彼女の思い出(14)
「少なからず、わたしが話し相手になってたじゃん。話し相手だけでもいたほうが、心の支えになるのに。それでいいの?」
「…………」
ふふっ、と言わんばかりに、彼女が微笑んだ。
「…………大丈夫ですよ。陽莉さんが来てくれたおかげで、ボクは孤独ではなくなりました。それは、陽莉さんが退院しても同じです」
「それは…………どういう…………」
「…………陽莉さんと過ごした日々は、決して消えることはありません。これまでの孤独も、陽莉さんと出会うことも、すべて運命なのだとしたら、こうも美しいものだと思わされますね」
「え…………?」
それ以上の言葉を紡ぐことはなかった。
「じゃ、陽莉。退院の日は朝一番に来るから。あなたも荷物の片付けをしておいてね」
会話の間を見計らったのか、母が帰っていった。
「…………」
ベッドに仰向けになって寝ているわたしたち。
「ねえ…………鼈宮谷さん」
「…………なんですか?」
「もしも、もしもだよ? もしもこれから先に幸せになることができる運命が待っているとしたら、アンタはどう思う? 病気も治って家族も増えて。
そういう生活を送ることができるようになったら、アンタは、どうするの? 願いごととか、やってみたいこととか、ないの?」
「願いごと…………未来のないボクが願うことなんて、なにもありませんよ」
「そういうことを言わないの! 同じ人間なんだからなにかあるでしょ! あんなことや、こんなことをしてみたいって!」
今思えば、ただの意見の押し付けだったのかもしれない。でも、そうでもしなければ彼女は不幸のままであると思っていた。
彼女がどんな境遇だったかなど、わたしは知らない。でも助けられるものは助けたい。そういう感情が芽生えたのは、初めてかもしれない。
「…………そうですね。もしもボクの願いが叶うのならば、普通という生活を経験してみたいですね」
「普通って?」
「…………普通の健康な人間で育って、学校で学んで、社会に出て、幸せいっぱいの恋愛をして、結婚して、家庭を持つ…………そんなわずかなことでも、幸せのように思います」
「そっか。わたしと同じような病気なら、外の世界を知らないままここまで生きてきてしまったんだよね」
「…………高望みはしません。お金をもてあますような贅沢な願いもありません。ただ、普通…………がどんなものかを知りたいだけです」
「普通か…………」
たしかにわたしも、普通の生活を知らないかもしれない。物心ついた頃から病弱、通院、入院。人の生活がどんなものか知る機会もなかった。




