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■第8話 「もう分かってるよ――幼馴染は“嘘”を見逃さない」


 ――時間の問題だ。


「……はあ」


 朝の教室。


 席に座るだけで、ため息が出る。


 和真には疑われ、蒼葵には見抜かれかけている。


 そして――


「……」


 窓際。


 白瀬舞衣。


 何もなかったように本を読んでいる。


 けど。


 その“何もなさ”が逆に怖い。



「伊織」


 横から声。


「……蒼葵」


「今日、放課後空いてる?」


「またかよ」


「また」


 にこっと笑う。


 でも、目は笑ってない。


「大事な話、あるから」


「……昨日も聞いたぞそれ」


「今日はもっと大事」


 ――逃げられない。


「……分かった」


「うん」


 満足そうに頷く。


 その顔が、逆に怖い。



 授業中。


 静かな教室。


 なのに、落ち着かない。


「……」


 ふと視線を感じる。


 前。


 蒼葵。


 じっとこちらを見ている。


 逸らしても、また来る。


 完全にロックオン。


「……」


 やばい。


 本当に。



 昼休み。


「神谷くん」


「……」


 来ると思った。


「今日も少し話せる?」


 西宮七瀬。


「今日は無理だ」


「なんで?」


「用事ある」


「水瀬さん?」


「……」


 図星。


「ふーん」


 少しだけ目を細める。


「気をつけたほうがいいよ」


「何を」


「幼馴染って」


 小さく笑って、


「一番怖いから」


 ――その通りすぎる。



 放課後。


「行こ」


 蒼葵に腕を引かれる。


「……どこ行くんだよ」


「いいから」


 連れて行かれたのは――


 旧校舎。


 ほとんど人が来ない場所。


「……ここかよ」


「うん」


 ドアを閉める。


 ――逃げ場なし。



「で?」


 蒼葵が振り返る。


「そろそろいいよね」


「何が」


「隠すの」


 まっすぐな目。


「……何も隠してない」


「嘘」


 即答。


「もういいって」


 一歩、近づく。


「全部見てるから」


「……」


「伊織のこと、ずっと見てきたんだよ?」


 その言葉が重い。


「気づかないわけないでしょ」


「……」


「白瀬舞衣」


 名前を出す。


「昨日も、その前も」


「……」


「ずっと、変」


 距離がさらに近くなる。


「ねえ」


 手を掴まれる。


「なんであの子なの?」


「……関係ない」


「ある」


 強く言い切る。


「だってさ」


 蒼葵の目が揺れる。


「伊織、あの子のことだけ――」


 言葉を止めて、


「“特別”に見てる」


 ――核心。


「……」


 言い返せない。


「……やっぱり」


 蒼葵が小さく笑う。


「そうなんだ」


「違う」


「違わない」


 即答。


「じゃあさ」


 ポケットからスマホを取り出す。


「これ、何?」


「……?」


 画面を見せられる。


 そこに映っていたのは――


 昨日。


 駅前。


 俺と舞衣。


 距離が近い、一瞬の写真。


「……っ」


 息が止まる。


「偶然撮れたんだよね」


「……蒼葵」


「これでも」


 目を細める。


「まだ“関係ない”って言う?」


 ――終わった。


 完全に。


「……」


「ねえ」


 さらに近づく。


「これ、どう説明するの?」


 逃げ道がない。


 言葉も出ない。


 沈黙。


 それが答えになってしまう。


「……やっぱり」


 蒼葵の声が、少し震える。


「隠してる」


「……」


「なんで私には言えないの?」


 その言葉が刺さる。


「……言えないんだ」


「なんで」


「……」


 言えない理由が、言えない。



 その時。


「……それ、消して」


 静かな声。


 振り向く。


 そこにいたのは――


 白瀬舞衣。


「……白瀬さん」


 蒼葵が目を細める。


「タイミングいいね」


「……」


 舞衣は、スマホの画面を見る。


 そして。


「それ、誤解されるから」


「誤解?」


「ただの偶然」


 完璧な演技。


 けど――


「ふーん」


 蒼葵は笑う。


「じゃあさ」


 一歩前へ。


「なんで追いかけてたの?」


「……」


「昨日」


 沈黙。


 数秒。


「……帰り道が同じだっただけ」


 嘘。


 完全な嘘。


「へえ」


 蒼葵はじっと見る。


 そして。


「……そっか」


 そう言って、スマホをしまう。


「じゃあいいや」


 あっさり引いた。


 ――いや、


 引いた“ふり”。



 蒼葵はそのままドアへ向かう。


「伊織」


 振り返らずに言う。


「もう分かってるから」


「……」


「あと一歩」


 ドアに手をかけて、


「それだけ」


 そう言って出ていった。



 残されたのは、


 俺と舞衣。


「……危なかった」


 小さく呟く舞衣。


「……ああ」


「完全に、気づいてる」


「……分かってる」


 沈黙。


 重い空気。


「……ねえ」


「なんだ」


「いつまで持つと思う?」


 その質問に、


 答えられなかった。



 幼馴染は、もう確信している。


 親友も、疑いを深めている。


 そして――


 証拠は、すでに“手の中”にある。



 秘密は、もう限界だった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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