑する。


「お嬢様を捕まえる事など出来ないさ。何故なら、お嬢様には運命が見えているからな」

「運命って……じゃあ、本当にダイヤさんは」

「話はここまでだ。早くしなければ、お嬢様に怒られてしまう」


 アランさんの腕と一体化した巨大な砲台が真っ赤な光を発したと思うと、次の瞬間、物凄い勢いで紅い光の弾が僕に向かって飛んでくる。

 僕は、それを——



 ****************



「お嬢様のスキルを知っているだと? だから、どうしたと言うのだ。そんな事は、私だって知っている」


 ナンパ男はそう言って、腕を馬鹿みたいに大きい機械の砲台に変化させた。

 どうやら、この男は機血外装を身体に埋め込んでいるみたいだ。


「そんなオモチャで、何をするつもりなの?」

「ギメイ、君はどうやら危険なようだ。ここで、死んでもらう」

「ふーん。でも、このままじゃあ、貴方もこの街も終わりよ」

「なに?」

「私は、ずっと気になっていた。あの女と初めて出会ったのは、ここに来る船の上。でも、あの女は最初隠蔽魔法で姿を消していたわ」

「……隠蔽魔法だと? 確かに、公爵家の子女であるお嬢様は隠蔽魔法を所持しているが、隠蔽魔法で姿を消していたなら、お前にお嬢様を見つけられるはずないだろう。下手な嘘はやめろ」

「いいから、話を聞け。私が気になったのは、隠蔽魔法を所持していた事なんかじゃない。何故、田舎が嫌で旅をしていたはずの迷惑女が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 普通、第二海層(ここ)から飛び出したいなら海層渡りをして第三海層を目指すだろう。だって、ここより下の海層には第一海層、つまり、大罪を犯した犯罪者を捨てるゴミ捨て場しか存在しないのだから」

「……」

「ここから、導き出せる答えは一つ。アイツは、旅に出た箱入り娘なんかじゃない。第一海層に落とされた、ただの犯罪者だ」

「……そこまで分かっていながら、何故お嬢様から逃げ出さなかった」

「逆に聞くが、お前は蝿が近くを飛んでいるからと言って、邪魔だから払うのではなく逃げるのか?」

「大した自信だ。だが、お前はお嬢様の本当の恐ろしさを知らない……お嬢様は、第一海層に落ちたのではなく、自ら望んで落ちたのだ」

「へぇ、自分からゴミ箱に入る人間は初めて見た」

「そうだ。お嬢様は、普通じゃないんだ。自らの運命に失望したお嬢様は、破滅願望とも呼べるような気まぐれで、簡単に道を踏み外す。お嬢様は、自身のスキルで自分が第一海層に落ちても戻って来れる事を予め知っていた。だから、これは必然なのだ。私達に出来る事はただ一つ……あの化け物が、この街から興味を失い何処かへ去るのを待つことのみ」


「——お前はそうやってずっと逃げ続けるから、いつまでもあの女に見下されるんだ」


 まるで、悲劇のヒロインみたいな顔をしたナンパ男に間髪入れずにそう言ってやると、ナンパ男は唖然とした顔をする。


「お前は知らない。いや、目を背けているだけだ。あの女が、どうやって第一海層から海軍基地本部を抜けてきたと思う?」

「それは……スキルで、運命を見て……」

「その程度で抜けられるほど、あそこの小娘は弱くはなかった。むしろ、あの程度の奴が海軍基地本部を抜けるなんて、本来は不可能」

「だが、実際にお嬢様は海軍本部基地を抜けて、この街に来ているじゃないか……っ!」

「そう。だから、明らかな異常事態が起こっている。最悪な異常事態が」

「最悪な異常事態……だと?」

「調べれば、すぐに分かるはず。私の予想が当たっていれば、すでに喉元まで来ているぞ……あの最低最悪な、性悪女が」



 ****************



 名前 ダイヤ・クロムハーツ 所属 ガルバンディア

 筋力 5.14 体力 3.10 魔力 36.00 体術 15.73

 スキル 「運命の瞳」

 魔法 「鑑識魔法」「言語魔法」「風魔法」「光魔法」「隠蔽魔法」


「見つけた」


 私は逃げ惑う人の中を縫うように逆走しながら、ガラの悪い人間に囲まれている迷惑女を見つける。


「あら、サズ子様。蒼様とは一緒じゃありませんの?」

「蒼の居場所を知って、どうするつもり?」

「別に、どうもしませんよ。ただ、この街を出る前に挨拶をしようかと」

「ふーん。じゃあ、別に教える必要はないみたい」

「あら、何故でしょう? 短い間とは言え、一緒にご飯を食べた仲ではありませんか」

「理由? そんなの、簡単よ」


 私は、とびきりの笑顔を迷惑女に向けてあげる。

 迷惑女はそれを見て、初めてその気に入らない微笑みを崩した。

 きっと、私のあまりの美しさに目を奪われているに違いない。


「お前は、ここで終わりだからだ」


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