異世界は生ぬるい
私たちは気付けばそこに居た。
「おお!ようこそ勇者様!」
「は?」
かなり間抜けな声を出した気がする、私の腕の中からミーちゃんが顔を出すがポカンとした表情で周囲を見渡していた、私も警戒しながら周囲を見渡す。
レンガ造りの壁、前時代的な鎧を着てヤリ?といったか、そんな武器を持った人間が並び私たち二人の前には王様?絵本で見たことがあるような髭を生やした男が居た。
「夢か……いや、あの世?」
「多分現実だと思うけど……」
そう言って、ミーちゃんは私の頬を引っ張る、痛い、というか自分のを……そう思ったがミーちゃんの頬は引っ張れば千切れてしまいそうなほど弱っていたので言わない。
「状況が分からないようですなまあそれも仕方のないことです、まずは私たちの世界の事を……」
私は王様の話を無視して腕の端末に目を向ける『空気清浄、人類生存可能』そんな表示が出た後『ロベリア反応なし』『衛星通信不能』『現在地不明』そのような表示が現れた、つまり私たちは未知の土地に居るということだろう、テレポーテーション、理屈は分からないがそれに巻き込まれたのだ、ここは別の惑星か、並行宇宙のどこかか……ありえない話ではない。
「……ということでです、何か質問はありますかな?」
どうやら王様の話は終わったらしい、音声は端末に記録されているので後で聞いておこう、そんな事よりも私たちには必要な事がある。
「食べ物はあるか?」
腹が空いた状況では判断能力が鈍る、まずは腹を満たさなければ。
◇
私たち二人は食堂に通された、何が起きてもいいように防具は脱いではいないが特に怪しい動きをする奴は居ない。
私はともかく最近水以外口にしていないミーちゃんには固形物は難しいだろうから、流動食を頼んだ。
出された食事はどれも見覚えの無い食材が使われていたが特に害のある物質が入っていないのを確認し口へと運ぶ、美味い。
感想を言うならどれもとても美味しいものだった、ミーちゃんもやはり美味しかったのかニコニコとした笑顔を私に向けていた。
「どうでしたかな?この国一番の料理人の食事は?」
大きなテーブルの対面に座った王様が優しい表情でこちらを見ていた。
「とても美味しいものでした、このような食事は久しぶりです」
「私も同じです、こんな食べやすくしていただいてありがとうございます」
食事もとったので私は端末を覗いて王様の話を確認してみた。
どうやら最初の想像通りここは異なる宇宙、彼は異世界と呼ぶ場所らしい、細かい話を端折れば人間とそれ以外の人型生物。亜人たちが住まうこの世界に突如現れた魔物と呼ばれる存在、その二つの勢力が戦争をしているらしい、そして人間側の戦力を大天使の力を借りて異世界から召喚した、ということらしい。
「それで、王様」
「なにかな?」
「私たちはこれから魔物を倒しに行けばいいのですか?それとも他に何か?」
「おお!行ってくださいますか!」
「良いの?」
ミーちゃんが不安そうな目をこちらに向けてくる、当然だろう、せっかく助かった命を散らしに行くようなものだ、だが同時に他の選択肢は選びたくはない。
「大丈夫だよミーちゃん、もうここにロベリアは居ない」
「うん、分かった」
「いや~珍しいですな、前に召喚された勇者様は戦いなど全く分からなかったり、帰りたがっていたというのに……」
「ん?ということは他にも居るのか私たちのような者が?」
「ええ、ですが貴方たちは今までの誰よりも強い意志のようなものを感じます、ですからどうかこの世界を救っていただきたい」
「……」
外を見るといつの間にか日が傾き夕焼け色の空が見えた、こんなきれいな空は数年ぶりだった。
夜になるということで私たちは城の客室で眠ることになった、普段は貴族などの為の部屋らしくとても豪華だった。
食堂から出る前に一人のメイドが走ってきてミーちゃんの為の服を用意してくれた、確かにミーちゃんの服はボロボロであまり人に見せるべきではないのだろう、着替えたミーちゃんはとても喜び何度も頭を下げていた。
「へぇ、この世界は異世界なんだ。昔本とか読んだことあったけど本当に来れるなんて思わなかったよ」
「私も同じだ」
部屋の窓から外を見る、この国は小高い丘の上に建てられた城を中心に城下町が広がる円形の国だった、眼下には火で灯された優しい明りが広がり人々の影が見える、たとえ私たちの世界とは違っても平和な光景を見ると自然と笑みが漏れてくる。
「どうしたの?」
「いや、この世界は本当に平和なんだなと思って」
私はそう答えると防具を畳む、武器や弾薬も同じく小さな箱に変化し私は下着姿になった。
「寝ようか、明日は町を見てみたい」
「うん」
二人で大きなダブルベットに寝転がる、疲れていたのか睡魔は直ぐに襲い掛かってきた。
「お休み、ミーちゃん」
「お休み、ヒカリちゃん」
ミーちゃんと手を繋ぎ私たちは目を閉じた。
だけど運命は、私たちに休息を与えてはくれなかった。
◇
最初に気付いたのは臭いだった、何かが燃える臭い、私は目を覚まし体を起こす、明らかに室温が高くなっている、急いで窓を開けると目に飛び込んできたのは燃えている町、そして空の月を覆うように飛来する化け物たちの姿であった、おそらくあれが魔物なのだろう、下を見ると城が燃えているのも見えた、城の中間あたりであるここまではまだ火は上がってきていないが時間の問題だろう、私は鎧を展開し纏う。
「ミーちゃん起きて!町が襲われてる!」
「んあ?……ん~?」
どうやら寝ぼけているようだ、それでもすぐに異常に気付いたようでハッとすると急いで服を着た。
「襲撃?」
「多分ね」
ドアを開けて城の王の間を目指す、だがその途中に兵士たちの死体があった。
完全に奇襲を受けている、ならば王の間に居るのは……
「王様!」
王の間に到着しその扉を勢いよく開く、ここまで生きている人間に出会わなかったので最悪の事態を想像していたがどうやらまだそこまでいっていなかったようであった。
「ん?なんだまだ兵士が居たのか」
王の間、そこに三メートルはある大きな魔物が居た、その外見は悪魔と呼ぶものだろう、蝙蝠のような羽に頭に角を生やし鋭い爪からは血がしたたり落ちていた。
その向こう側に剣を構えた鎧の騎士とその背後に王様が居た。
「勇者だ」
私は電磁投射装置の照準を悪魔の頭部に合わせると引き金を引いた。
「は?」
「へ?」
騎士と王様の口から間抜けな声が漏れる、頭部を失った悪魔の体が糸の切れた人形のように倒れた。
「大丈夫ですか!」
「へ?あ、ああ」
王様は信じられない物を見ているような表情で棒立ちになっていた。
騎士の方も同じでこちらを見たまま固まっている。
どうやら電磁投射装置はこの世界では信じられないほどの物らしい、しばらくして王様は深呼吸をした。
「ふぅ、どうやら助けられたようだな、ありがとう」
「私も危ないところを助けていただきありがとうございました」
騎士はフルフェイスの兜を脱ぐと長く赤い髪を揺らして私に頭を下げた。
波乱の初日はこうして終わった、次の日に私たちは旅に出ることになるのであった。




