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■第9話 「もう逃げないで――全部、私が暴くから」


 ――限界が来ている。


「……」


 朝の教室。


 いつもと同じ景色。


 でも。


 何かが、確実に違う。


「おはよ」


「……おはよ」


 和真。


 いつも通り話しかけてくる。


 けど、その距離はどこか微妙に遠い。


 完全には戻っていない。



「伊織」


 横から声。


「……蒼葵」


「ちょっといい?」


「……今?」


「今」


 迷いがない。


 断れない。



 教室の外。


 廊下の端。


「……で?」


「決めたから」


 蒼葵が言う。


「何を」


「全部、暴く」


 ――来た。


「……は?」


「もう待たない」


 真っ直ぐな目。


「伊織が言わないなら、私が見つける」


「……やめろ」


「やめない」


 即答。


「だっておかしいもん」


 一歩近づく。


「同級生で、あの距離感」


「……」


「しかも、あの人」


 少しだけ声を落とす。


「ただの子じゃないでしょ?」


 ――核心の一歩手前。


「……何言ってんだよ」


「分かるよ」


 小さく笑う。


「私、バカじゃないから」


「……」


「ねえ」


 さらに距離を詰める。


「何守ってるの?」


「……」


「誰のため?」


 ――答えは一つ。


 でも、言えない。



「……関係ないだろ」


 やっと絞り出す。


「関係ある」


 強く言い切る。


「伊織のことだから」


 その言葉が、重い。


「昔からさ」


 少しだけ優しい声になる。


「困ったら全部一人で抱え込むじゃん」


「……」


「だから嫌なの」


 視線が揺れる。


「また一人で無理してるの」


 ――図星。



「……違う」


「違わない」


「これは」


 言葉が詰まる。


「……言えないんだ」


「だから何?」


「……」


「それで納得すると思う?」


 しない。


 絶対に。



「ねえ」


 蒼葵は一歩引いて、


「今日、放課後」


「……」


「全部、終わらせるから」


 ――空気が止まる。


「終わらせるって……」


「決めたの」


 静かに言う。


「直接、聞く」


「誰に」


 分かってるのに、聞いてしまう。


「白瀬舞衣」


 ――終わった。



「やめろ」


 即答。


「なんで?」


「それは……」


 言えない。


「ほら」


 蒼葵が笑う。


「やっぱり関係あるじゃん」


「……」


「もう逃げないで」


 その目は、本気。


「今日で全部はっきりさせる」



 その時。


「……何の話?」


 静かな声。


 振り向く。


 そこにいたのは――


 白瀬舞衣。


 廊下の端に立っている。


「白瀬さん」


 蒼葵が振り返る。


「ちょうどよかった」


 ――やめろ。


「今、あなたの話してたの」


「……そう」


 舞衣は動じない。


「で?」


「放課後、少しいい?」


「……何で?」


「話したいことがあるの」


 ストレート。


 逃げ場を与えない。


「……」


 一瞬の沈黙。


 けれど。


「いいよ」


 舞衣が答えた。


 ――は?


「ちょっと待て」


 思わず口を挟む。


「なんで受けるんだよ」


「関係ないでしょ」


 小さく言われる。


 “他人として”。


「……」


「放課後、旧校舎で」


 蒼葵が言う。


「逃げないでね」


「逃げない」


 舞衣が答える。


 迷いなく。



 昼休み。


「……どうするんだよ」


 屋上。


 二人きり。


「どうするも何も」


 舞衣が言う。


「話すだけ」


「いや絶対バレるだろ」


「バレない」


「なんで言い切れるんだよ」


「言い切るしかないから」


 ――覚悟が違う。


「……」


「ねえ」


「なんだ」


「信じて」


 真っ直ぐな目。


「私のこと」


「……」


 その言葉に。


 迷いはなかった。


「……分かった」



 放課後。


 旧校舎。


 静まり返った空間。


「……来たね」


 蒼葵が立っている。


 その目は、完全に覚悟を決めていた。


「……」


 舞衣も、隣に立つ。


「それで」


 蒼葵が口を開く。


「聞かせて」


 一歩前へ。


「あなたたちの関係」


 ――終わりの始まり。



 蒼葵はもう止まらない。


 舞衣は逃げない。


 そして――


 俺は、選ばされる。



 秘密を守るか。


 関係を壊すか。



 すべては、この瞬間にかかっていた。




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