■第42話 「日常の延長線――小さな幸せの積み重ね」
――大きな出来事がなくても、関係はちゃんと前に進む。
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「今日は早いな」
白瀬舞衣がキッチンで言う。
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「部活が軽めだった」
神谷伊織は制服のネクタイを緩めながら答える。
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白瀬家のリビング。
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夕方の光が静かに差し込んでいる。
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「じゃあ手伝って」
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「はいはい」
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鍋の中で煮物が静かに音を立てる。
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特別な料理ではない。
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でも、それがいい。
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「最近さ」
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伊織が言う。
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「みんな慣れてきたよな」
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「うん」
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舞衣は包丁を置く。
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「“有名人”ってより“同級生”って感じ」
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「それが一番いい」
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少しだけ沈黙。
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その沈黙は、もう気まずいものではない。
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テレビの音。
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外の車の音。
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生活音が重なっているだけ。
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「ねえ伊織」
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舞衣が言う。
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「ん?」
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「今日、ちょっといいことあった」
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「何?」
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舞衣は少しだけ笑う。
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「“普通に見えてるね”って言われた」
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伊織は少し驚く。
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「それ、結構すごくないか?」
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「でしょ?」
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少し誇らしげな顔。
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――“普通”。
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彼らにとって、それは一番難しい状態だった。
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夜。
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夕食。
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「いただきます」
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二人だけの食卓。
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「そういえばさ」
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伊織が言う。
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「最近、噂減ったな」
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「うん」
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舞衣が頷く。
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「みんな飽きたのかな」
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「それもあるけど」
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伊織は少しだけ考える。
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「“本当っぽいもの”は騒がれなくなる」
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舞衣が小さく笑う。
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「じゃあ今が一番平和?」
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「たぶんな」
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静かな時間。
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食器の音だけが響く。
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――そして。
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その夜。
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ソファ。
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「今日もキスする?」
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舞衣が冗談っぽく言う。
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「またそれ?」
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伊織が笑う。
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「だって積み重ねだし」
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少しの間。
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「じゃあ」
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伊織が言う。
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「今日の分な」
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舞衣が少しだけ目を閉じる。
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――静かな“日常の儀式”。
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それは派手でも特別でもない。
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でも確かに、二人の関係を形作っていくものだった。
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一方その頃。
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学校。
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「なあ」
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神保亘が言う。
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「最近あいつら、ほんと普通すぎない?」
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「ああ」
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相葉正佳が頷く。
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「逆に一番理想かもな」
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二宮真匡が言う。
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「騒ぎが落ち着くと、こうなるんだな」
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百瀬晴海。
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「いいなぁ、ああいうの」
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三森祥子。
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「安心できる関係って感じ」
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遠藤千夏。
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「見てて落ち着く」
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水瀬蒼葵は静かに言う。
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「派手じゃないけど」
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「一番壊れにくい形」
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西宮七瀬も頷く。
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「たぶんこれが“完成形”なんだろうね」
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――日常は続く。
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大きな事件はない。
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でも確かに積み重なっている。
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白瀬舞衣と神谷伊織の“普通”は、
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ゆっくりと形になっていく。
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