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【4】こんな生活、そろそろやめよう。  side:優哉

本日2回目の更新です!

明日も2回更新予定です☆

 起きた瞬間、なんだかまぶしい、と思った。


 目を開く。

 大きな窓にかかる、遮光カーテンの隙間から漏れる朝の光。


 ホテルだ。


 優哉はまぶしさから目をそらし、天井を見る。

 朝の遅い時間だろう。部屋全体がうっすらと明るい。日の光が、ホテルのスイートルーム特有の、清潔すぎてどこか冷ややかな空気を照らし出していた。


 ここにたどり着いたってことは…


 少し寝返りをして、隣を見た。


女が眠っている。


(…誰だっけ…)


 もはや驚くこともなく、優哉は冷静に考えた。


 そうだ。昨夜連れて行かれたバーにいた女だ。ブランドものをじゃらじゃら身に着けた、折れそうなほど細い女。 確か、元アイドルで現インフルエンサー、アクセサリーをプロデュースしていて…とか言っていたような気がする。

 名前は……

 思い出そうとすると、頭がわずかに痛んだ。


(これはけっこう飲んじゃったな)


 思い出すことをあきらめて、女の姿を眺めた。


 昨夜の様子をぼんやりと思い出していく。ヘアメイクも服装も男性受けでしっかり固めたような童顔の女だった。

 

 そんな女の無防備な寝顔は、正直言ってそんなに魅力的なものではない。

 あまりまじまじ眺めるのが勝手に気まずくなって、視線を天井に戻した。


 今の優哉にとって、こういう夜は日常の延長線上にあった。俳優としてブレイクして以来、寄ってくる大人は増え、差し出される「娯楽」は途切れることがない。  


 適当に飲んで、適当に遊ぶ。本命なんて作る気もなかった。

 それでいい。

 いや、よかった。


 これからは…


 女が目を覚ます気配がした。


「……ゆうやくん、おはよう」

 舌足らずな声。


「おはよう、」名前が思い出せないままだったから、そこで途切れた。


 女がそばに寄ってくる。

 腕枕をしてほしいのだな、と思ったけど、あえてせずに頭をなでるだけにとどめた。


「楽しかったね」


「うん」

ほとんど覚えてないけど。


「一緒にいられてうれしかった。ありがとう」


「うん、俺のほうこそありがとう」

こんな朝になるの、何回目だ?


「次、また会えるかな?」


優哉は「優しい顔」で彼女に微笑みかけた。これは優哉にとって仮面の表情だ。興味のなさゆえの優しい表情。


「これから撮影で、しばらく休みないんだ。ごめんね」


「そうなんだ。撮影…ドラマ?」


「うん、そうだね」


「今やってる『オフィスラブ』みたいな?」


「うん、そうかな」


 嘘だった。

 けれど、彼女と再び会うつもりがないのは事実だ。  


 寂しそうにする女を適当な言葉で宥め、タクシー代を渡して部屋を出るよう促す。

 

