■第49話 「静かな確立――日常としての二人」
――“特別”だったものが、いつの間にか“日常”に変わる瞬間がある。
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朝の教室。
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「おはよ」
神谷伊織が席に着く。
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「おはよう」
白瀬舞衣が自然に返す。
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それだけの会話が、もう誰も特別視しない。
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「なあ伊織」
神保亘が椅子を引く。
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「もうさ、完全に“落ち着いたカップル枠”だよな」
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「うるせえ」
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相葉正佳が笑う。
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「でも否定できないのがまたな」
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二宮真匡が腕を組む。
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「むしろ完成してる」
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教室の空気は、もはやざわつかない。
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“当然そこにある関係”として受け入れられている。
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昼休み。
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食堂。
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「舞衣さん!」
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「今日も綺麗です!」
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後輩たちの声。
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白瀬舞衣は軽く微笑む。
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「ありがとう」
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その姿は、もう“国民的女優”としてではなく、
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“学校にいる先輩”として受け入れられていた。
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一方。
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神谷伊織。
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「伊織先輩!」
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「この前の練習、助かりました!」
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部活の後輩たち。
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高校1年、2年。
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さらに同級生の同期まで。
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「普通に頼られてるな、お前」
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神保が横で言う。
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「まあな」
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伊織は淡々と答える。
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相葉が笑う。
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「なんか“安定感ある先輩枠”になってる」
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二宮が頷く。
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「悪くないポジションだよな」
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――放課後。
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校庭。
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部活の練習。
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汗を流しながらも、周囲の視線は自然だ。
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「伊織先輩!」
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「これどうですか!」
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後輩たちの声。
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伊織は軽く指示を出す。
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その様子を遠くから見ている舞衣。
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「ちゃんとやってる」
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小さく呟く。
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「意外と向いてるのかもね」
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その隣に来る七瀬。
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「うん」
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「伊織くん、ああいう“支える側”似合ってる」
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蒼葵が少し笑う。
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「たぶん本人も気づいてないけどね」
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――夕方。
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校舎の廊下。
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「なあ舞衣」
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伊織が言う。
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「ん?」
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「もうすぐ卒業だな」
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その言葉で空気が少しだけ変わる。
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「うん」
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舞衣は小さく頷く。
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「私さ」
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「女優としては続ける」
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「でも学校は終わる」
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少し間。
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「伊織は?」
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その問いに、伊織は少し黙る。
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「まだ決めてない」
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「正直、迷ってる」
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舞衣は立ち止まる。
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「そっか」
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そして優しく言う。
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「ゆっくりでいいよ」
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「一緒に考えよう」
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伊織は少しだけ笑う。
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「助かる」
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――日常は確立された。
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誰にも邪魔されない距離。
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誰にも壊されない関係。
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でもその中で唯一残るのは、
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“未来”というまだ決まっていない時間だった。
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