■第43話 「友人たちの休日――揺れる距離感と視線」
――休日というのは、関係性を“むき出し”にする。
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「おい伊織、ほんとに来てよかったのかこれ」
神保亘が言う。
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「知らねぇよ」
神谷伊織は肩をすくめる。
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そこは市民プール。
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そして――
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「……やば」
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相葉正佳が固まった。
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「え、なにあれ」
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二宮真匡も言葉を失う。
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視線の先。
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白瀬舞衣。
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水着姿。
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一瞬、空気が止まる。
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――見惚れる、という言葉では足りない。
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「……っ」
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伊織も一瞬、動けなかった。
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「おい」
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水瀬蒼葵が肘でつつく。
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「見すぎ」
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「いや無理だろ」
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柘植拓人が即答する。
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「あれは反則」
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櫻井博和が呟く。
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「……綺麗すぎる」
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戸次佳未が小さく言う。
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森本千穂は顔を真っ赤にしている。
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「むりむりむり……直視できない……」
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女子たちも同様だった。
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百瀬晴海。
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「すご……」
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三森祥子。
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「スタイルえぐい……」
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遠藤千夏。
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「これ芸能人だわ……」
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そして――
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舞衣は気づいていた。
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「……伊織」
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「見るなとは言わないけど」
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「……ちょっと恥ずかしい」
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伊織はすぐに視線を逸らす。
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「悪い」
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だが周囲はそうはいかない。
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「白瀬舞衣だ!」
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「え、本物!?」
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プール利用客が一気にざわつく。
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「握手お願いします!」
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「写真いいですか!?」
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舞衣は一歩下がる。
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「すみません、今日はプライベートなので……」
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笑顔は崩さない。
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でも距離は守る。
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「やっぱり芸能人って大変だな」
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神保が呟く。
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「これ日常なのかよ」
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相葉が苦笑する。
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その横で伊織は少し離れた位置に立つ。
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「……すげえな」
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「何が?」
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和真が言う。
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「いや」
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伊織は視線を泳がせる。
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「あいつ、どこにいても目立つなって」
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その言葉に、蒼葵が小さく笑う。
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「そりゃ国民的女優だしね」
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七瀬が言う。
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「でもさ」
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「今の舞衣さん」
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「ちょっとだけ“伊織だけの顔”してたよ」
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その瞬間。
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伊織は一瞬黙る。
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「……やめろ」
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耳が少し赤い。
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――距離感。
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それは“平等”ではない。
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見る側と見られる側。
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近いようで遠い。
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プールサイド。
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舞衣はタオルを巻きながら戻ってくる。
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「疲れた……」
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「おつかれ」
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伊織が言う。
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「ねえ」
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舞衣が小声で言う。
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「さっき見てたでしょ」
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「見てない」
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「嘘」
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少し間。
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「……まあ」
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伊織が観念する。
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「見た」
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舞衣は少しだけ笑う。
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「正直でよろしい」
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その笑顔は、少しだけ特別だった。
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一方その頃。
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水瀬蒼葵。
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「これさ」
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「もう“普通の休日”じゃないよね」
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西宮七瀬が頷く。
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「でも悪くないよ」
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その言葉に、誰も否定しなかった。
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――芸能人と高校生。
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距離はバラバラ。
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でもその中に確かに、
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“同じ時間”が流れていた。
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