俺だよ俺! 同僚の水鏡だ!
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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手錠をされて連行された俺は、拘置所で寝た。
次に起きたら、違う部屋!
(ストレートにやったな? まあ、「書類にサインしろ」とは言えんか……)
警察署から、俺が寝ている間に搬送された。
(日本の警察は優秀だから、完全に隠蔽できると!)
壁にくっついている、棚のようなベッドから上体を起こす。
白い光が天井から降り注ぎ、拘置所のように固定された便器に、壁にある洗面器と蛇口。
上を見回せば、監視カメラの丸いドーム。
中に設置されている可動式のカメラが、こちらを向いた気がする。
ドアは横にスライドするようだが、内側に端末や取っ手はない。
四方を壁に囲まれていて、白一色。
両足で立って、一通りを確認する。
(服と靴はそのまま……。持ち物は拘置所で取り上げられた)
スイッチを握るようにした片手で、親指を上から押しこむような動き。
(これで良し! 俺を売り飛ばした報いとして、あそこは崩壊する)
魔術による固有振動が続き、じきに警察署の建物は跡形もなくなる。
逃げる時間が与えられるだけ、有情だ。
俺は製薬会社で違法な人体実験をさせられるのだから……。
(まだ仕掛けてくるなら、1人ずつ消すか、見ただけで発狂する奴をけしかける)
何なら、俺がやられる人体実験の効果だけ、転移してやってもいい。
1人で納得した俺は、人差し指でドアをなぞる。
「ん? ああ、対策をしていると……」
両手でパンッと手を叩くと、視界が変わった。
各部屋を映しているモニターが集まっていて、警備室のようだ。
警官のような連中が、呆気にとられたまま、俺を見た。
「は?」
「……え?」
1人が持っていた紙コップが落ちていき、バシャッと、中身をぶちまける音。
その間に、片手でホルスターから拳銃を抜く音が重なる。
「動くな!」
「チッ! どうやって、逃げ出した?」
セミオートマチックの黒い銃口を見ながら、俺は言う。
【急に、どうした? 同僚に銃を向けるなよ……】
数人の警備員は、困惑したように、ゆっくりと銃口を下ろした。
「す、すまん!」
「……疲れているのかな?」
「悪い! あとで、何か奢るよ」
彼らはトリガーから指を離して、銃口の向きに注意しつつ、ホルスターに収める。
何かを挟まないよう、ホルスターに注意を向けていることから、俺を警戒していないと分かった。
魔術的な発音をやめた俺は、笑顔で答える。
「いいさ! でも、次から注意してくれよ?」
首をかしげている1人が、おずおずと話しかけてくる。
「お前、どういう名前だっけ?」
「水鏡だ」
「どこかで聞いたな?」
「そりゃ、同僚だし……」
俺がモニターの1つを見ると、さっきまでいたであろう部屋に1人の警備員。
彼は驚愕したまま、外に知らせようと大声を出し、監視カメラに主張している。
端末でその音声を切りつつ、世間話を再開した奴らに話しかけた。
――30分後
ここは、レトゥス製薬会社。
その中でも非合法の実験を行っているエリア。
実験材料をしばらく生かしておくため、さっきのような個室が並んでいる。
この警備室で集中管理しつつ、定期的な巡回。
警備員は、シフト制。
(要するに、刑務所だな……)
この警備室を制圧しても、まだセキュリティと武装した警備員がいる。
「で、今の実験体は?」
振り返っての質問に、警備員たちが答える。
「訳ありで関係各所が売ってきた男女が、数人……」
「それと、重点区画に閉じ込めているヤバいの」
モニターを見ると、俺が入っていた個室らしき背景でいくつかあるが、その重点区画のほうは画像がない。
「見るだけでヤバいのか?」
「そんなところ」
「見た目は可愛いか美人だったりするから、興味本位で見ないほうがいいぞ?」
「化け物もいるし」
どうやら、見ただけで発狂するか、話が通じても危険らしい。
「ヤバくないほうで、ちょっと様子を見てくる」
警備室のドアも、横にスライドする自動タイプ。
病院の廊下のようだが、それよりも無機質な廊下だ。
振り返れば、警備室であることを示すプレート。
簡単なマップもある。
(まあ、俺みたいに脱走することは前提じゃないよな……)
コツコツと歩いていけば、訳ありの民間人が収容されている通路へ。
識別用のナンバーはあるが、表札はない。
警備室で入手したマスターキーの装置をかざせば、バシュッと開く。
「な、何だ?」
床であぐらをかいていた男が、顔を上げる。
この隙に逃げ出そうとする気配はなく、絶望した様子。
(20代中盤かな? まだ若いが、覇気を感じられない)
若い男は、私服の俺を見て、困惑する。
「お前も、ここに捕まっていたのか?」
「質問は許さない。助かりたければ、次に来たときに従え」
俺の宣告で、思わず立ち上がった男は判断に迷う。
「とにかく、外へ――」
やつが次のアクションをする前に、ドアを閉めた。
同じように、他の個室のドアも開けて、一言だけ言い残す。
怪しまれないよう警備室に戻りつつ、考える。
(問題は、重点区画にいる奴らだ……)
混乱させたいなら、解放させることも一つの手。
過去作は、こちらです!
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