得体の知れない秘密(9)
「…………いいえ。明確に悪意をもっているわけではありません。人々がより良い世界を求めることへの、集合的無意識のことです」
「集合的無意識って、たしか死への恐怖とか、みんなが共通して持っている感情のことだよな」
「…………はい。人は誰しも、自分が幸せになりたい、みんなが幸せになってほしいと、より良い方向に向かうように願う心があると思います。
ボクにとってはその感情が敵に見えてしまいます。良かれと思っている感情が、敵に化ける…………稜希さんにわかってもらえるといいのですが」
「半分くらいは理解している。要するに良かれと思っていたことが裏目に出てしまうということだろ」
「…………微妙に違いますけど。そういう方向に考えていただければ大丈夫です」
「でも。どうしてそれを鼈宮谷さんが感じるんだ? 国を背負う政治家とか、国を守る自衛隊とか軍人とかならそう思ってもおかしくはないと思うが」
「…………どうしてそう感じるかを突き止めるのが、稜希さんのお仕事です」
「それも鼈宮谷さんの秘密の中に含まれているわけか…………」
「…………そう難しく考える必要はありません。ボクが脅威を感じている理由…………答えはシンプルです」
「ふたりともーっ! ご飯できたよー!」
元気のいい呼び声が聞こえてきて、その場の雰囲気はぱっと明るくなった。
「…………おなかがすきました。結月さんのおいしいお料理を食べられるのは幸せですね」
「いただきます」
テーブルに並べられた夕飯。品数はそれほど多くないが、手作りの心がこもっている料理。誰かが結月のパートナーになったら毎日おいしい料理を食べられることだろう。
「そんなに品数が多くないけどごめんね」
「いいや、数が多くても食べ切れないから。少なめで味がおいしいほうがいい」
「女の子みたいな食べ方だね」
「家での料理はコスパと美味しさを両立させたいからな」
「とか言いつつ作ってるのはあたしなんだけどね」
「作ってくれているのは本当に感謝してる。ありがとう」
「まあ、作ることにも感謝してくれて味もおいしいって言ってくれるから、別にそこまで不満でもないんだけどね」
「…………」
鼈宮谷さんはうれしそうに食べている。
「ところで。あたしはしつこいから何度でも聞くよ。今日はひまちゃんとなにを話してきたの? それと、澪ちゃんとの話も」
「鼈宮谷さんの話はミトちゃんさんの話に関連して聞きたいことがあっただけだ。ミトちゃんさんは…………まあ、プライベートな話だから」




