学びへ(9)
「お~結月。今日は授業中に寝てなかったね~えらいえらい」
ぽんぽんと頭を撫でるミトちゃんさん。
「別に毎回寝てるわけじゃないけど!」
「わたしにとっては寝てるイメージのほうがつよいからえらいよ。結月も成長したね」
完全に結月を妹分として扱っているミトちゃんさん。体格はミトちゃんさんのほうが小さいのに、ヒエラルキーは彼女のほうが上らしい。
結月が鼈宮谷さんを妹分として扱って、ミトちゃんさんが結月を妹分として扱っているから、ヒエラルキーの最上位はミトちゃんさんで、最下位は鼈宮谷さん?
なんだか、女性という社会がよくわからなくなってくるな。
「結月、今日は駅前のベロニカに行くけど、一緒に行かない?」
「パス! あたし今日用事あるから。みんなは先に帰ってて!」
「お前が用事だなんてめずらしいこともあるもんだな」
「買い出しだよ買い出し! お母さんがたまには家の手伝いくらいしなさいってうるさくて。食料とか日用品とかどっさり買い込まなきゃいけないの!」
「ああ、そういや定期的にそういうこともしてたな、おまえ」
「稜希の家に押しかけたってあたしの家は隣だし、必然的に自宅にいるのとほぼ変わりないの」
「手伝いくらいしてあげてもいいんじゃねえの。手伝いたくてもそもそも家にいないよりは」
「まあ…………めちゃくちゃ嫌だってわけでもないからいいんだけどさ。単純に荷物の量が多いから困るってだけ」
「じゃあ、お前は先に帰るってことでいいのな」
「それでおねがい。本当は一緒に行きたかったけどね。じゃ、また夜に」
そう言って、結月が一足先に帰っていった。
「ちょうどよかった。わたしから仕向けたわけじゃないけど、どちらかと言えば結月はいったんいないほうがやりやすかったんだ」
「ミトちゃんさん、それって…………」
「稜希くんの表情を見るに、わたしの話はもう澪さんに話してあるんでしょ? 目が口ほどにものを言っているよ」
「……………………」
「澪さん。あなたのことだよ」
鼈宮谷さんはなにも言わず、慌てる様子もなく、そのまま立ち尽くしている。
「ここで話をするのもなんだから、駅前のカフェに行こっか。あそこのマスターなら澪さんのことを誰にも喋らないよ」
「…………はい、わかりました」
特に嫌がるような素振りはなかった。鼈宮谷さんにとっては聞かれたくないことなのかもしれないのに、こうも落ち着いていられるものなのだろうか。
いつもと同じように、ガチャンガチャンと重めのベルが鳴り響いた。




