人でなし
体が熱い、まるで火に焼かれているようだ、だがその痛みに反して体は動かない。
瞼も開かずまだ生身であった筈の左手も動かない、ただ心臓が鼓動する音だけを感じた。
「死なせはしないよ、こうなったらあなたにはやってもらわないといけないからね」
声が聞こえた、あのドラゴンの少女の声だ、その時激しい頭痛が襲ってきて私は再び意識を失った。
◇
「これでどう?動ける?」
そんな声が聞こえ私は目を開いた、すると激しい光に襲われ手で目を覆った。
「っ!!!???」
「ちょ!暴れないでよ!刃物とかあって危険なんだから!」
体を押さえられる、なんて力だ、油圧アームで押さえられているかのように私の体は動かなくなった、暫くして目が明順応してくると次第に周囲が見えてきた、見た感じ山の中をくりぬいた小さな部屋のようで手術室にあるような道具によく似た器具が周囲に散乱しており私はその部屋の真ん中、妙な魔方陣の中心に寝転がっていた。
体を確認すると右腕、左足の膝から先が無い、元々義手と義足だった部分が外されていた、だが問題はそこではない、左腕、というか生身の部分が目の前のドラゴン少女のような甲殻と鱗に覆われているのだ、その隙間からは防具であろう装甲が見える、内臓の機能を機械に改造してもらったことはあったが体そのものを変化させられたのは初めてだ。
「私の腕と足は?」
「え……あの、その……」
ドラゴンの少女が背後に何かを隠す、非常に分かりやすい。
「返せ、壊れてても構わないから」
「うう……外し方分かんなくて、ごめんなさい」
義手と義足を返してもらう、義手と義足自体は壊れているが防具は安全装置が作動してただ外れているだけでありこの程度なら特に問題は無い、右腕を元の場所に装着すると防具内のナノマシンが結合し感覚が戻ってきた、足も同じように装着すると問題なく作動した。
「それで?説明はしてくれるのか?何故私がこうなったのか」
「あーそれは……」
『私から説明しよう』
部屋の外からドラゴンの声が聞こえた、どうやら外にいるらしい。
『その前に先ずはこの世界の事をお前に知ってもらいたい』
「この世界の事?」
『ああ、この世界には精霊と呼ばれる力が満ちている、それは世界全てを包み込む自然そのものと言ってもいいだろう』
「精霊……確か魔法を使うときに必要なものだったか」
『そうだ、魔法は普段は目に見えない精霊を魔方陣という配列を組むことでその自然から必要な力を引き出す術だ。それは目に見える精霊の形の一つだな』
「他にもあるのか精霊の形は?」
『生命そのものだ』
「この世界の生命全てが精霊?」
『そうだ、我ら魔物も亜人も人類も生きとし生ける生命全てが精霊なのだ』
「そうか……それで?それとコレは関係あるのか?」
私は完全に変化し鋭い爪が生えた鱗と甲殻に覆われた左腕を上げる。
『ある』
「私の体が精霊では無かったからか?」
『そうだ、この世界の自然は全て精霊だがそこに異物が入ればそれは排除される、精霊が体を蝕み死に至るか精霊に体を支配され魔物と化してしまうかだ』
「だとすればまさか!?」
私は立ち上がり部屋から飛び出した、外は火口の中間辺りで下を見ると溶岩の中からドラゴンが首だけを出していた、だがそんな事は関係ない、防具と皮膚は一体化してしまっているがその機能が失われたわけでは無い、壁を蹴って外に飛び出し山を一気に駆け下りた。
「ミーちゃん!!ミーちゃんどこ!!!???」
右腕の端末でミーちゃんに渡したナイフに内蔵されたセンサーの反応を探す『付近一キロに反応なし』
「ちょっと、突然飛び出してコレどうすんのよ!」
端末の表示を見てその場に膝をついた私の所へドラゴンの少女が飛んできた、その手には電磁投射装置とプラズマライフルを持っていた。
「どうしたの?」
「ミーちゃんが居ない……」
「ミーちゃん?」
ドラゴンの少女は地面に下りると何かを思い出すように目を閉じた、そして五秒ほどして
「ああ、あの時の」
「知っているのか!!」
「ちょ!力強い!!」
私は立ち上がりドラゴンの少女の両肩を掴んで揺さぶった。
「二日ぐらい前にフラフラと王国の方に向かっていったわ、多分あれは精霊に操られているわね」
「なんだと!?」
「顔怖い、顔怖い、安心しなさい、死んだわけじゃないから、説明してあげるから」
◇
「いい、説明するわよ」
「うん」
ドラゴンの少女はそう言って地面に絵を描き始める、〇に‥を書いてそれを精霊、そこに人、ドラゴンを簡単に書いた。
「さっき話してた通りこの世界は精霊が構成しているわ、そして異世界から来た人間、これも理由は分からないけど精霊を身に宿しているのよ、だから排除されることは無い、でも貴方たちは違った、貴方たちは精霊をその身に宿していなかったのよ、だから父さん……大将は貴方の体に精霊を宿す儀式を行ったのよ、その影響で貴方の体は亜人、というか半分魔物になっちゃったけど何とか生きているでしょ?」
「特に生体活動に支障は無い、というかむしろ前よりも楽になった」
「そうでしょうね、それで問題なのはこっからなんだけど、もう一人の子、ミーちゃんだっけ?その子は精霊に蝕まれてその体を乗っ取られた、乗っ取られただけだから死んではいないけど意識は無いでしょうね、でも大将ほど長生きした魔物ならそれを回復することもできるわ」
「つまり見つけて連れてくれば何とかなるのか」
「うん、だから焦らなくていいわよ、精霊も宿主を殺すことなんてしなから」
だがそうだとすれば問題がある、この姿では王国に戻るなど不可能だからだ。
「どうやらお前の願いを叶えなければ情報集めも難しそうだな」
「え?もしかして亜人の解放!?やってくれるの!?」
「ミーちゃんがどこに行ったのか分からない、もしもこの道を戻っていったなら王国に向かった可能性があるからな」
それに端末を見ればもう既にあの日から七日も経っている、ミーちゃんが私の言葉を実行してくれているかどうかは分からないが一度戻るしかないだろう。
私は来た道を戻り始める、すると
「私も行く!」
そう言ってドラゴンの少女は私についてきた。
「私の名前はミル、貴方は?」
「ヒカリだ、言っておくが私はミーちゃんを探しに行くだけだ、亜人の解放とやらは自力でしろよ」
「でも襲撃するんでしょ?その姿じゃ捕まっちゃうもんね」
その通りだろう、こんな姿では何を言っても向こうは聞く耳を持たないだろう、奴隷になるつもりはない。
私が走り出すとミルは翼を広げ飛行し私についてきた、こうして三日かかった道はたった一日のうちに私は駆け抜けたのだった。




