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第2話:モテモテさくら

――シーン1:女子高生の「聖域」――


「……ふぅ。やっと着いた……わ」


下駄箱から教室までの短い距離でさらに二通のラブレターを受け取り、三人の運動部主将から勧誘を受けた。俺――白雪しらゆきさくらは教室の自分の席に倒れ込むように座った。


「お疲れ、さくら。今日も朝から大盛況だね」


隣の席の佐倉さくらゆきなが、ニヤニヤしながら筆箱を広げている。


「笑い事じゃ……ないわ。みんな私の顔しか見てない……もの。中身が元・男子バレー部エースだって知ったら、腰を抜かす……に決まってるわ」


「あはは!その『……わ』とか『……わよ』を付け足す喋り方、必死すぎて逆に萌えるわ。もっと頑張れ、お姫様」


ゆきなは俺の銀髪を一房指で弄りながら面白がっている。

この教室は表向きは女子高生の平穏な学び舎だが、俺にとっては「いつ化けの皮が剥がれるか分からない」戦場だ。


――シーン2:嵐の予感――


「おーい、席に着け。今日は転入生を紹介するぞ」


担任の呼びかけに教室がざわめく。

女子校ではないが、このクラスに新しい風が吹くのは珍しい。


「……え」


教室に入ってきたその姿を見て、俺の心臓がドクンと跳ねた。

今朝、校門で見かけたあの男だ。


「一ノ瀬久遠いちのせ くおんだ。よろしく」


短すぎる自己紹介。一ノ瀬は窓際の空いている席――つまり俺の斜め後ろの席へと歩き出した。

すれ違いざま、彼からかすかに石鹸のような清潔な香りがした。


「一ノ瀬くん、カッコいい……」

「クール系だね、ヤバい……」


女子たちのささやき声が広がる中、一ノ瀬は一度も周囲を見ることなく席に着いた。

だが、俺には分かった。

彼が椅子を引く瞬間、わずかに視線が俺の「銀髪」をなぞったことを。


――シーン3:五十嵐先輩の急襲――


休み時間になった途端、教室のドアが勢いよく開いた。


「白雪さくら! どこだ!」


地響きのような声と共に現れたのは、女子バレー部部長の五十嵐蘭いがらし らん先輩だった。ブレザーの上からでも分かる鍛え上げられた肩幅と圧倒的なオーラ。


「ひっ……! は、はい……。あ、あら、五十嵐先輩……。ごきげんよう?」


俺は慌てて「女子モード」のスイッチを入れる。


「ごきげんよう、なんてガラじゃないだろ! お前の運動神経、噂で聞いてるぞ。昨日の体育の授業、バスケで男子顔負けのダンク決めたってな!」


「そ、それは……つい体が勝手に……」


元男子の血が騒いでしまった結果だ。マズい。


「お前みたいな逸材、帰宅部で腐らせておくのは国家的な損失だ! 今すぐバレー部に来い!」


「い、嫌よ……。私は……その、もっと女の子らしいことが……したいの」


嘘だ。本当はネットを挟んでボールを叩き込みたくてウズウズしている。だが、如月きさらぎ博士からは「あまり目立つ身体能力を見せるな」と釘を刺されているのだ。


「問答無用だ!」


五十嵐先輩が俺の手首を掴もうとした、その時。


「……嫌がってるだろ」


冷たくて低い声が割って入った。


――シーン4:一ノ瀬久遠の眼差し――


いつの間にか一ノ瀬久遠が俺と先輩の間に立っていた。


「……何だ、お前は。一年か?」


五十嵐先輩が眉をひそめる。


「嫌がってる女子を強引に誘うのは部活じゃなくて拉致だ。そうだろ白雪さん」


一ノ瀬が振り返って俺を見た。

その瞳は、俺を「学校一の美少女」として崇めている他の男子とは明らかに違っていた。

もっと深く俺の「本質」を探るような鋭い光。


「あ……えっと……」


ドクン。

心臓がまた変なリズムを刻む。

これは元男子としての「強敵への警戒」なのか? それとも、この体が勝手に反応している女子としての鼓動(フェミニン・パルス)なのか?


「……ふん。今日はここまでにしてやる。だが諦めないぞ!」


五十嵐先輩は一ノ瀬を睨みつけると、嵐のように去っていった。


「助かった……わ。ありがとう、一ノ瀬くん」


俺は精一杯の「女子の微笑み」を一ノ瀬に向けた。

だが、彼はあたしの笑顔を一瞥するとボソリと呟いた。


「無理に笑わなくていい。……あんた自分を騙して(・・・・・)生きてるだろ」


「……え?」


凍りついたあたしを置いて、彼は教室を出て行った。

ゆきなが隣で「……あいつ、何者?」と絶句している。


俺は震える手で、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。

隠しているはずの「俺」を、出会ったばかりの彼に見透かされたような――。

最悪で、けれど不思議と目が離せない、恋のあるいは事件の始まりだった。


(次回予告)

一ノ瀬久遠の言葉に動揺するさくら。

彼は事故の真相を知っているのか? それとも……。


そんな中、放課後の旧校舎で、さくらは「見てはいけないもの」を目撃してしまう。


次回、第3話「女子トイレの境界線」

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