 彼女が去った後、静まり返った部屋で優哉は深くため息をついた。

 午後から打ち合わせが入っている。そろそろ準備しなければ。


 と、テーブルの上のスマホが震えた。

 田村(たむら)さんからの着信だ。


 あまり話したくない気分だったが、出ないわけにもいかないだろう。


「……はい、西原です」


「おーニシ!お疲れ。 昨日の子、どうだった? よかっただろ」


 田村の軽薄な声が耳に刺さる。

 彼は飲食店を経営しながら、女や遊び場を俳優や社長に「アテンド」することで恩を売る男だった。


「……ありがとうございました。おかげさまで」


「相変わらずクールだねえ。女の子にもそんな感じ?」


「いや…」


「優しいけど本命になれないって、みんな嘆いてるよ。モテ男大変だねえ~」


 ため息をつきそうになったがなんとかこらえた。どこまで女の子は田村に話しているんだろう。

 そもそも今日の女の子が出て行ったあとに電話がかかってくるなんて、タイミングが良すぎる。女の子が田村に報告しているに違いない。


 お世話になっていたのは事実だが、できるだけ弱みは握られたくなかった。だから田村とも、その周りの連中とも、必要最低限の付き合いに留めるようにしていた。


「でさ、次の火曜の夜なんだけど。またいいメンツ集めてるんだよ。みんなニシに会いたいってよ」


 いつもなら「行けたら行きます」と濁していただろう。そして、結局ずるずると説得されて参加する羽目になる。昨日もそうだった。


 しかし、今の優哉には断る明確な理由があった。


「すみません、当分は無理そうなんです」


「なんで?撮影?」


「そんな感じですね」


「ああ、ドラマ?」


「まあまあそんな感じ、かな」


「詳しくは言えないってこと?」


「いや…」


「なんだよ俺に言えないことあるのかよ」


「いやいや、タムさんなら業界のこと分かりますよね。そういうのあるじゃないっすか。僕より業界長いし詳しいから言うまでもないと思うんですけど」


面倒なときは、彼のプライドをくすぐるのが一番だ。


「いや、まあ…なんとなくわかるけどさ。要はオフレコってことね」


「さすがタムさんわかってくれるんですね」


「まあ業界長いからさ。じゃあまた連絡するわ」


「はい、すみません」


 田村はそれでも不満げに鼻を鳴らして電話を切った。



 優哉はバスルームの広々とした鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。


 昨日の酒のせいか、ちょっとむくみがあるような気がする。

 でも、はた目にはほとんどわからないだろう。


 髪の毛は乱れているが、目の力強さはいつも通り。

 どちらかというと細身だが、最近トレーニングを増やしているから、上半身が少し厚くなって、腹筋もくっきり割れてきた。


 洗面所の蛇口をひねり、冷たい水でじゃぶじゃぶと顔を洗った。


――そろそろ、まともになろう。


「イケメン俳優」「理想の彼氏」


 最近恋愛ドラマや映画に立て続けに出ていることもあり、世間が俺に貼るラベルはどれも華やかだ。


 でも、中身はどうだ?  

 夜な夜な飲み歩き、名前も知らない女と夜を共にする。

 そんな生活に、自分自身が一番嫌気がさしている。


 こんなことをするために、俳優になったんじゃない。


 尊敬する先輩俳優たちは、皆、自分の技術を磨き、大切な人を守っている。俺も、本当はそっち側に行きたい。


 演技レッスン、アクションの練習、体作り。やるべきことは山ほどあるのだ。



 手早く身支度を整え、ベッドに放っていたスマホを手に取る。

 無意識のうちにスマホを操作し、昨夜届いたメッセージを表示していた。


『お誘いありがとう』

『よければ、ぜひ』


 5年前、一緒に仕事をしていた頃の彼女は、先輩でもあり、プロフェッショナルでもあった。

ナメた態度でモデルをやっていた自分を正してくれたこともあったし、いつも夢を語る自分を励ましてくれた。


「あなたはきっと、いいアクション俳優になれる」


 彼女が何気なく投げかけたあの言葉から、俺はここまで来た。


 今、自分は大きな夢の実現に近づきつつある。


 パーティーで再会した彼女は、昔より少し髪が伸びて、柔らかさが出て、女性として驚くほど綺麗になっていた。

 あのとき会った知り合いのアイドルにも、「あんな綺麗な人見たことない。誰?」と問い詰められたぐらいだ。適当にはぐらかしたが。


 ヘーゼル色の瞳の奥にある、知性と芯の強さは、あの頃のままで、たまらなく懐かしかった。


 明日は、彼女と食事に行く日だ。  


 田村さんが手配する「用意された女」ではなく、俺が自分の意志で、会いたいと誘った相手。


(……楽しみだな)


 自然と口角が上がる。  

 仕事でも、夜遊びでもない。ただ純粋に誰かと会うのが楽しみだなんて感じるのは、一体いつ以来だろうか。

読んでいただきありがとうございます。

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