■第46話 「小さな嫉妬と、変わらない距離」
――関係が安定すると、人は“安心”と一緒に“小さな揺れ”も感じ始める。
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「ねえ伊織」
白瀬舞衣が言う。
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「今日さ」
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「また女子に囲まれてたでしょ」
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「……囲まれてたって言い方やめろ」
神谷伊織は即答する。
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放課後の廊下。
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ただそれだけの会話。
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「でもさ」
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舞衣は少しだけ歩く速度を緩める。
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「楽しそうだった」
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「いや普通に話してただけだろ」
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「ふーん」
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その“ふーん”が少しだけ長い。
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伊織は横目で舞衣を見る。
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「……何?」
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「別に」
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少し間。
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「ちょっとだけね」
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「ちょっとだけ?」
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「うん」
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舞衣は視線をそらす。
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「ちょっとだけ、ムッとした」
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伊織は一瞬固まる。
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「え」
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「なにそれ」
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「いや」
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舞衣は小さく笑う。
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「言いたかっただけ」
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「可愛いなそれ」
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「言うな」
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軽く肘が入る。
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でも距離は変わらない。
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むしろ少し近い。
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一方その頃。
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教室。
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「今の見た?」
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神保亘が小声で言う。
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「完全に嫉妬だろ」
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相葉正佳が即答。
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「いやでもあれ可愛い嫉妬だな」
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二宮真匡。
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「平和すぎる」
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柘植拓人。
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水瀬蒼葵は小さく笑う。
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「ちゃんと“独占したい”って感情あるんだね」
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西宮七瀬。
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「でもそれって安心してる証拠だよ」
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――嫉妬は壊すものではなく、
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“関係が続いている証拠”になっていた。
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放課後。
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白瀬家。
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「さっきのさ」
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伊織が言う。
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「なに」
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「嫉妬してたの?」
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舞衣は少しだけ黙る。
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「……した」
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即答。
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「正直に言うと」
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「ちょっと嫌だった」
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伊織は少し笑う。
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「そっか」
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「でも」
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舞衣が続ける。
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「それで怒るとかじゃないよ」
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「ただ」
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「ちゃんと見ててほしいだけ」
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伊織は少しだけ真面目な顔になる。
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「見てるよ」
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「ずっと」
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舞衣は一瞬だけ目を見開く。
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「……そういうのズルい」
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「何が」
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「安心するやつ」
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少し沈黙。
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そのあと舞衣は小さく笑う。
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「じゃあいいか」
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――小さな嫉妬。
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それは不安ではなく、
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“好きの確認作業”になっていた。
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夜。
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静かなリビング。
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「ねえ伊織」
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「ん?」
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「私さ」
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「うん」
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「たぶん、ずっとこういうの繰り返すと思う」
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伊織は笑う。
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「いいじゃん」
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「その方が分かりやすい」
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舞衣も笑う。
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「だね」
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――距離は変わらない。
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でもその中身は、
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少しずつ確実に“深く”なっていく。
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