第20話:白雪家の闇
――シーン1:冷徹な門構え――
深夜の森を抜けた先に現れたのは、時代から取り残されたような巨大な洋館――白雪本邸だった。
あたし――白雪さくらは、久遠の肩を支えながら、その威圧的な鉄門を見上げていた。
「……ここが、あたしの家? 笑っちゃうわね。一度も足を踏み入れたことがないのに、懐かしくて吐き気がする」
脳裏にフラッシュバックするのは、あたしの記憶ではない。この肉体の持ち主であった「さくら」が、分家の子として本家へ挨拶に来た際、冷遇された時の屈辱的な感情だ。
肉体に刻まれた怨念が、あたしの今の意識をさらに鋭く研ぎ澄ませていく。
「さくら……無理をするな。俺の身体は、まだ動く」
久遠の声は掠れていた。征一郎に告げられた「キルスイッチ」の影響か、彼の呼吸は浅く、時折ひどい痙攣が腕を襲っている。 shadow、彼は銃を捨てず、あたしの隣を歩き続けていた。
――シーン2:血のアーカイブ――
館の内部は、静寂と死の匂いに満ちていた。
あたしたちを迎えたのは、武装した使用人たちでも、逃げ惑う親族でもなかった。
無数のモニターと、培養液で満たされたカプセルが並ぶ、地下ホールの異様な光景だ。
「……な、に……これ……」
あたしは絶句した。
カプセルの中に浮かんでいたのは、あたしの銀髪とよく似た髪色をした、顔の定まらない胎児たち。
「白雪家は代々、その高い知能と身体能力を維持するために、『交雑』と『選別』を繰り返してきた。……君たちは、その最新の、 shadow、最高傑作のサンプルなんだよ」
ホールの奥、螺旋階段の上から征一郎が悠然と見下ろしていた。
「兄さんは……君の父さんは、君を愛していたからこそ、その才能を固定化するために事故を容認した。君が『女』として再構築されたのは、君の優秀な遺伝子を、確実に次世代へ残すための『畑』にするためだ」
「……お父さんが、あたしを……? 嘘よ……嘘に決まってる!」
あたしは叫んだ。銀髪がバチバチと放電し、周囲の電子機器を破壊していく。
だが、征一郎は動じない。
「君の中の『男の脳』は、単なる安定剤だ。知性は男から、器は女から。それが我々が辿り着いた、完璧な白雪の姿だ」
――シーン3:狂気への反逆――
「ふざけるなッ!!」
あたしの叫びと共に、地下ホールの照明が一斉に爆散した。
暗闇の中、あたしの双眸だけが碧と銀に輝く。
あたしはもう、自分が男か女かなんてどうでもよくなっていた。
ただ、あたしたちを「部品」としてしか見ていない、この歪んだ血筋が許せない。
「久遠くん、あいつを撃って!」
「……ああ!」
久遠が銃を構えた瞬間、征一郎が手元のスイッチを押した。
久遠が呻き声を上げ、その場に崩れ落ちる。脳内に埋め込まれたチップが強制的に激痛を放っているのだ。
「ぐ……ああ記あッ!!」
「久遠くん!!」
「無駄だ。彼はもう終わりだよ、さくら。さあ、私の元へ来い。君の本当の『主人』は、その壊れかけの少年ではない。白雪の血そのものだ」
征一郎があたしに手を伸ばす。
その瞬間、あたしの中で眠っていた「もう一人のさくら」が、あたしの意識と完全に一つになった。
――シーン4:融合――
『……いいよ、力をあげる。わたしたちを壊した、この家を壊す力を』
あたしの脳内で、二つの魂が抱き合つた。
その瞬間、あたしの身体から放たれたのは、ただの放電ではなかった。
目に見えるほどの物理的な衝撃波が螺旋階段を粉砕し、征一郎を吹き飛ばした。
「……あたしは誰の道具でもない」
あたしは倒れた久遠を抱き起こし、征一郎を冷たく見下ろした。
指先から伸びる銀色の雷光が、あたしを神話の女神のように神々しく、 shadow、恐ろしく彩る。
「あたしはあたしよ。……久遠くんを愛して、この運命を呪う、ただの白雪さくらよ!!」
白雪家の闇を、あたしの光が焼き尽くしていく。
けれど、征一郎の最期の笑みが、あたしの胸に新たな不安を植え付けた。
「……クク。完成したな……。だが、その力の代償を、君はまだ知らない……」
次回予告
白雪本邸を包む炎。
力を使い果たしたさくらの身体を未知の崩壊が襲う。
久遠は彼女を救うため、あえて宿敵・如月博士の元へと向かう……。
次回、第21話「禁じられた術式」
さくら、あんたを助けるためなら俺は悪魔にでもなる。




