第7話:炎神の盾と、王の影
「おいおい、このガキが聖騎士団長を救った名匠だって? 冗談が過ぎるぜ」
工房『神鋳』の静寂を破ったのは、豪奢な毛皮をまとった大柄な男、ガラハドだった。彼は王都の武器職人ギルドの副会長であり、宮廷お抱えの最高位鍛冶師でもある。
その後ろには、腕組みをした一人の大男がいた。王都に三人しかいないSランク探索者の一角、『不動のジーク』。彼は自身の代名詞である大盾の打ち直しを求めて、この工房を訪れていた。
「無許可の路地裏職人が、宮廷の鉄を愚弄するな。小僧、お前のペテンをここで暴いてやる」
ガラハドの傲慢な怒声が響く。しかし、カナタは視線すら向けず、静かに火床の温度を上げていた。
「うるさいな。鉄が冷めるだろ。ジークさん、あんたの盾、今から神の領域に変えてやる。黙って見てな」
「ほう……面白い。やってみろ、少年」
ジークが低く笑う。
カナタはライルたちから没収した魔剣の残骸と、ジークが持ち込んだ特級鉱石『緋炎岩』を火床へ投げ入れた。そして、『神鋳の金槌』を握り、深く息を吸い込む。――『神の呼吸』。
彼の身体を巡る精神力が一変し、無駄のない純粋な熱量へと昇華される。
カァン――!!!
一撃。それだけでガラハドの顔から余裕が消えた。音が違う。金属の分子が、少年のハンマーに平伏するように形を変えていく。
「な、何だその手さばきは……!? 術式を打たずに、魔力を鉄に直接編み込んでいるというのか!?」
ガラハドが驚愕の声を上げる中、カナタは金槌を猛烈な速度で振り下ろし続けた。
火花が竜の顎のように舞い上がり、融解した紅蓮の鉄が、一枚の圧倒的な大盾へと収束していく。神の設計図が、カナタの脳内から鉄へと直接転写されていく。
カァン、カァン、カァン――!!!
【錬成完了:神器レシピの完全再現を確認】
【ランク・神話:『炎神の魔障壁』が誕生しました】
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【製品名:炎神の魔障壁】
・種別:大盾
・品質:神話級
・特性:『絶対不熔』『焔の反撃』
【装着者限定効果】
ジーク・バルフレアが装備時、物理防御力+300%。
敵から受けたあらゆる「熱・炎属性」の攻撃を、
威力を倍加させて周囲の敵へと自動放射する。
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完成した大盾は、まるで内側に本物の太陽を宿しているかのように、静かに、そして禍々しく紅く拍動していた。
ジークはその盾を手に取った瞬間、全身に走る全能感に目を見開いた。
「……素晴らしい。私の命を何度預けても足りん。ガラハド、お前の造る『一級品』が、ただの玩具に見えるほどだ」
「あ、あり得ん……こんなものが、人間の手で……」
ガラハドは自身のプライドを粉々に砕かれ、這うようにして工房から逃げ出した。
ジークが満足げに金貨の袋を机に置いたその時、工房の隅の『影』が不自然に揺らめいた。
現れたのは、漆黒の装束に身を包んだ王宮の密偵(隠密)だった。ジークが瞬時に身構えるが、密偵はカナタの前で静かに跪き、一枚の羊皮紙を差し出した。
「神鋳の鍛冶師、カナタ・クロス殿。――国王陛下より、極秘の伝令でございます」
エレナの指輪に宿る「奇跡の力」は、ついに最高権力者である王の耳にまで届いていた。
「今宵、王宮の最深部にて、陛下が貴殿との『単独謁見』を望まれております。この国の運命を揺るがしかねない、その神格の技術について……直接お言葉を交わしたいとのこと」
カナタは届けられた王の親書を手に取り、静かに微笑んだ。
「断る理由はないさ。俺の鉄が、どこまで世界に通用するか試すだけだ」
格差の底辺にいた荷物持ちの少年が、今や国の頂点すらも動かそうとしていた。




