決めつける女
リアティスは湯上りの汗ばんだ体に、手扇でパタパタと風を送り込んだ。
「いいお天気です事。絶好の野宿日和ですわ」
リアティスはのんびりと言葉を紡ぐと、体勢を崩した。リラックスしたしどけない形をとる。
暫しのんびりとしていたリアティスだったが、近くで草を踏む音を耳に捕らえると、体勢を立て直した。
視線を音のした方向へ向ける。茂みをかき分ける音がして、中背の武骨な容貌の男…オルソンが姿を現した。
「ロック!!」
リアティスがロードリックを呼び叫ぶ。声は緊迫しており、いつもの余裕が感じられなかった。
草むらから現れたオルソンは身なりが良く、王都でもそう低くはない役職にありそうだった。
リアティスは瞬時に、頼りなげな姫君のベールを被る。突然現れた男の姿に驚き、怯える演技は、痛々しくも可憐に美しかった。
「これは、噂にたがわぬ美しい姫君だ」
リアティスは近づくオルソンから逃げるように立ち上がった。数歩後ろへとよろめく。
オルソンの声は低くはなかったが、どこか嗜虐的な響きが籠っていた。
「だが私にはあなたの魅力は通じない 」
オルソンはそう言うと、手を差し伸べながら逃げうつリアティスに近づいて行った。
「女には興味は無いのでね。大人しく従った方が良い」
「まあ!なんとホモ?!」
頼りなさの仮面を剥ぎ棄てて、リアティスが大声で叫んだ。
その雰囲気の違いと、発せられたとんでもないセリフに、オルソンの気勢が一気に削がれる。
「なにを馬鹿な事を言っている?!」
そう怒鳴りながら、ロードリックが腰に布を一枚撒いただけ状態で駆けつけてきた。取り敢えず間に合わせたという姿だ。
リアティスを庇う様に前に出ると、リアティスが後ろ手に隠し持っていた長剣を受け取る。
「なるほど。貴様が駆け落ちの相手か。なかなかの色男だな」
「………とうとうそんな噂にまで」
オルソンがロードリックの全身をジロリと眺め、にやりと笑う。言われた内容に、ロードリックはポツリと呟いた。
誘拐犯+暗殺者の嫌疑の方が数倍ましな気がするのは、相手がリアティスだからだろう。
「ロック!お気をつけあそばせ!そんなあられもない姿では、負けたら最後、オカマを掘られましてよ!乗っかられますわ!」
落ち込むロードリックに発破をかけるようにリックアティスが叫んだ。言われた内容にギョッとした表情を浮かべたオルソンは、ムキになって言い返そうとする。
「誰がそんな事…!」
(事の真意はともかく)
「意地でも負けられん」
悪寒と共に、ロードリックが剣を構えた。
「アンタも本気にするな!」
「女役の方でしたの?!でしたら逆強姦?!」
「違う!!」
すっかりペースを乱され、オルソンは顔を真っ赤にして喚いた。完全に冷静さを失っており、リアティスの茶々入れに気を取られた結果、ロードリックが間合いを詰めていた事に気付かなかったのが不運だった。
いや、そもそもの、最大の不運は、リアティスに関わった事だろう。
「うっ…」
油断に気付いた時、オルソンはロードリックに当て身をくらいその場に倒れ込んだ。
「冷静さを失っては、勝負は負けですわ」
気を失い横たわるしオルソンを見下ろし、リアティスはにっこりと楽し気に笑った。




