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■第12話 「逃がさない――奪う少女と、見抜く女優」


 ――全部、動き出した。



 放課後。


「神谷くん」


 嫌な予感しかしない声。


「……七瀬」


「今日、時間あるよね?」


「ない」


「あるでしょ」


 即否定される。


「今日は逃がさない」


 ――来た。



「……またデートかよ」


「うん」


 即答。


「ちゃんと話したいの」


「この前しただろ」


「あれはまだ途中」


 一歩近づく。


「今度こそ最後まで」


 目が本気。


 完全に逃げられない。



 一方、その頃。


「……最近おかしいわね」


 控室。


 鏡の前で呟くのは――


 城之内弥生。


「白瀬舞衣」


 その名前を口にする。


「仕事中も、どこか上の空」


 口紅を引きながら、


「恋でもしてる顔」


 くすっと笑う。


「面白いじゃない」



「弥生さん」


 スタッフが声をかける。


「次の共演、白瀬さんです」


「……やっぱりね」


 鏡越しに笑う。


「ちょうどいい」


 椅子から立ち上がる。


「直接、確かめてあげる」


 ――最悪のタイミングで。



 夕方。


「……で、どこ行くんだよ」


「今日はね」


 七瀬が笑う。


「ちょっと特別」


 連れてこられたのは――


 ショッピングモール。


「……人多いな」


「いいでしょ」


 自然に腕を組んでくる。


「ちょっと!?」


「デートなんだから普通」


「普通じゃねえ!」


 周囲の視線が痛い。



「ねえ」


 七瀬が小さく言う。


「もうさ」


「……何」


「逃げるのやめなよ」


 真っ直ぐな目。


「私、本気だから」


「……」


「好き」


 ストレート。


「ちゃんと答えて」


 ――逃げ場なし。



「……俺は」


 言葉を探す。


 でも。


 頭に浮かぶのは――


 舞衣。



「……ごめん」


 絞り出す。


「付き合えない」


 沈黙。


 数秒。



「……そっか」


 七瀬が小さく笑う。


 でも。


「理由は?」


 逃がさない。


「……」


「ほら」


 一歩近づく。


「やっぱり言えないんだ」


 図星。



「ねえ」


 さらに距離を詰める。


「その“言えない理由”」


 耳元で囁く。


「私、壊してあげよっか?」


 ――怖い。



 その時。


「……楽しそうね」


 聞き覚えのない声。


 でも――


 ただならぬ“圧”。



 振り向く。


 そこにいたのは――


「……え?」


 思わず固まる。


 誰が見ても分かる。


 テレビで何度も見た顔。



 城之内弥生。



「へえ」


 弥生がゆっくり歩いてくる。


「あなたが例の子?」


「……例?」


 七瀬が眉をひそめる。


「神谷伊織くん、だっけ?」


 名前を呼ばれる。


「なんで……」


「調べれば分かるわよ」


 さらっと言う。


 怖い。



「で?」


 弥生が七瀬を見る。


「彼女?」


「違う」


「違います」


 二人同時。


 でも。


 七瀬はすぐに言い直す。


「今は、ね」


 挑発。



「ふーん」


 弥生は興味なさそうに言いながら、


 俺をじっと見る。


「……普通」


 ぽつり。


「どこにでもいる男の子」


 グサッとくる。



「なのに」


 一歩近づく。


「なんであの子が、こんなに乱れるのかしら」


 ――空気が凍る。


「……あの子?」


「白瀬舞衣」


 名前を出す。



「っ……!」


 心臓が跳ねる。


「やっぱりね」


 弥生が笑う。


「その顔」


 完全に見抜いている。



「ねえ」


 ぐっと距離を詰める。


「あなた」


「……」


「何者?」


 ――終わる。



「……ただの同級生だよ」


 なんとか答える。


「嘘」


 即断。


「もっと面白い関係でしょ?」


 目が鋭い。


 完全に“獲物を見る目”。



「ねえ神谷くん」


 横から七瀬。


「この人、誰?」


「……」


「ただの知り合いじゃないよね?」


 挟まれる。


 左右から。



「……」


 逃げ場ゼロ。



「ふふ」


 弥生が笑う。


「いいわ」


「……?」


「しばらく観察させてもらう」


「は?」


「だって」


 振り返りながら、


「面白そうだから」


 そう言って去っていく。



「……最悪だ」


 思わず呟く。



「ねえ」


 七瀬が言う。


「今の人」


「……」


「白瀬さんの関係者でしょ?」


 鋭い。



「……」


 答えられない。



「やっぱり」


 七瀬が笑う。


「絶対あるじゃん」


 確信。


「その“言えない理由”」


 さらに近づく。


「私、絶対暴くから」


 宣言。



 その夜。


「……会ったの?」


 舞衣の部屋。


「弥生に」


「……ああ」


「最悪」


 小さく呟く。


「一番バレちゃいけない人」



「そんなにやばいのか?」


「うん」


 即答。


「全部見抜くタイプ」


 ――終わってる。



「ねえ」


 舞衣が近づく。


「今日、何された?」


「別に何も」


「嘘」


 じっと見る。


「七瀬」


 名前を出す。


「……」


「また来たでしょ」


 全部バレてる。



「……告白された」


「……そう」


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 空気が冷える。



「断った」


「……ほんと?」


「ああ」


「……そっか」


 少しだけ安心した顔。



「でも」


 舞衣が言う。


「もう限界かもね」


「……」


「学校も、芸能界も」


 一歩近づく。


「全部、崩れ始めてる」


 その通りだった。



「……ねえ」


「なんだ」


「それでも」


 小さく言う。


「隠してくれる?」


「……」


 迷いはなかった。


「当たり前だろ」


「……うん」



 学年一の美少女は、奪いに来る。


 幼馴染は、暴こうとする。


 親友は、見守り始めた。


 そして――


 トップ女優は、見抜きに来た。



 秘密は、もう二人のものじゃない。



 完全に“戦場”になった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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