■第10話 「四面楚歌――暴かれるか、守り切るか」
――終わる。
旧校舎の教室。
沈黙が、重くのしかかる。
「……」
水瀬蒼葵。
真正面から、俺たちを見ている。
「それで?」
一歩、近づく。
「教えて」
その目は、逃がさないと決めている。
「あなたたちの関係」
⸻
「……クラスメイト」
舞衣が答える。
迷いなく。
ブレもない。
完璧な演技。
「それだけ?」
「それだけ」
即答。
空気が張り詰める。
⸻
「……嘘」
蒼葵が小さく笑う。
「そんなの通じないよ」
「……」
「昨日の写真」
「……」
「今日の態度」
一つ一つ並べる。
「全部おかしい」
逃げ場がない。
⸻
「ねえ」
蒼葵がさらに距離を詰める。
「なんでそこまで隠すの?」
「……」
「何守ってるの?」
視線が刺さる。
痛いくらいに。
⸻
その時。
ガラッ。
ドアが開く音。
「……やっぱここか」
振り向く。
そこにいたのは――
「和真……」
菅原和真。
「……」
場の空気を見て、ため息をつく。
「完全に修羅場じゃねえか」
⸻
「菅原くん?」
蒼葵が眉をひそめる。
「なんでここに」
「いや」
頭をかきながら、
「なんとなく嫌な予感してな」
そして。
俺を見る。
「……で?」
「……」
「そろそろ限界だろ」
静かに言う。
⸻
「ちょうどいい」
蒼葵が言う。
「証人が増えた」
「は?」
「もう逃げられないよ、伊織」
完全包囲。
⸻
「……なあ」
和真が一歩前に出る。
「俺も聞きたい」
「……」
「お前と白瀬」
真っ直ぐに言う。
「どういう関係だ」
――二方向からの追及。
⸻
「……」
言えない。
でも。
このままじゃ――
⸻
「……言えない」
それしか出てこなかった。
⸻
「はあ!?」
蒼葵が声を荒げる。
「なんで!?」
「理由がある」
「どんな!?」
「それは――」
言葉が詰まる。
⸻
「……もういい」
蒼葵の声が冷える。
「だったら、私が暴く」
一歩、舞衣の前へ。
「白瀬舞衣」
名前を呼ぶ。
「あなた、本当にただのクラスメイト?」
「……そうだけど」
ブレない。
でも――
「じゃあ」
蒼葵が踏み込む。
「なんでそんな顔するの?」
「……?」
「伊織が他の子といる時」
――空気が止まる。
「めちゃくちゃ不機嫌じゃん」
「……」
「さっきも」
一歩近づく。
「“離して”って言ったよね?」
――核心。
⸻
「……」
舞衣が黙る。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
表情が揺れた。
それを――
「ほら」
蒼葵が見逃さない。
「今」
確信の目。
「やっぱりおかしい」
⸻
「……なあ伊織」
和真が低く言う。
「これ以上はまずいぞ」
「……分かってる」
「なら――」
「でも」
遮る。
「言えない」
――選んだ。
守る方を。
⸻
「……っ」
蒼葵の目が揺れる。
「なんで……」
小さく呟く。
「なんでそこまで……」
その声が、少し震える。
⸻
その時。
「……やめて」
静かな声。
舞衣だった。
「これ以上、詮索しないで」
「なんで?」
蒼葵が即座に返す。
「理由、言えないんでしょ?」
「……」
「なら納得できない」
正論。
完全な。
⸻
「……」
舞衣は少しだけ俯いて、
そして。
「……伊織くん」
名前を呼ぶ。
――まずい。
その呼び方。
“他人”じゃない。
⸻
「……何」
なんとか返す。
「……ごめん」
「え?」
次の瞬間。
舞衣が、一歩前に出た。
俺の腕を――
掴む。
⸻
「……っ!?」
空気が凍る。
蒼葵の目が見開かれる。
和真も固まる。
「……これ以上はダメ」
小さく言う。
でも。
その行動がすべてを物語っていた。
⸻
「……は?」
蒼葵の声が震える。
「今の……何?」
「……」
「なんでそんなことするの?」
誰も答えられない。
⸻
「……伊織」
和真が呟く。
「これ……」
「……」
もう、隠しきれない。
完全に。
⸻
「……ねえ」
蒼葵がゆっくり言う。
「もしかして」
その一言が。
すべてを終わらせる。
「二人って――」
⸻
――その瞬間。
外から、足音。
そして。
ガラッ。
ドアが開く。
「ちょっと待ったあああああ!!」
全員が振り向く。
そこにいたのは――
「……近藤さん?」
白瀬舞衣のマネージャー、
近藤絵莉。
「ほんとにもう……!」
息を切らしながら、
「全員、動かないで!」
その一言で、場が止まる。
⸻
「……間に合った」
絵莉が小さく呟く。
そして。
ゆっくりと、全員を見る。
「このままだと――」
一呼吸置いて、
「全部バレてましたよ」
――完全に、ギリギリだった。
⸻
蒼葵は確信し、
和真は理解し始め、
そして秘密は――
“あと一歩”で崩壊していた。
⸻
だが。
まだ終わっていない。
⸻
この場に現れた“大人”が、
すべてをどう動かすのか――
⸻
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