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第9話:女子だけのパジャマパーティー

挿絵(By みてみん)

――シーン1:聖域(女子部屋)への招待――


「さーくら! 今日の夜、忘れてないわよね?」


昼休みの廊下、佐倉さくらゆきながあたしの肩に腕を回してニヤリと笑った。

その視線の先にあるのは学園の掲示板……ではなく、あたしのスマホに届いたグループチャットの通知だ。


「……女子だけのパジャマパーティーでしょ。忘れてない……わよ」


あたし――白雪しらゆきさくらは引き攣った笑顔を返すのが精一杯だった。


如月きさらぎ博士の「定期メンテナンス」をなんとか交わし、ようやく得た自由時間。しかし待っていたのは、ゆきなの家での女子4人によるお泊まり会という、別の意味での修羅場だった。


「あんた、まさか下着とか適当なの持ってこようとしてない? 一ノ瀬くんとのこともあるんだし女子力見せつけるチャンスだよ!」


「一ノ瀬くんは関係ない……わよ。それに、あたしは……その、地味なのが好きなの」


(嘘だ。本当は、何を着ていけば『正解』なのか分からなくて、昨晩からクローゼットの前で1時間立ち尽くしたんだ)


――シーン2:パジャマ姿の品評会――


夜、ゆきなの部屋。

フローリングには分厚いラグが敷かれ、雑誌やスナック菓子が散乱している。


メンバーはゆきな、バレー部の五十嵐蘭いがらし らん先輩、クラスメイトの女子、 shadow、あたし。


「じゃーん! 着替え完了!」


ゆきなはショートパンツにタンクトップというアクティブな姿。五十嵐先輩は意外にも黒のシルクという大人っぽいスタイルだ。


「……さくら、あんた。それ……」


ゆきなが呆れたようにあたしを見た。

あたしが着ていたのは、研究所から支給されたあの「ピンクのフリル付きネグリジェ」ではなく、今日のために必死で選んだ白のコットンワンピ型のパジャマだった。


「……変かしら?」


「いや、変じゃないけど……。清楚すぎて、なんかもう『守ってあげたい感』が異常なのよ!」


五十嵐先輩がガシガシとあたしの銀髪を撫で回す。


「こんな美少女が同じ部屋に寝てるなんて、男だったら理性が吹っ飛んでるぞ、ガハハ!」


(……先輩、中身は男なんです。吹っ飛んでるのはあたしの理性の方です)


女子特有のパーソナルスペースの狭さ。

隣に座るゆきなの太ももが触れるたびに、あたしの心臓はバックバクだ。


――シーン3:戦慄の恋愛トーク(恋バナ)――


お菓子をつまみながら、話題は当然のように「恋バナ」へと移行する。


「で、さくら。ぶっちゃけ一ノ瀬くんのことどう思ってるの?」


クラスメイトの直球に、部屋の空気が一気に加熱した。

あたしはポテトチップスを口に運ぶ手が止まる。


「どうって……。ただのクラスメイト……だわ。少し強引なところがある……し」


「えー! でも、調理実習の時、指吸われてたでしょ!? あれ、もう付き合ってるレベルじゃん!」


「吸われてない……わよ! 止血してくれただけで……っ」


顔が耳まで熱くなるのが自分でも分かった。

一ノ瀬久遠いちのせ くおん

彼の冷たい瞳と時折見せる真摯な優しさ。如月博士の薬を飲むなと言った、あの真剣な表情。


「……あたし、あいつのこと……まだ、よく分からないの。でも……」


あたしは膝を抱えて呟いた。


「……男の人に、あんな風に扱われるの初めてで。なんだかあたしじゃないみたいに……胸が苦しくなる……の」


その瞬間、部屋が静まり返った。

ゆきながどこか切なそうな、それでいて少しだけ嫉妬の混じったような目であたしを見つめていた。


――シーン4:女子の身体の「不思議」――


夜中。他の二人が寝静まった後。

あたしとゆきなは布団の中で向かい合っていた。


「……さくら、寝た?」


「……起きてる……わよ」


「あんた、本当に可愛くなったね。見た目だけじゃなくて、喋り方も、仕草も」


ゆきなの手があたしの頬に触れる。


「……もし、本当に元の体に戻れる方法があったら。あんた戻りたい?」


あたしはその問いにすぐには答えられなかった。

男だった頃の自由で力強かった自分。

shadow、今は……。


ブラジャーの締め付けも、スカートの心許なさも、一ノ瀬に向けられたこの胸の痛みも。

すべてが「白雪さくら」という一人の女子(あたし)を形作っている。


「……分からない。でも、今は……この体でもう少しだけ……一ノ瀬くんの隣にいたいって思っちゃう……の」


「そっか……。それ、もう完全に女の子のセリフだよ、バカ」


ゆきながあたしを抱きしめてきた。

柔らかい女子の体温。

かつての「俺」なら鼻血を出して倒れていただろうその温かさが、今はただ優しくあたしを眠りへと誘った。


だが、あたしはまだ知らなかった。

ゆきなもまた、如月研究所と密かに連絡を取り合っているということを。

あたしの「女子化」の進行を博士に報告している「監視者」(オブザーバー)の一人だということを――。


(次回予告)

パジャマパーティーを終え深まる友情。

しかし、あたしの身体に異変が起きる。

ときどき訪れる記憶の欠落。

鏡の中の自分に知らない誰かが映り込む……。


次回、第10話「胸の鼓動、これは誰の?」

あたしの中の「俺」が、ついに消滅を始める!?

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