Memento Mori
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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綾ノ瀬奈々美の自宅から、高校生の男女が出てきた。
端末で呼んでいた自動タクシーは、庭を兼ねた空間からの出口である小さな門扉の外に横づけ。
辺りは真っ暗で、注文住宅だけの高級住宅街とあって、静か。
一定の間隔で並ぶ街灯が、スポットライトのように道路を照らす。
姫カットで幼い感じの泉佳乃は、到着したときの白カエルが気になった。
以前に見かけたところを眺めると、ゲコゲコ♪ という返事と共に、地面に座っている小さな生き物がジッと見上げた。
「バイバイ……」
手を小さく振る。
『ゲコゲコ♪』
代表するように1匹が鳴き、暗がりに跳ねていった。
それを見送った佳乃は、若干だけ動きが鈍かったことに、首をかしげる。
(お腹いっぱい? 虫でも食べたのかな?)
しかし、水鏡アレーテの声で我に返る。
「佳乃? あなたのマンションですが……。住人の入れ替わりが激しいと?」
「う、うん! 私は他の人と交流しないから、怖いなと感じるぐらい……。高級マンションで家賃が安かったし、高校生の一人暮らしでも入れたの! 今は不景気でここは観察特区だから、珍しい話じゃないよ。戸締りをしっかりすれば、大丈夫かなって」
アレーテは、腕組み。
神経質に、指でトントンと自分の腕を叩く。
「Memento Mori……」
「えっ? な、何か言った?」
理解できない佳乃に、アレーテは見つめる。
「見送りがてら、遊びに行っても?」
「……お腹いっぱいだし、もう休みたいんだけど」
とはいえ、少しぐらいなら――
「才と一緒に」
「ぜっったい、ダメ!」
ただの送り狼だった……。
けれど、アレーテは諦めない。
「そのマンションで、あなたが親しい女子……。モエちゃん?」
「うん! その子も一人暮らしで、まだ中学生……。えっと、もういいかな?」
個人情報をベラベラ喋ったことに気づき、佳乃は口を閉じた。
息を吐いたアレーテは、妥協する。
「わたくしが、そのマンションを見ておきたいです……。どうにも、嫌な予感がします。あなたの家に入れなくても、構いません」
才を連れて行かないことを条件に、佳乃は了承した。
――佳乃が暮らしているマンション
言うだけあって、立派な物件だった。
女子高生の一人暮らしには、オーバーすぎる。
子育ての夫婦が住む間取りで、水鏡アレーテは泉佳乃に歓迎された。
いっぽう、水鏡才も、そのマンションの廊下を歩き出す。
彼は1つの物件の前に立ち、インターホンを鳴らす。
ピンポーン♪
やがて、可愛らしい女子の声。
『ハーイ! ……誰?』
「泉佳乃の契約を解除してくれ……。俺は、お前を知っている。サガリスによる断罪なら、他の奴らにしろ!」
沈黙。
しかし、インターホンの先にいる女子が悩んでいる気配。
『……待ってて』
ブツッと、切れる音。
程なく、ガチャッと内鍵を開ける音も。
才は、インタホーンの場所から動かず。
しびれを切らしたのか、玄関ドアが少しだけ開いた。
その隙間から覗き込んだ顔は、子供らしい丸みを帯びつつも女として羽化しつつある雰囲気。
後ろの髪をハーフアップにしている少女は、顔の半分を見せたまま。
「お兄ちゃん、誰?」
「泉の契約を解除しろ! 二度、言わせるな」
バンッと、玄関ドアが開かれた。
外側へ半円をえがいた後には、影のある顔のまま、少女が両手でハンドガンを構えている。
パンパンパンッ!
同じく右手にダブルアクションだけのリボルバーを握っていた才は、出遅れた。
トリガーを引くことで後ろのハンマーが起き上がるも、それが落ちる前に着弾する。
衝撃で後ろへ揺れつつ、リボルバーを取り落とした。
尻もちから廊下に倒れた男子に、ゾッとするほど冷たい目の少女が銃口を向けたままで近づく。
片足でリボルバーを蹴り飛ばし、遠ざける。
銃口を下に向け、才の頭を撃ち抜こうと――
「撃ち合いで、間に合わない! 大尉の言う通りだ……。次から、ストライカー式のセミオートにするか」
愚痴を言いながらも、自分の手を動かす才。
「えっ!?」
驚く少女は、自分の手が動いたことに反応できず。
「うぐっ……」
半開きの口へねじ込むように、初めて奥まで咥え、そのままトリガーを引いた。
約3kg。
大きめのペットボトルを持つぐらいの力が、彼女の最後に行ったこと。
ボンッ! と鈍い音がして、後ろへのけぞった少女の膝が落ち、頭から床に倒れた。
◇
登校した泉佳乃は、憂鬱だった。
自宅のマンションで連続猟奇殺人があることが判明して、その犠牲者には仲良しだったモエも含まれていたから。
「ハアッ……」
あまりに怖くて、信用できる友人の家を渡り歩きつつ、急いで引っ越し。
観察特区で、たまにある事件だ。
助けられなかったモエに罪悪感を抱くも、彼女を殺したのが水鏡才と知らず。
彼も、説明しない。
世の中には、知らないほうがいいこともある。
あのマンションでは、行方不明者が続出していた。
ところが、警察沙汰にならない。
まだ無事だったのは、入居したばかりの佳乃と、最古参といえるほど長く住んでいたモエぐらい。
それを知った水鏡の兄妹が、犯人を始末した。
殺されたモエにとってのMemento Moriは、何であったのか?
今となっては、どうでもいい話。
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