思い出を手に取り(9)
「…………普通の人であれば火球が降ってきた数日以内に話題にすると思います。ですがボクがおふたりと出会ってから、もう1ヶ月以上の月日が経っています。
そこにはなんらかの意図があって…………なにかが起きることを想定したものだと考えるべきです…………」
今までで見たことがないような、聡明な判断を下す鼈宮谷さんだった。こんな姿を見たのは初めてかもしれない。
「澪ちゃん、どうして、突然…………?」
「…………ボクは、おふたりを、不幸にさせたくないので…………」
「誰かが、鼈宮谷さんを探しているとでも言いたいのか?」
「…………その可能性は十分あります。ボクはイレギュラーな存在ですので、ボクのことを狙う人間はたくさんいます。その脅威から身を守るための術でもあるんです」
「なにが、とは言えないんだよな」
「…………はい、ごめんなさい」
まさか、今日聞いた話が今日役に立つとは思わなかった。鼈宮谷さんはやはり、特別な存在なのかもしれない。ただの謎多き人物、で済まない、なにかが…………。
「結月。ちょっといいか?」
「うん。なあに?」
「ちょっと席を外してくれないか」
「え! なんで!」
「鼈宮谷さんとふたりで話がしたいんだ。別にやましい話だったりえっちな話だったりするわけじゃない」
「やだよ、せっかく澪ちゃんと話をしているのにあたしだけ仲間はずれって嫌じゃん」
「わかってくれ、結月。頼む」
おふざけではない真剣なトーンで、結月に語りかけた。きっと、コイツならこのトーンの意味を正しく理解してくれるはずだ。
「……………………」
納得はしていない様子だが、結月の表情が微妙に変化していく。
「…………不満は不満だけど。稜希がそのトーンで話をするってことはなにかマジなことなんでしょ。今までのことを信用して離れてあげる」
「ありがとう。リビングで待っていてくれ。本当にえっちな話をするわけじゃないから」
「澪ちゃんに指一本触れてないのは、あたしも一緒に生活して知ってるから。そこは信用してあげるよ」
はあ、とため息をついた。
「澪ちゃん。もし稜希に変なことを言われたら、真っ先にあたしのところに来てね」
「…………そうします」
同意するな、鼈宮谷さんよ。
「そして。もし今はあたしに話せない内容のことであっても、いつか教えられる日が来たら教えてね」
「ああ、そのつもりだ」
「しょうがないなあ」
バタンと、部屋から出ていった。階段を降りる足音も聞こえてきたので、部屋の前で聞き耳を立てていることもなさそうだ。




