■第41話 「家の中の距離と、変わらない関係」
――外では“普通”を演じる必要はなくなった。
それでも、家の中にはまだ“秘密”が残っている。
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「ただいま」
神谷伊織が玄関を開ける。
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「おかえり」
白瀬舞衣の声。
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もうこのやり取りは、完全に日常になっていた。
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リビング。
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制服のままの舞衣がソファに座っている。
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「今日、どうだった?」
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舞衣が聞く。
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「普通」
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伊織はカバンを置く。
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「ただ“見られてる普通”」
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「それ、一番疲れるやつじゃん」
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舞衣が苦笑する。
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「でもさ」
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伊織は少しだけ間を置く。
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「嫌じゃない」
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舞衣が少しだけ目を細める。
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「……慣れたね」
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キッチンでは夕飯の準備が進んでいる。
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2人の動きは自然だった。
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もう“共同生活”として成立している。
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「ねえ伊織」
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舞衣が言う。
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「ん?」
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「今日もキスする?」
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伊織は一瞬だけ手を止める。
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「昨日もしただろ」
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「でも“今日の分”はまだでしょ」
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少し沈黙。
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「……そういうルールだっけ?」
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「今作った」
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舞衣はさらっと言う。
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「適当だな」
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「いいでしょ」
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軽く笑う。
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その空気は、もう緊張ではない。
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自然体の“距離の近さ”。
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――ただし。
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完全に誰にも見せていない領域でもあった。
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夜。
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食事後。
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「片付け終わった」
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伊織が言う。
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「じゃあ」
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舞衣が立ち上がる。
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数秒の沈黙。
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リビングの明かりだけが静かに照らす。
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「……来る?」
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舞衣が小さく言う。
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「どっちでもいいけど」
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伊織が少し笑う。
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「じゃあ来る」
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そのまま、距離が少しだけ縮まる。
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――誰にも知られない“夫婦の時間”。
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それは外の世界とは完全に切り離されている。
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一方その頃。
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学校。
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「なあ」
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神保亘が言う。
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「最近あいつら、完全に落ち着いたよな」
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「ああ」
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相葉正佳が頷く。
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「むしろ普通すぎて怖い」
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二宮真匡が腕を組む。
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「逆にそれが一番自然なんだろ」
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百瀬晴海。
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「いいなぁ、ああいう関係」
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三森祥子。
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「ちゃんと一緒にいる感じする」
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遠藤千夏。
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「なんか安心する」
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その時。
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水瀬蒼葵が言う。
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「たぶん今が一番安定してる」
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西宮七瀬も小さく頷く。
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「壊れない関係って、こういうのなんだろうね」
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――外は静か。
でもその静けさの中で、
確かに“続いているもの”がある。
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そして夜。
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白瀬家。
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舞衣と伊織は、並んでソファに座っていた。
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「ねえ」
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舞衣が言う。
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「なに?」
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「こういうの、ずっと続くのかな」
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伊織は少し考えてから答える。
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「続けるんだろ」
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「俺たちが選んだんだから」
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舞衣は少しだけ笑う。
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「だね」
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静かな時間。
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何も起きない時間。
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それでも確かに“物語は続いている”。
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