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Memento Mori

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 綾ノ瀬(あやのせ)奈々美(ななみ)の自宅から、高校生の男女が出てきた。


 端末で呼んでいた自動タクシーは、庭を兼ねた空間からの出口である小さな門扉の外に横づけ。


 辺りは真っ暗で、注文住宅だけの高級住宅街とあって、静か。


 一定の間隔で並ぶ街灯が、スポットライトのように道路を照らす。


 姫カットで幼い感じの(いずみ)佳乃(よしの)は、到着したときの白カエルが気になった。


 以前に見かけたところを眺めると、ゲコゲコ♪ という返事と共に、地面に座っている小さな生き物がジッと見上げた。


「バイバイ……」


 手を小さく振る。


『ゲコゲコ♪』


 代表するように1匹が鳴き、暗がりに跳ねていった。


 それを見送った佳乃は、若干だけ動きが鈍かったことに、首をかしげる。


(お腹いっぱい? 虫でも食べたのかな?)


 しかし、水鏡(すいきょう)アレーテの声で我に返る。


「佳乃? あなたのマンションですが……。住人の入れ替わりが激しいと?」


「う、うん! 私は他の人と交流しないから、怖いなと感じるぐらい……。高級マンションで家賃が安かったし、高校生の一人暮らしでも入れたの! 今は不景気でここは観察特区だから、珍しい話じゃないよ。戸締りをしっかりすれば、大丈夫かなって」


 アレーテは、腕組み。


 神経質に、指でトントンと自分の腕を叩く。


「Memento Mori……」


「えっ? な、何か言った?」


 理解できない佳乃に、アレーテは見つめる。


「見送りがてら、遊びに行っても?」

「……お腹いっぱいだし、もう休みたいんだけど」


 とはいえ、少しぐらいなら――


(さい)と一緒に」

「ぜっったい、ダメ!」


 ただの送り狼だった……。


 けれど、アレーテは諦めない。


「そのマンションで、あなたが親しい女子……。モエちゃん?」


「うん! その子も一人暮らしで、まだ中学生……。えっと、もういいかな?」


 個人情報をベラベラ喋ったことに気づき、佳乃は口を閉じた。


 息を吐いたアレーテは、妥協する。


「わたくしが、そのマンションを見ておきたいです……。どうにも、嫌な予感がします。あなたの家に入れなくても、構いません」


 才を連れて行かないことを条件に、佳乃は了承した。



 ――佳乃が暮らしているマンション


 言うだけあって、立派な物件だった。

 女子高生の一人暮らしには、オーバーすぎる。


 子育ての夫婦が住む間取りで、水鏡アレーテは泉佳乃に歓迎された。


 いっぽう、水鏡才も、そのマンションの廊下を歩き出す。


 彼は1つの物件の前に立ち、インターホンを鳴らす。


 ピンポーン♪


 やがて、可愛らしい女子の声。


『ハーイ! ……誰?』


「泉佳乃の契約を解除してくれ……。俺は、お前を知っている。サガリスによる断罪なら、他の奴らにしろ!」


 沈黙。


 しかし、インターホンの先にいる女子が悩んでいる気配。


『……待ってて』


 ブツッと、切れる音。


 程なく、ガチャッと内鍵を開ける音も。


 才は、インタホーンの場所から動かず。


 しびれを切らしたのか、玄関ドアが少しだけ開いた。


 その隙間から覗き込んだ顔は、子供らしい丸みを帯びつつも女として羽化しつつある雰囲気。


 後ろの髪をハーフアップにしている少女は、顔の半分を見せたまま。


「お兄ちゃん、誰?」


「泉の契約を解除しろ! 二度、言わせるな」


 バンッと、玄関ドアが開かれた。


 外側へ半円をえがいた後には、影のある顔のまま、少女が両手でハンドガンを構えている。


 パンパンパンッ!


 同じく右手にダブルアクションだけのリボルバーを握っていた才は、出遅れた。


 トリガーを引くことで後ろのハンマーが起き上がるも、それが落ちる前に着弾する。


 衝撃で後ろへ揺れつつ、リボルバーを取り落とした。


 尻もちから廊下に倒れた男子に、ゾッとするほど冷たい目の少女が銃口を向けたままで近づく。


 片足でリボルバーを蹴り飛ばし、遠ざける。


 銃口を下に向け、才の頭を撃ち抜こうと――


「撃ち合いで、間に合わない! 大尉(たいい)の言う通りだ……。次から、ストライカー式のセミオートにするか」


 愚痴を言いながらも、自分の手を動かす才。


「えっ!?」


 驚く少女は、自分の手が動いたことに反応できず。


「うぐっ……」


 半開きの口へねじ込むように、初めて奥まで咥え、そのままトリガーを引いた。


 約3kg。


 大きめのペットボトルを持つぐらいの力が、彼女の最後に行ったこと。


 ボンッ! と鈍い音がして、後ろへのけぞった少女の膝が落ち、頭から床に倒れた。



 ◇



 登校した泉佳乃は、憂鬱だった。


 自宅のマンションで連続猟奇殺人があることが判明して、その犠牲者には仲良しだったモエも含まれていたから。


「ハアッ……」


 あまりに怖くて、信用できる友人の家を渡り歩きつつ、急いで引っ越し。


 観察特区で、たまにある事件だ。


 助けられなかったモエに罪悪感を抱くも、彼女を殺したのが水鏡才と知らず。


 彼も、説明しない。


 世の中には、知らないほうがいいこともある。


 あのマンションでは、行方不明者が続出していた。

 ところが、警察沙汰にならない。


 まだ無事だったのは、入居したばかりの佳乃と、最古参といえるほど長く住んでいたモエぐらい。


 それを知った水鏡の兄妹が、犯人を始末した。


 殺されたモエにとってのMemento Moriは、何であったのか?


 今となっては、どうでもいい話。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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