思い出を手に取り(1)
「…………もしも、ボクが生まれ変われるとしたら、温かい環境に囲まれたいです。親でも、友達でも、ご近所さんでも。誰かに愛されることは、幸せなことだと思うので」
「…………ふふ。生まれ変わるのは死ぬことだけじゃないですよ。これから人生が大きく変わるかもしれませんし、そういう意味も込めての言葉です」
「そ、それならいいんだけど」
「…………陽莉さんは、どうしてわたしにそんな言葉を投げかけてくれたんですか?」
退院して離れ離れになるのがさみしいとは言えなかった。そんなことを言ったら恥ずかしくてもだえてしまうことだろう。
「まあ…………どうしてかと言われたら、気になったからっていう答えになるんだけど」
「…………顔が赤いです。素直じゃないと損をするかもしれませんよ」
「いいの。この話は終わり終わり! わたしはもうすぐ退院するけど、わたしがいなくなったからって病状を悪くしないでよ?」
「…………きっと、大丈夫です。陽莉さんとの出会いは、また、どこかで巡り会えるものだと信じています」
「アンタは恥ずかしいセリフをよく堂々とした顔で言えるわね…………」
数日後。医師からの助言も受け、わたしは無事に退院できることになった。
退院とは言っても、一時的に病状が良くなっただけ。また体調を崩せば病院送りになることはあきらかだった。
「そのときに、また同じ病室になれたらいいな…………」
「え? 陽莉、なにか言った?」
「…………なんでもないよ」
それ以来、鼈宮谷澪という人間には会ったことがない。何年も前の幼い出来事。その一部でしかなかったはずなのに。
彼女は、そこにいた。
「なるほど。自分が入院していた先に鼈宮谷さんがいたと…………それは他人の空似とかじゃなくて、本人だったんだよな」
「もちろん。顔もそっくりで名前も一緒な別人っていないでしょ」
「しかし…………今とはまったく喋り方が違うな」
「当時のほうが『荒れた自分』というキャラクターを作っていたかな。自分は不幸なんだ、恵まれないんだって暗示をかけていたよ」
「それは、自分自身が辛くないか? 毎日毎日陰鬱とした感情に覆われて。なにをするにも気分が重いだろ」
「だから荒んでいたというわけだよ。平たく言えば負のスパイラルだね」
《鼈宮谷澪、さん? んん? アンタ、どこかでわたしと会ったことがない?》
《…………え?》
《いや、確証があるわけじゃないんだけど。どっかでアンタを見たことがあるような気がしたんだけど、気のせいかも》




