■第11話 「全部、管理します――あなたたちの“秘密”も」
――完全に詰んでいた。
旧校舎の教室。
張り詰めた空気の中、
「全員、動かないで」
その一言で、場を制したのは――
近藤絵莉。
白瀬舞衣のマネージャー。
「……なんでここに」
蒼葵が警戒した声を出す。
「それはこっちのセリフよ」
絵莉はため息をつきながら、
「なんでこんな“最悪の状況”になってるの?」
明らかに頭を抱えていた。
⸻
「……で?」
蒼葵が一歩前に出る。
「あなた誰?」
「関係者よ」
即答。
「白瀬舞衣の」
その一言で、空気が変わる。
「……関係者?」
和真が眉をひそめる。
「どういうことだよ」
⸻
「……説明するわ」
絵莉は一度全員を見渡し、
「ただし」
指を立てる。
「ここで聞いたことは、外に出さない」
「……は?」
「約束できる?」
圧が強い。
大人のそれ。
⸻
「……」
蒼葵と和真が顔を見合わせる。
そして。
「……分かった」
蒼葵が先に言う。
「聞くだけ聞く」
「俺も」
和真が頷く。
⸻
「よし」
絵莉は小さく息を吐く。
「じゃあ、まず前提から」
一歩前へ。
「白瀬舞衣は――」
少しだけ間を置いて、
「一般人じゃない」
――空気が凍る。
⸻
「……は?」
和真の声が漏れる。
「知ってる人も多いと思うけど」
淡々と続ける。
「彼女は、芸能活動をしてる」
「……芸能?」
蒼葵の目が細くなる。
「それって……」
「そう」
絵莉は頷く。
「あなたたちが騒いでる“あの人”よ」
――国民的女優。
⸻
「……は?」
和真が完全に固まる。
「いや待て待て待て」
「信じられないのは分かる」
「いやそういうレベルじゃねえって」
混乱。
当然だ。
⸻
「でも」
蒼葵は違った。
「……それだけじゃ説明つかないよね」
鋭い。
すぐ本質に戻る。
「なんで伊織とあんな距離なの?」
――核心。
⸻
「……そこよね問題は」
絵莉が小さく呟く。
「本来なら、ここは絶対に隠すべきなんだけど」
「じゃあ話せないってこと?」
「普通ならね」
少しだけ視線を逸らす。
「でも今回は例外」
「……?」
⸻
「二人は」
ゆっくりと言う。
「昔からの知り合いなの」
――嘘。
でも自然な嘘。
⸻
「……は?」
「子供の頃に、少し関わりがあった」
「……そんな話、聞いたことない」
蒼葵が即座に返す。
「そりゃそうよ」
絵莉は肩をすくめる。
「お互い、忘れてたんだから」
⸻
「……忘れてた?」
和真が眉をひそめる。
「最近になって思い出したの」
さらっと言う。
「だから距離感がちょっとおかしい」
「……」
蒼葵がじっと見つめる。
完全には信じていない。
⸻
「あと」
絵莉が続ける。
「彼女の正体は絶対にバラせない」
「……」
「だから」
強く言う。
「それを守るために、多少の“例外的な接触”はある」
――無理やりだが、筋は通している。
⸻
「……」
沈黙。
数秒。
⸻
「……なるほどね」
先に口を開いたのは蒼葵。
「つまり」
一歩前へ。
「特別扱いってこと?」
「そういうこと」
絵莉は頷く。
「仕事上の理由も含めてね」
⸻
「……」
蒼葵はしばらく考え、
そして。
「……分かった」
そう言った。
「とりあえずは信じる」
――“とりあえず”。
⸻
「でも」
目が鋭くなる。
「完全には納得してない」
「でしょうね」
絵莉も否定しない。
⸻
「俺もだ」
和真が言う。
「まあ筋は通ってるけど」
腕を組んで、
「なんか引っかかる」
「それでいい」
絵莉は言い切る。
「全部理解される必要はない」
⸻
「ただし」
空気が変わる。
「これ以上踏み込まないこと」
強い声。
「彼女の人生がかかってる」
「……」
「それ、守れる?」
⸻
「……守る」
和真が先に言う。
「親友としてな」
「……」
蒼葵は少しだけ黙って、
「……守るよ」
小さく言った。
「でも」
最後に一言。
「伊織が傷つくようなら、話は別」
――釘を刺す。
⸻
「それでいい」
絵莉は頷いた。
⸻
「……じゃあ解散」
パン、と手を叩く。
「この件はここまで」
強制終了。
⸻
帰り道。
「……なあ」
和真が横に並ぶ。
「マジであれで合ってんのか?」
「……ああ」
嘘を重ねる。
「まあ」
少し笑って、
「完全には信じてねえけどな」
「……」
「でも」
軽く肩を叩く。
「言えない理由があるのも分かった」
その言葉に、少しだけ救われる。
⸻
一方。
「……ほんとにそれでいいの?」
蒼葵が一人で呟く。
スマホを開く。
そこには――
あの写真。
「……絶対、まだ何かある」
確信は消えていない。
⸻
その夜。
「……助かった」
伊織の部屋。
「ええ」
舞衣が頷く。
「ギリギリだった」
「……ほんとにな」
⸻
「でも」
舞衣が言う。
「これで少しは時間稼げる」
「……少しはな」
「その間に」
少しだけ近づいて、
「ちゃんと考えよ」
「何を」
「この関係」
――重い一言。
⸻
「……ねえ」
「なんだ」
「もし」
少しだけ視線を逸らして、
「全部バレたらどうする?」
「……」
一瞬、考える。
そして。
「その時は」
迷わず言った。
「全部守る」
「……」
「お前のこと」
その言葉に。
舞衣は少しだけ目を見開いて、
「……うん」
小さく笑った。
⸻
危機は去った。
――ように見える。
けれど。
疑念は消えていない。
関係はより深く、より危うくなった。
⸻
秘密は守られた。
ただし――
“期限付き”で。
⸻
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