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第5話:不壊の白銀と、白日の裁き

迷宮の静寂の中、再び槌音が鳴り響く。

カナタはエレナの白銀の胸当てを火床に据え、『神鋳の金槌』を正確に振り下ろした。


ただ叩くのではない。金属の結晶構造を『万物鑑定』で見極め、ひび割れた魔力回路を一本の糸のように繋ぎ直していく。彼の指先から放たれる熱量が、冷たい白銀を生き物のように脈動させた。

その流麗な手さばきは、若き職人のそれではなく、何百年も鉄と生きてきた名匠の姿そのものだった。


【条件達成:国宝級防具の完全修復を感知】

【『神鋳の金槌』の封印解除率:0.50% ⇒ 1.20%】

【固有能力『神の呼吸(LV1)』が覚醒しました】


==================================================

【固有能力:神の呼吸(レ気・LV1)】

・効果:鍛造時、および戦闘時の「精神力(MP)消費量」を30%削減する。

・詳細:呼吸を世界の脈動と同調させ、無駄なエネルギーの拡散を極限まで抑える。

==================================================


「……完璧だ。元の性能以上になってる」

渡された胸当てを身につけたエレナは、その軽さと、全身を巡る圧倒的な防御結界の密度に息を呑んだ。


「君という男は……。よし、地上へ戻ろう」


二人は迷宮の出口へと向かう。だが、光が見え始めた最上層の通路で、カナタの鑑定眼が『不自然な影』を捉えた。


「――そこか」


影から飛び出してきたのは、黒い布で顔を覆った男だった。ライルが放った斥候スカウトの隠密。カナタの生存を確かめ、口を封じるために送られた刺客だ。

男の短剣がカナタの喉元へ迫る。しかし、今のカナタには『影穿ちの小刀』があった。


「遅い」


カナタは瞬時に小刀を抜き、男が踏み込んだ『影』を地面ごと突き刺した。

「なっ、身体が……動か……!?」

特性『影縫い』。完全に動きを止められた刺客の首元へ、カナタは『微光の業物』の切っ先を静かに突きつけた。


「ライルに伝えな。――今から、そっちに行くってな」


恐怖に顔を歪ませる刺客を蹴り飛ばし、カナタはエレナと共に、陽光の降り注ぐ地上へと足を踏み出した。


――冒険者ギルド・王都支部。

昼下がりの酒場は、多くの探索者たちで賑わっていた。その中心にいたのは、新しい前衛を勧誘し終え、安堵の表情を浮かべていた『暁の剣』のリーダー、ライルだった。


「これで一安心だな。あのゴミ(カナタ)が戻る場所なんて、もうこの街には――」


その言葉が、完全に凍りついた。

ギルドの大扉が乱暴に開き、二人の人物が姿を現したからだ。


一人は、煤に汚れながらも、底知れない光を瞳に宿した少年、カナタ。

そしてもう一人は、傷一つない白銀の甲冑を纏った、この国で最も気高き聖騎士、エレナ。


「な、長剣の荷物持ち……!? なんで生きて……」

ライルの声が裏返る。周囲の冒険者たちも、聖騎士団長の突然の降臨と、その後ろを歩く「無能」と呼ばれた少年の姿に騒然となった。


エレナはギルドの受付カウンターへ歩み寄り、冷徹な声を響かせた。


「ギルド長を呼べ。ここにいるパーティ『暁の剣』の罪状を告発する。彼らは迷宮深層にて、重大な規約違反――『仲間の意図的な置き去り(囮行為)』を行った」


「な、何を言うんですかエレナ様! そいつはただの嘘つきの荷物持ちで――」

ライルが必死に弁明しようと一歩前に出た瞬間。


エレナの白銀の鞘が、ライルの首元へ電撃のように突きつけられた。凄まじい威圧感がギルド全体を支配する。


「黙れ。このカナタ殿は、私の命の恩人であり、国家の至宝たる鍛冶師だ。貴様らの汚れた口で、その名を呼ぶことすら許さん」


静まり返るギルドの中で、カナタはライルたちを見下ろし、静かに、しかし冷酷に微笑んだ。

格差はすでに、覆しようのないほどに開いていた。

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