表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

第19話:本当の敵

――シーン1:残響の廃工場――


凄まじい放電現象のあと、廃工場は再び静寂に包まれた。


あたし――白雪しらゆきさくらは、膝をつき荒い息を吐き出す。指先から立ち上る細い煙。自分の内側から溢れ出した「力」が、あたしの精神をさらに削り取っていくのがわかる。


「……さくら、大丈夫か!」


久遠くおんが駆け寄り、あたしの身体を支える。

だが、その時。工場のスピーカーから乾いた拍手の音が響き渡った。


『素晴らしい。想定以上の出力だ。人格の統合が戦闘本能という形で結実するとはね』


如月きさらぎ博士の声ではない。それはもっと若く、聞き覚えのある……けれど今のあたしの記憶からは欠落している「誰か」の声だった。


――シーン2:久遠の告白――


「……如月博士じゃない。この声は、……一ノいちのせ、あんたの雇い主だろう?」


ゆきなが銃を下ろし、天井のスピーカーを見上げて吐き捨てた。

あたしは混乱する頭で久遠を見つめる。


「雇い主……? 久遠くん、どういうこと?」


久遠は苦渋に満ちた表情で視線を逸らした。


「……さくら。俺が博士に拾われたのは本当だ。だが……博士を裏で操り、このプロジェクトに巨額の資金を投じ、事故を『仕組んだ』男が別にいる」


「事故を……仕組んだ?」


「白雪グループの次期後継者……あんたの父親の弟、白雪征一郎せいいちろうだ」


あたしの心臓が、冷たい氷を押し付けられたように凍りついた。


親族。血の繋がった叔父。

彼があたしを、そして恋人のさくらを実験台にするために、あの事故を演出したというのか。


――シーン3:本当の敵の姿――


工場のシャッターがゆっくりと開き、一台の高級車が滑り込んできた。


降りてきたのは、非の打ち所のないスーツを着こなした、冷徹な美男子。

あたしの記憶の断片にある「優しい叔父さん」の面影は、そこには微塵もなかった。


「久しぶりだね、……『さくら』。いや、今は『被験体07』と呼ぶべきかな」


「……征一郎……さん……?」


「兄さんは甘すぎた。白雪の血を絶やさず、かつ最強の兵器(うつわ)として完成させるには、君の脳と彼女の肉体を混ぜ合わせるのが一番効率的だったんだよ」


征一郎は冷たく笑い、久遠に視線を向けた。


「久遠、ご苦労だった。君が彼女に『恋』をすることで精神の融和は完璧になった。……さあ、その子をこちらへ渡しなさい。契約通り君の過去の記録はすべて消去してやろう」


「断る……と言ったら?」


「君に拒否権はない。……君の脳内にも彼女と同じ『緊急停止装置(キルスイッチ)』が埋め込まれていることを忘れたのか?」


――シーン4:抗う魂――


「久遠くん……逃げて……」


あたしは震える声で呟いた。

久遠までもが、この汚い陰謀の犠牲者だった。彼はあたしを監視するためではなく、あたしを「完成」させるための生贄いけにえとして選ばれたのだ。


「……いやだ」


久遠はあたしの手をかつてないほど強く握りしめた。


「たとえスイッチを押されて俺が壊れても……さくら、あんただけは、あいつらの道具になんかさせない」


その瞬間、あたしの中で何かが完全に「融合」した。

失われた記憶への執着。男としてのプライド。女としての恐怖。

それらすべてが、久遠を守りたいという一筋の烈火に変わる。


「……あたしの名前を勝手に決めないで」


あたしは立ち上がった。銀髪が逆立ち、周囲の酸素が焦げるような匂いが立ち込める。


右目の碧と、左目の銀。その双眸そうぼうが征一郎を射抜く。


「あたしは白雪さくら。……あんたたちが壊した二人の、最後の『怒り』よ!!」


あたしの身体から放たれた衝撃波が、高級車のガラスを粉々に粉砕した。

本当の敵は研究所ではなかった。

あたしたちの運命を弄んだ、この歪んだ血脈。


次回予告

叔父・征一郎の冷酷な罠。

久遠の身体を蝕むキルスイッチの恐怖。

あたしたちは、奪われた未来を取り戻すために、

白雪本邸という名の「魔窟」へと乗り込む決意をする。


次回、第20話「白雪家の闇」

さくら、あんたの本当の「家」はどこにあるの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