■第4話 「幼馴染は鋭すぎる――“その関係”、隠しきれてないよ?」
――絶対に、バレる。
「……はあ」
朝、登校しながらため息が漏れる。
原因は分かりきっている。
水瀬蒼葵。
昨日のあの目。あれは完全に“気づきかけている目”だった。
「後で話あるから」
あの一言が、ずっと頭から離れない。
⸻
教室。
「おはよー」
いつもの空気。
けれど俺の中だけが、まったく“いつも通り”じゃない。
席に座る。
そして――
「……」
視線を感じる。
横。
「おはよう、伊織」
にこっと笑う蒼葵。
――笑ってるのに、目が笑ってない。
「……おはよ」
「今日、放課後空いてる?」
「……なんで」
「話があるって言ったでしょ?」
逃げ道はない。
「……分かった」
「うん」
満足そうに微笑む。
けど、その奥にあるのは――
確信。
⸻
1限、2限。
時間がやけに長い。
その間も、蒼葵の視線が何度も刺さる。
そして。
もう一つの存在。
「……」
窓際。
白瀬舞衣。
相変わらず本を読んでいる。
……けど。
今朝、家でのことを思い出す。
⸻
『放課後、気をつけて』
『蒼葵、かなり鋭いから』
⸻
舞衣の言葉。
あいつも分かっている。
危険だって。
⸻
昼休み。
「神谷くん」
またか。
振り向くと、西宮七瀬。
「今日も一緒に食べよ?」
「……いや今日は」
「ダメ?」
じっと見つめてくる。
断りづらい。
「……少しだけな」
「やった」
にこっと笑う。
――この距離感、ほんとやめてほしい。
⸻
「ねえ」
七瀬が弁当を開きながら言う。
「昨日さ、面白かったね」
「……何が」
「水瀬さんとのやつ」
「面白くねえよ」
「でもさ」
くすっと笑って、
「ちょっと嫉妬してたよね?」
「は?」
「どっちが?」
「……」
言葉に詰まる。
その時。
「伊織」
低い声。
「……蒼葵」
来た。
「今いい?」
「……今?」
「うん、今」
逃がす気ゼロ。
「ごめんね」
七瀬が割って入る。
「今この人とご飯中だから」
「関係ない」
即答。
「ちょっと借りるね」
腕を掴まれる。
「おい」
強引に立たされる。
「またね、神谷くん」
七瀬の余裕の笑み。
――完全に面白がってる。
⸻
人気のない階段。
「……で?」
蒼葵が振り返る。
「何が聞きたいんだよ」
「全部」
即答。
「最近の伊織、明らかに変」
「気のせいだろ」
「違う」
一歩近づく。
「視線。態度。反応」
「……」
「特に――」
少し間を置いて、
「白瀬舞衣」
――心臓が止まりかけた。
「……なんのことだよ」
「昨日からずっと見てるでしょ」
「見てない」
「嘘」
即答。
逃げ道がない。
「ねえ」
蒼葵はさらに距離を詰める。
「なんであの子なの?」
「……」
「関係あるんでしょ?」
「ない」
「あるよ」
断言。
「だってさ」
蒼葵は、じっと俺の目を見る。
「伊織、あの子と目合った時だけ――」
言葉を区切って、
「顔、変わるもん」
――バレてる。
ほぼ。
「……」
言葉が出ない。
その沈黙が、何よりの答えだった。
「やっぱり」
蒼葵の目が細くなる。
「何かあるんだ」
「……違う」
「じゃあ証明して」
「は?」
「今ここで」
腕を掴まれる。
「白瀬さんのこと、なんとも思ってないって」
「そんなの――」
「言えるよね?」
逃げられない。
完全に詰められている。
⸻
その時。
「……何してるの」
静かな声。
振り向く。
そこにいたのは――
白瀬舞衣。
階段の上。
こちらを見下ろしている。
「白瀬さん」
蒼葵が先に口を開く。
「ちょうどよかった」
「……何?」
「聞きたいことあるんだけど」
やめろ。
やめてくれ。
「神谷とさ」
蒼葵は、わざとらしく言う。
「どういう関係?」
――終わった。
完全に終わった。
空気が凍る。
沈黙。
数秒。
けれど、永遠みたいに長い。
「……クラスメイトだけど」
舞衣が答える。
完璧なトーン。
完璧な距離感。
「それだけ?」
「それ以上でも、それ以下でもない」
一切ブレない。
プロの演技。
いや――
本物の女優。
「ふーん」
蒼葵はじっと見つめる。
探るように。
けれど。
「……そっか」
そう言って、少しだけ笑った。
「ならいいや」
あっさり引いた。
……いや、
引いた“ように見せた”。
「行こ、伊織」
腕を引かれる。
「……ああ」
そのまま通り過ぎる。
舞衣の横を。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
目が合う。
――その目は。
明らかに、“危機”を感じていた。
⸻
放課後。
「ねえ」
帰り道。
蒼葵が隣で言う。
「まだ隠すの?」
「……何を」
「全部」
横目で見る。
笑っている。
でも。
「私、諦めないから」
その目は、本気だった。
「絶対に見つける」
――幼馴染は、もう止まらない。
⸻
そしてその夜。
「……危なかった」
俺の部屋。
舞衣が小さく息を吐く。
「完全にバレかけてた」
「……ああ」
「でも」
少しだけ近づいてきて、
「ちゃんと守ってくれたね」
「……え?」
「私とのこと」
そう言って、
ほんの少しだけ笑う。
「ありがと」
その距離は、近くて。
その声は、柔らかくて。
――やっぱり、この人はずるい。
⸻
秘密は、まだ守られている。
けれど――
崩壊は、もうすぐそこまで来ていた。
⸻
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