■第44話 「プールの帰り道――縮まる距離と静かな本音」
――楽しい時間のあとほど、人は“少し先の未来”を考えてしまう。
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帰り道。
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夕方の風が少しだけ涼しい。
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白瀬舞衣と神谷伊織は並んで歩いていた。
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「……今日、すごかったな」
伊織が言う。
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「うん」
舞衣はタオルを肩にかけながら頷く。
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「見られすぎて疲れた」
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「だろうな」
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少し笑い合う。
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その空気は、いつもより少し柔らかかった。
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しばらく沈黙。
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アスファルトの音だけが響く。
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「なあ」
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伊織が言う。
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「もしもの話なんだけど」
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舞衣が少しだけ首を傾ける。
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「なに?」
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伊織は少しだけ視線を逸らす。
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「君と俺の……未来のこと」
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舞衣の足が一瞬止まる。
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「未来?」
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伊織は続ける。
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「例えばさ」
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「ずっと先の話」
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少し間。
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「家族とか……そういうの」
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舞衣は一瞬固まる。
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「……いきなり重い話しないでよ」
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顔が少し赤い。
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「いや、ごめん」
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伊織は慌てて手を振る。
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「たださ」
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「俺はさ」
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少しだけ真剣な声。
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「舞衣と一緒にいる未来って、ちゃんと想像できるんだよ」
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舞衣は黙る。
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風が通り過ぎる。
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「……それって」
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舞衣が小さく言う。
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「ずるいよね」
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「ずるい?」
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「だって」
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少し笑う。
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「そんなこと言われたら、否定できないじゃん」
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伊織は少し安心したように息を吐く。
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「で」
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「舞衣は?」
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舞衣は少しだけ視線を空へ向ける。
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「私は……」
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間。
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「ちゃんと考えたことなかった」
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正直な声。
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「でも」
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少しだけ歩く速度を緩める。
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「嫌じゃないよ」
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その一言で、空気が少し変わる。
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伊織は小さく頷く。
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「そっか」
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それ以上は言わない。
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無理に踏み込まない距離。
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でも消えない距離。
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――それが今の二人だった。
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一方。
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少し後ろを歩くクラスメイトたち。
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「今の会話やばくない?」
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神保亘が小声で言う。
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「いや、深いな」
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相葉正佳。
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「未来の話普通にしてるのすごい」
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二宮真匡。
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水瀬蒼葵は少しだけ笑う。
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「ちゃんと“関係”になってるね」
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西宮七瀬も頷く。
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「うん、もう戻らない感じ」
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――プール帰りの夕暮れ。
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騒がしい一日が終わって、
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静かな“本音”だけが残っていた。
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そして二人は並んで歩く。
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何も急がず、
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何も隠さず、
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ただ同じ方向へ。
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