第21話:禁じられた術式
――シーン1:崩れゆく器――
燃え盛る白雪本邸。崩落する瓦礫の音を聞きながら、あたし――白雪さくらは冷たい大理石の床に倒れ伏していた。
「……あ、つ……い。身体が燃えてるみたい……っ」
指先からパチパチと漏れ出す銀色の電光。それはもはやあたしの意思では制御できず、周囲の酸素を焦がし、あたし自身の細胞を内側から焼き切ろうとしていた。
精神の「完全統合」によって引き出された異能は、人間という器にはあまりにも重すぎたのだ。
「さくら! しっかりしろ、今ここから連れ出してやる!」
キルスイッチの激痛に耐え、ボロボロになった久遠があたしを抱き上げる。彼の腕の温もりが心地よいはずなのに、今のあたしにはそれさえも氷に触れたかのように熱く感じられた。
――シーン2:宿敵との再会――
久遠があたしを連れて向かったのは、警察でも病院でもなかった。
月明かりに照らされた郊外の荒野。そこにぽつんと佇む移動式の極秘ラボ。
そこにいたのは、白衣を血で汚し、狂気と歓喜の入り混じった瞳で待っていた如月博士だった。
「……来たか久遠君。そして私の最高傑作」
「博士、さくらを助けろ! このままだとこいつの身体が持たない!」
久遠が博士の胸ぐらを引き寄せ、銃口を突きつける。だが博士は動じず、あたしの銀色の瞳を陶酔したように見つめた。
「助ける? 違うよ。これは『進化』の過程だ。だが、確かに今のままでは彼女の脳が焼き切れる。……救う方法はただ一つ。『禁じられた術式』を起動するしかない」
――シーン3:魂の等価交換――
「プロトコル・ゼロ……? 何なんだ、それは」
久遠の問いに、博士は不敵な笑みを浮かべた。
「彼女の過剰なエネルギーをバイパスし安定させるための『外部演算装置』が必要だ。……平たく言えば、もう一人の人間の脳を彼女のシステムに直結し負荷を肩代わりさせる。……当然、その提供者は一生を彼女の『影』として自我を失ったまま過ごすことになるがね」
あたしは意識が遠のく中で、その言葉を聞いていた。
(……だめ、久遠くん。そんなのあたし……許さない……わ)
「俺がやる」
久遠の声に迷いはなかった。
「久遠くん……っ、やめて……! あたしの、ために……あなたまで、人形に……ならないで……!」
あたしは震える手で彼の服を掴もうとしたが力が入らない。
久遠はあたしの額にそっと唇を寄せ、悲しいほど優しい笑顔を見せた。
「さくら。……あんたが『俺』だった頃、あの日、あんたはさくら(彼女)を守れなかったことをずっと悔やんでいただろう? ……俺も同じだ。今度は俺にあんたを守らせてくれ」
――シーン4:暗転する意識――
「オペを始めるよ。愛という名の残酷な結合をね」
博士の冷たい声と共に、あたしと久遠は隣り合う手術台へと固定された。
無数のケーブルがあたしたちの頭部に接続されていく。
「さくら、愛してる」
それが、あたしの記憶に残る久遠の最後の「言葉」だった。
視界が白く染まり、巨大な電流があたしの中を駆け巡る。
久遠から流れ込んでくる、冷たくて、けれど深い安らぎに満ちた意識の奔流。
あたしの身体を焼いていた熱は引いていき、代わりに、あたしの心の一部が永久に欠落していくような喪失感に襲われた。
(久遠くん……久遠くん!!)
心の中で叫んでも、隣にいるはずの彼の気配は霧のように消えていく。
あたしは救われた。
引き換えに、あたしを愛してくれた唯一の少年の「魂」を失って。
目が覚めた時、あたしの隣にいたのは、虚空を見つめたまま何も喋らない、精巧な人形のような「彼」だった。
次回予告
一命を取り留めたさくら。
しかし、隣にいる久遠は、もはや彼女を「さくら」と呼ぶことはない。
博士の野望は最終段階を迎え、
自我を失った久遠が、さくらを捕らえるための「最強の兵器」として立ちふさがる!
次回、第22話「操り人形のワルツ」
あなたの瞳に、あたしはもう映らないの?




