■第50話 「卒業前夜――選ぶ未来、変わらない二人」
――終わりが近づく夜ほど、いつもの時間が少しだけ静かに見える。
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白瀬家。
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「ねえ伊織」
白瀬舞衣がリビングで言う。
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「将来どうするの?」
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神谷伊織は少しだけ間を置く。
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「……まだ考えてない」
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素直な答えだった。
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舞衣は小さく頷く。
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「そっか」
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沈黙。
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でもそれは重くない。
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伊織がふと笑う。
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「でもさ」
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「明日、卒業式だな」
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舞衣も微笑む。
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「うん」
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その一言で、空気が少しだけ柔らかくなる。
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「運動会もさ」
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伊織が言う。
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「一緒に出たの覚えてる?」
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「覚えてる」
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舞衣が即答する。
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「めっちゃ疲れたやつ」
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「リレーで転びかけてたの誰だっけ」
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「忘れて」
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二人で笑う。
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「修学旅行もさ」
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伊織が続ける。
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「夜、先生にバレないように喋ってたよな」
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「バレてたけどね」
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「それな」
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また笑う。
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――積み重なってきた日常。
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それは全部、明日で一度区切りになる。
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舞衣は少しだけ真剣な顔になる。
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「ねえ伊織」
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「ん?」
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「明日さ」
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「うん」
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「私、ちゃんと話す」
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伊織は少しだけ目を細める。
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「何を?」
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「みんなに」
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「これからのこと」
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静かな決意。
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翌日。
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卒業式。
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体育館。
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空気は張り詰めている。
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卒業生代表として、
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白瀬舞衣が壇上に立つ。
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ざわつきが少しだけ広がる。
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「白瀬舞衣だ……」
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「本物だよな……」
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マイクの前。
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舞衣は一度深呼吸をする。
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「――私たちは」
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「この3年間でたくさんの人に出会い」
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「たくさんの時間を過ごしました」
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静かに、でもはっきりと。
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「私はこれから」
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「女優として活動を続けます」
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一瞬のざわめき。
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でもすぐに静かになる。
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「不安もあります」
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「でも」
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舞衣は少しだけ視線を上げる。
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「支えてくれた人たちがいるから」
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「私は前に進めます」
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その言葉の中には、
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神谷伊織への想いも確かに含まれていた。
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壇上の下。
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伊織は静かに見上げている。
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舞衣と目が合う。
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ほんの一瞬。
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でも十分だった。
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――卒業式終了。
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体育館の外。
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「なあ伊織」
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神保亘が言う。
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「お前もついに卒業かよ」
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「実感ねえな」
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伊織は空を見上げる。
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相葉正佳が笑う。
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「まあでも、お前はお前で生きろって感じだな」
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二宮真匡が頷く。
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「そういうタイプだしな」
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百瀬晴海。
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「なんか寂しいね」
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三森祥子。
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「でも、ちゃんと進んでる感じする」
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遠藤千夏。
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「うん、いい卒業だった」
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水瀬蒼葵は静かに言う。
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「これで一区切り」
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西宮七瀬も頷く。
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「でも終わりじゃないよね」
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伊織は小さく笑う。
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「終わりじゃない」
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その先にいる舞衣がこちらを見ている。
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――第3章(高校生活)終了。
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日常として確立された二人の関係は、
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次のステージへ進む準備を終えた。
第3章?終了。
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