魔物は困っている
さて、復興を始めた国から出たわけだか、どうしたものだろうか、先日襲ってきた魔物たちはどうやら空魔と呼ばれる種族でありその名の通り空を飛ぶ魔物の群れだったらしい、特に私が倒したあの悪魔はその空魔の中でも上位種であり奴に滅ぼされた国は十や二十では無いとのことだった。
もしもそうだとすれば私が想像する以上にこの世界は……
「弱かったな、魔物」
「そうだね、あれならまだヒトガタの方が怖い気がする」
私たちにとってはとても生きやすいのかもしれない。
一応国から出る前に旅に連れていく者をギルドと呼ばれる集会場で集めればいいのではないか?と言われたがおそらく足手まといになるだろうから行かなかった。
ミーちゃんを置いていこうと考えもしたが先日のような事があればどうなるか分からない、やはり私が守るので連れてきた。
「そんな事よりも、私歩けるよ?」
「ん?しかし……」
ミーちゃんをお姫様抱っこしながら歩いているとそう言われた、しぶしぶ下ろすとミーちゃんは私と手を繋いで歩き出した。
◇
「ここ?」
「空を飛んでいた魔物と同じ奴らが居る、間違いないだろう」
歩き始めて三日、綺麗な小川や野生動物や木の実のおかげで飢えることもなく二人は火山に到着した。
空魔の追跡もこれで終わりだ、おそらくこの中に空魔の大将が居る。
「とりあえずミーちゃん、これを」
私はそう言ってミーちゃんに銀色の布を渡す、特殊合金繊維で編まれた防護布だ、私の防具と同じ素材なので防御力はお墨付き、この世界の脅威相手であれば十分に身を守れるだろう、火山の中の温度にミーちゃんは耐えられない、だからどこか近くの安全な場所に隠れておいてもらうためだ。
「火山の中は危険だから待っててほしいの、二日して戻ってこなかったら前の国に戻って……まあ、絶対帰ってくるけどね」
「待ってればいいのね、分かった」
「あとこれも」
それと私はミーちゃんに拳銃とそのマガジンを三本渡した、プラズマライフルや電磁投射装置は生身で使うのは危険だが拳銃なら大丈夫だろう、それと二本持っているうちの一本のナイフを渡舌した。
「気を付けてねミーちゃん」
「貴方もね」
◇
防具の能力をフルに使い私は五分ほどで火山の頂上に到着した、途中ですれ違った魔物たちは私に向けて火の球を吐いたがたかが火でダメージの入る防具ではない、特に気にするようなものでは無かった。
トカゲから羽の生えたような魔物、一メートルから大きいもので十メートル程だろうか、大小さまざまな魔物が私を追ってきていた。
『人間か……久しぶりに見たな』
頂上に到着するとどこからともなく声が聞こえた、低い老人のような声だ、それが聞こえると同時に私を追ってきていた魔物たちが動きを止めて近くの枯れ木や地面に下りた。
どうやら空魔の大将の声のようだ。
『何をしに来た?』
「魔物退治にきた、私は勇者らしいからな」
『そうか、やはりお前もそうか』
「?」
『王に呼ばれたのだろう?何も知らずに』
「そうだ……何か知っているのか?」
『私の話を聞いてゆくか?』
「いいだろう、聞いてやる」
空魔の大将の話、要点を話せば私は騙されているとのことだった。
今この世界で襲われているのは人類ではなく魔物の方であり人間たちは異世界人と呼ばれる者たち、つまり私のような人間を使って魔物を駆逐し亜人たちはその力に怯えて従っているのだという、確かに思い出してみれば国での復興の労働力は人間以外が行い人間たちは特に何かをしているわけでは無かった、そして空魔の大将によると国を襲ったのは異世界人に洗脳された空魔でありあの悪魔は作られた操り人形らしい、一撃で倒したことを伝えると大将が息を呑む音が聞こえた、驚いているようだった。
『それほどの力を持っているのか……前に来た異世界人は私の話を聞いて私には何もせずにあの国に戻った、そなたはどうなのだ?別に戦っても構わない、老体とは言え人間ごときに負けはしないが』
「もしもお前の話が事実なら私が戦う理由は無い」
『そうか、信じてくれるのか』
「だから国にも戻らない、私たちはどこか遠くへ行こうと思う、折角平和な土地に来れたんだからな」
『この世界を平和と言うか、余程辛い世界から来たのだな……帰りの安全は保障しよう、と言ってもおぬしには関係のないことだろうがな』
私は火口に背を向けると歩き出す、どうやら私たちは騙されていたようだ、確かに不自然なところは多かった、私たちが来た日に魔物に襲撃た事も王座の間であの騎士が無傷だった事、力仕事を全て亜人が行っていた事、空魔の大将の言葉はあの国を疑わせるには十分な説得力があった。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
『おい待て娘よ!』
そんな事を考えていたら背後から声がした、振り向くと火口から一人の少女が駆けてきてその背後に巨大な首が現れた、ドラゴン、それもかなり巨大だ、おそらくあれが大将だろう、そして駆けてきた少女はそのドラゴンのような角と翼を持ち体のあちこちが鱗で覆われていた。
「あんた強そうだからお願いよ!私たち亜人を助けて!」
私の手を取り少女はそう懇願してきた。
「私たちに利点が無い、それに下手に手を出せば戦争になる」
「でも……」
ドラゴンの少女はその目に涙を浮かべる。
『すまない、その娘は魔物に近い亜人でな、仲間を助けたいのだけなのだ……』
「謝らなくていい、私はもうお前たちにかかわる気はないからな」
私は少女の手を払うと再び火口に背を向けた、ミーちゃんを連れてこなかったのは正解だった、おそらく彼女なら亜人に同情して人間と戦うことになっていただろう、人殺しはしたくない……だが、だったら魔物ならいいのだろうか……
考えるのは苦手だ、何が正しくて何が間違っているのかなんて考えたのはいつ以来だろうか。
しかし考えすぎたせいか頭が……
眩暈がし一瞬にして意識が途切れた。
「倒れた!?」
『これはまさか……感染する人間は初めて見たな、娘よ、急いで儀式の準備だ、このままでは死んでしまうぞ』