↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第4話:価値の天秤と、焦燥の足音

「あり得ない……」


エレナは自身の白い肌を見つめ、愕然と呟いた。

内臓を焼き、命を蝕んでいたはず de 剛殻百足の猛毒が、完全に霧散している。すべては、この少年が与えてくれた青い指輪の力だ。

王都の最高位司祭ハイ・プリーストですら数日を要する大奇跡が、一瞬で成し遂げられていた。


彼女の視線の先で、カナタは煤けた金槌を懐に収め、息を整えている。


「傷は塞がったみたいだな」

「君は……一体何者だ? その技術、そしてこの指輪の術式。国家機密級、いや、失われた神代の遺物アーティファクトの領域だぞ」


エレナの鋭い眼差しがカナタを射抜く。しかし、カナタの心は微塵も揺るがなかった。


「ただの元・荷物持ちさ。あんたたち『輝かしい上層階級』が、見捨てていったゴミの一人だよ」

「っ……」


言葉の重さに、エレナは気圧される。カナタは彼女の壊れた白銀の胸当てを指差した。


「その甲冑の修復、俺が引き受けてもいい。ただし、タダじゃない」

「交渉、か。いいだろう。聖騎士団長の名において、相応の報酬を約束する。金貨五十枚でどうだ?」


金貨五十枚。一般の平民が数年は遊んで暮らせる大金だ。だが、カナタは鼻で笑った。


「その指輪で命を拾い、さらに国家宝物級の防具を新品にする。その価値が、たったの金貨五十枚か? 舐められたもんだな」

「では、いくらを望む」


「金貨百枚。それに加えて、地上に戻った後、俺の『身分』と『工房』の登記を全面的にバックアップしろ。王都の貴族や商会から、俺の技術を隠すための後ろ盾(盾)になってもらう」


エレナは息を呑んだ。この少年はただの職人ではない。自身の技術がもたらす「危うさ」と、政治的な価値を完璧に理解している。


「……面白い。その条件、全面的に受け入れよう。私の誇りに懸けて」


二人の間で、目に見えない契約の天秤が釣り合った瞬間だった。


==================================================

【対等契約の締結:聖騎士エレナ】

・獲得予定報酬:金貨100枚 & 王都における『特権保護権』

・修復対象:『白銀の聖騎士胸当て(破損・劣化)』

==================================================


――その頃、迷宮の地上階。冒険者ギルドの片隅で、乾いた悲鳴が上がっていた。


「おい、冗談だろ……!? なんであいつの『命の灯火ソウルシグナル』が消えてねえんだよ!」


机を激しく叩いたのは、カナタを囮にして逃げ延びたパーティ『暁の剣』のリーダー、ライルだった。

ギルドの水晶板に表示されたメンバーリスト。最下層に配置された【カナタ・クロス】の文字は、灰色に染まる(死亡)ことなく、不気味なほど鮮やかな青色(生存)を維持していた。


「深層に置き去りにしたのよ!? 生きているはずがないわ!」

魔法使いの女が顔を青ざめさせる。


もしカナタが地上に戻り、自分たちが彼を意図的に囮にしたことが発覚すれば、パーティは追放処分の刑に処される。それどころか、犯罪者として投獄される可能性すらあった。


「チッ……クソが! 運良くどこかの空洞に隠れてやがるんだ。おい、今のうちに別の前衛を雇うぞ。あいつが戻ってくる前に、俺たちの『正当性』をギルドに証明しちまえば勝ちだ」


焦燥に駆られるライルたちの声は、震えていた。

彼らはまだ知らない。

自分たちが切り捨てた「無能」の少年が、すでに国の最高権力者の一人を従え、世界の常識を根底から鍛え直そうとしていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。