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■第7話 「親友だからこそ――隠すなよ、伊織」


 ――逃げられない。


「伊織」


 昼休み。


 教室のドアの前で、呼び止められた。


「……和真」


 いつもと違う。


 軽いノリじゃない。


「ちょっと来い」


「……今か?」


「今」


 有無を言わせない声。


 ――来た。



 人気のない階段。


「……で?」


 先に口を開いたのは俺。


「何の用だよ」


「それ、こっちのセリフ」


 和真は壁にもたれながら、じっと俺を見る。


「神谷伊織」


「なんだよ」


「お前、隠してるだろ」


 ――直球。


「……何を」


「全部だよ」


 目が逸らせない。


「最近の動き、明らかにおかしい」


「気のせいだ」


「気のせいじゃねえ」


 一歩近づく。


「昨日、見た」


 ――心臓が止まる。


「……何を」


「カフェ」


「……」


「七瀬と一緒にいたよな」


「……それは」


「それだけじゃねえ」


 和真の声が低くなる。


「白瀬もいた」


 ――終わった。


「……」


「しかも」


 さらに詰めてくる。


「お前ら、距離おかしいだろ」


「……」


「なんなんだよ、あれ」


 答えられない。


 答えたら終わる。


「……偶然だろ」


「ふざけんな」


 壁をドン、と叩く音。


「俺をバカにすんな」


 初めて見る顔だった。


 本気で怒っている。


「お前、俺に隠し事すんのか?」


「……」


「親友だろ」


 その言葉が、重い。


「……言えない」


 絞り出すように言う。


「理由がある」


「どんな理由だよ」


「それは……」


 言えない。


 絶対に。


「……はあ」


 和真が大きくため息をつく。


「じゃあ質問変える」


「……」


「お前と白瀬舞衣」


 一文字ずつ区切るように、


「関係あるのか」


 ――核心。


「……ない」


 嘘。


 完全な嘘。


 でも。


「……目逸らすな」


「逸らしてない」


「逸らしてる」


 鋭い。


 蒼葵と同じタイプ。


「……なあ伊織」


 少しだけ声が落ちる。


「俺、心配してんだよ」


「……」


「七瀬も、蒼葵も、白瀬も」


「……」


「全部、お前の周りで動いてる」


 間違ってない。


「これ、普通じゃねえ」


「……分かってる」


「なら言えよ」


 真っ直ぐな目。


「俺、味方だぞ?」


 ――その言葉が、一番きつい。


 言いたい。


 全部。


 でも。


「……ごめん」


 それしか言えなかった。



「……そうかよ」


 和真が小さく呟く。


 少しだけ、目を伏せて。


「分かった」


「……」


「もう聞かねえ」


 そう言って、背を向ける。


「和真――」


「でもな」


 足を止める。


「一つだけ言っとく」


 振り返らないまま、


「危ねえ橋渡ってんなよ」


「……」


「お前、顔に出やすいからな」


 図星すぎる。


「そのうち」


 少しだけ声が低くなる。


「絶対バレるぞ」


 ――核心。


「……」


「その時」


 一瞬だけ、振り返る。


「ちゃんと守れよ」


「何をだよ」


「決まってんだろ」


 少しだけ笑って、


「お前が隠してる“それ”だよ」


 ――全部、見抜いてるわけじゃない。


 でも。


 ほぼ、気づいている。



 教室に戻ると。


「……」


 空気が、重い。


 和真は何も言わず席に座る。


 けど。


 もう前みたいには話せない。


 ――距離ができた。



「伊織」


 横から声。


「……蒼葵」


「さっき、和真と何話してたの?」


「……別に」


「嘘」


 即答。


「顔で分かる」


「……」


「ねえ」


 じっと見つめてくる。


「もう隠すのやめなよ」


「……何を」


「全部」


 その目は、本気。


「私も」


 小さく言う。


「見てるから」


 ――二方向からの包囲。



 そして。


 窓際。


「……」


 白瀬舞衣。


 静かにこちらを見ている。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 視線が重なる。


 その目は――


 不安だった。



 放課後。


「……」


 一人で歩く帰り道。


 隣に誰もいない。


 それが逆に、重い。


「……これ」


 小さく呟く。


「いつまで持つんだよ……」


 限界は、近い。



 その夜。


「……大丈夫?」


 部屋。


 舞衣が聞いてくる。


「何が」


「今日」


「……まあ」


「……ごめん」


 小さな声。


「私のせい」


「違う」


 即答。


「俺の問題だ」


「でも」


 少しだけ近づく。


「バレたら終わるの、私もだから」


「……分かってる」


 沈黙。


 数秒。


「……ねえ」


「なんだ」


「それでも」


 少しだけ視線を逸らして、


「隠してくれる?」


「……」


「私のこと」


 その言葉に。


 迷いはなかった。


「……当たり前だろ」


 即答。


「夫婦なんだから」


「……うん」


 ほんの少しだけ。


 舞衣が笑った。



 親友との距離。


 幼馴染の疑念。


 美少女の猛攻。


 そして――


 守るべき“妻”。



 すべてを抱えたまま、


 俺は、嘘を重ねていく。



 ――この関係は、いつか壊れる。


 分かっているのに。




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