さよなら、私がいた未来
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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魔法学校の屋上に、1人の少女がいた。
ブレザーの制服であることから、ここの生徒だと分かる。
小柄で、銀色の長髪をハーフアップ。
目は、金色。
制服の合間から白い肌を見せつつ、片手に顎をのせつつ、物思いにふける。
学生証には、 “天城梨理香” という名前。
夕暮れの光に照らされた梨理香は、これまでを振り返る。
それは、突然だった。
月面にある研究施設『アルカディア』が通信をやめ、自閉症モードへ。
1つの国と呼ばれるほどの規模で、暮らしていた人々は1万人を超える。
調査隊が派遣されるも、一次は消息不明。
反乱を想定して、機動兵器を搭載した戦闘艦による強襲上陸が行われた。
こちらも、通信途絶。
三次の調査隊は、もはや軍による侵攻と同じ。
わずかな生存者が、アルカディアの実情を伝えるも――
「そして、惨劇が始まった……」
独自に開発された細菌兵器。
それは、生存者というキャリアーを経て、爆発的に広がった。
「既存のチェックに引っかからず、空気感染! 生存中の発症率は10~20%。死亡後には100%の発症率……」
そう、ゾンビだ!
折り悪く、ちょうど世界大戦の始まりに近い状況。
生存中の発症も合わさり、パンデミックによる死の軍隊は瞬く間に広がった。
死人に説得はできず、腐り果てた死体どもは国民を守るための存在を止める。
「彼らは、軍隊であることを止めた……。アルカディアの復讐を止められる者はなく、私がいた未来は詰んだ」
梨理香は、天城博士に開発されたサイボーグ。
(過去へ戻ることで、未来を変えるために……)
生身では、どのような影響があるか不明。
絶命するほどのダメージを負うかも?
記憶をなくすか、心変わりをするかもしれない。
ゆえに、梨理香が選ばれた。
いちいち試行錯誤をしている暇は、ない。
過去で目立たぬよう、中学生にも見える女子の姿とメンタル。
彼女が強くても意味がないため、頭脳派としての設計。
(私は……生きなければならない! もう存在しない未来のために)
並行世界があるとすれば、過去へのタイムスリップは同じ世界線とは限らない。
(むしろ、別の世界線のほうがあり得る……)
だとすれば、梨理香の敗北。
仮に未来を変えても、天城博士たちの願いを乗せたタイムマシンで送り出された彼女はその願いを叶えられないのだから。
(この先に、私が知っている彼らはいない……)
希望を持ったまま、増え続けるゾンビに蹂躙され、その仲間入りをしたのだろう。
真実を知って絶望する前にそうなれば、むしろ幸せ?
屋上のフェンスを握っている指に、力が入る。
ギシギシと鈍い音。
その時に、莉璃花のセンサーが足音を捉えた。
(2つ、いえ3つ! 女子グループですね……)
予言すれば、3人の女子がやってきた。
彼女たちは梨理香に注目するも、すぐに元の話へ。
「でさー! あの水鏡っていう男子――」
「妹もいるんでしょ?」
「綾ノ瀬と同棲しているんだっけ? だいたーん!」
騒がしくなったことで、梨理香は屋上から校舎に入って、階段を下りる。
やがて、ゲーム部というプレートがある部屋で立ち止まった。
ノックで開ければ、自分の部屋のように散らかった様子。
息を吐きながら、中に入り、ドアを閉じた。
「まだ、それを遊んでいるのですか?」
姫カットの泉佳乃が、コントローラを握りつつ、向き直った。
「うん! 梨理香ちゃんが作ったゲームだし……。それにしても、難しいね! 途中で弾薬やエネルギーが尽きちゃう」
モニターには、月面にある研究施設『アルカディア』の内部。
梨理香が記憶の整理がてら作った、同人ゲームだ。
そこにあるのは、まさに絶望。
逃げ場のない密室が複雑に入り組み、ゾンビとなった兵士や機動兵器が襲ってくる。
内部には、細菌兵器のウイルスがあふれている。
佳乃の横に座った梨理香は、体育座り。
「ええ……。佳乃さんが言う通り、これは無理ゲーです。そうでした……」
コンコンと音が響き、再びドアが開く。
そこには、男女の姿。
慣れた様子で入り、同じくドアを閉めた。
梨理香は、股間が見えないように座り方を変えつつ、会釈。
「こんにちは、才さん。アレーテさんも……」
息を吐いた水鏡才が、突っ込む。
「呼びにくくないか?」
「……あなただけ呼び捨ては、キャラがブレます」
唐突に、話題を変える。
「このゲームをどう思いますか?」
「……終わったことだ」
才の返答に、梨理香は息を吐く。
「分かりました! 私の全能力をもって、あなたが色々な女子とヤリまくりだと捏造した動画と共にネットで拡散しておきます。無修正で」
「待て待て! どうして、そうなる!?」
うつむいた梨理香は、雰囲気を変えつつ、顔を上げた。
「並行世界があると思いますか?」
「あるとしたら、無限に増えていくだろう! いずれかに収束することを祈るのみだ」
首を振った梨理香は、弱々しい笑顔を見せた。
「そう、願いたいです……」
これは、1人の少女と才たちが立ち向かった冒険。
並行世界があるとしたら、信じて待ち続けた博士たちは無惨な最期を遂げただろう。
それでも、この世界を救えたことには意味がある。
天城梨理香には、平和な世界で生きていく権利があるのだ。
過去作は、こちらです!
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