第19話:本当の敵
――シーン1:残響の廃工場――
凄まじい放電現象のあと、廃工場は再び静寂に包まれた。
あたし――白雪さくらは、膝をつき荒い息を吐き出す。指先から立ち上る細い煙。自分の内側から溢れ出した「力」が、あたしの精神をさらに削り取っていくのがわかる。
「……さくら、大丈夫か!」
久遠が駆け寄り、あたしの身体を支える。
だが、その時。工場のスピーカーから乾いた拍手の音が響き渡った。
『素晴らしい。想定以上の出力だ。人格の統合が戦闘本能という形で結実するとはね』
如月博士の声ではない。それはもっと若く、聞き覚えのある……けれど今のあたしの記憶からは欠落している「誰か」の声だった。
――シーン2:久遠の告白――
「……如月博士じゃない。この声は、……一ノ瀬、あんたの雇い主だろう?」
ゆきなが銃を下ろし、天井のスピーカーを見上げて吐き捨てた。
あたしは混乱する頭で久遠を見つめる。
「雇い主……? 久遠くん、どういうこと?」
久遠は苦渋に満ちた表情で視線を逸らした。
「……さくら。俺が博士に拾われたのは本当だ。だが……博士を裏で操り、このプロジェクトに巨額の資金を投じ、事故を『仕組んだ』男が別にいる」
「事故を……仕組んだ?」
「白雪グループの次期後継者……あんたの父親の弟、白雪征一郎だ」
あたしの心臓が、冷たい氷を押し付けられたように凍りついた。
親族。血の繋がった叔父。
彼があたしを、そして恋人のさくらを実験台にするために、あの事故を演出したというのか。
――シーン3:本当の敵の姿――
工場のシャッターがゆっくりと開き、一台の高級車が滑り込んできた。
降りてきたのは、非の打ち所のないスーツを着こなした、冷徹な美男子。
あたしの記憶の断片にある「優しい叔父さん」の面影は、そこには微塵もなかった。
「久しぶりだね、……『さくら』。いや、今は『被験体07』と呼ぶべきかな」
「……征一郎……さん……?」
「兄さんは甘すぎた。白雪の血を絶やさず、かつ最強の兵器として完成させるには、君の脳と彼女の肉体を混ぜ合わせるのが一番効率的だったんだよ」
征一郎は冷たく笑い、久遠に視線を向けた。
「久遠、ご苦労だった。君が彼女に『恋』をすることで精神の融和は完璧になった。……さあ、その子をこちらへ渡しなさい。契約通り君の過去の記録はすべて消去してやろう」
「断る……と言ったら?」
「君に拒否権はない。……君の脳内にも彼女と同じ『緊急停止装置』が埋め込まれていることを忘れたのか?」
――シーン4:抗う魂――
「久遠くん……逃げて……」
あたしは震える声で呟いた。
久遠までもが、この汚い陰謀の犠牲者だった。彼はあたしを監視するためではなく、あたしを「完成」させるための生贄として選ばれたのだ。
「……いやだ」
久遠はあたしの手をかつてないほど強く握りしめた。
「たとえスイッチを押されて俺が壊れても……さくら、あんただけは、あいつらの道具になんかさせない」
その瞬間、あたしの中で何かが完全に「融合」した。
失われた記憶への執着。男としてのプライド。女としての恐怖。
それらすべてが、久遠を守りたいという一筋の烈火に変わる。
「……あたしの名前を勝手に決めないで」
あたしは立ち上がった。銀髪が逆立ち、周囲の酸素が焦げるような匂いが立ち込める。
右目の碧と、左目の銀。その双眸が征一郎を射抜く。
「あたしは白雪さくら。……あんたたちが壊した二人の、最後の『怒り』よ!!」
あたしの身体から放たれた衝撃波が、高級車のガラスを粉々に粉砕した。
本当の敵は研究所ではなかった。
あたしたちの運命を弄んだ、この歪んだ血脈。
次回予告
叔父・征一郎の冷酷な罠。
久遠の身体を蝕むキルスイッチの恐怖。
あたしたちは、奪われた未来を取り戻すために、
白雪本邸という名の「魔窟」へと乗り込む決意をする。
次回、第20話「白雪家の闇」
さくら、あんたの本当の「家」はどこにあるの?




