■第39話 「学校の噂と小さな誤解」
――“事実”は一つでも、“噂”は無限に増える。
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「ねえ聞いた?」
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教室の隅。
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女子グループの声が広がる。
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「白瀬舞衣と神谷伊織ってさ」
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「めっちゃ仲いいよね」
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「いや、もう家族なんでしょ?」
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「義理の姉弟ってやつ」
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百瀬晴海が少し困った顔をする。
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「でもさ」
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「それにしては距離近くない?」
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三森祥子が頷く。
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「手繋いで登校とか普通じゃないよね」
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遠藤千夏が小声で言う。
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「恋人に見えるっていうか……」
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その言葉で、空気が少しだけざわつく。
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一方。
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男子側。
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「なあ伊織」
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神保亘が言う。
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「お前ら、噂やばいぞ」
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「何が」
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伊織は机に肘をつく。
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「“やっぱり付き合ってる説”出てる」
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相葉正佳が笑う。
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「まあ見えるもんな」
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二宮真匡は腕を組む。
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「否定できる材料もないしな」
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柘植拓人がニヤッとする。
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「むしろ隠す気ゼロだし」
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「いや」
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伊織は即答する。
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「隠してないだけだ」
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その時。
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教室の後ろ。
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水瀬蒼葵が小さく呟く。
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「それが一番誤解されるんだよね」
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西宮七瀬が続ける。
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「でも真実って、案外そういうものかも」
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――その頃。
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校内掲示板。
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新しい噂が追加されていた。
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『白瀬舞衣と神谷伊織、実は“恋人関係”では?』
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戸次佳未がそれを見てため息をつく。
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「もう何が本当か分かんないね」
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森本千穂が不安そうに言う。
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「でも本人たちは否定してないよね?」
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櫻井博和が肩をすくめる。
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「否定する理由もないんじゃね?」
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盛本貴文。
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「もう半分は事実扱いだろこれ」
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三好朱美。
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「でもそれが一番平和じゃない?」
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福島彌生。
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「変に隠すよりはね」
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――誤解は増える。
でも悪意は減っていた。
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放課後。
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「なあ伊織」
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神保が言う。
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「お前らの関係ってさ」
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「説明すると余計ややこしくなるタイプだよな」
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伊織は少し笑う。
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「まあな」
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その横で舞衣も小さく笑う。
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「もういいよ、それで」
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“正しく伝わらない関係”。
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それでも壊れない関係。
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その夜。
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白瀬家。
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神谷紫苑が言う。
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「噂は残るわね」
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白瀬文隆が頷く。
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「それでいい」
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「真実はもう守られている」
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舞衣と伊織は顔を見合わせる。
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「……まあ」
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伊織が言う。
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「別に困ってないしな」
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「うん」
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舞衣も頷く。
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――誤解の中で生きる日常。
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それはもう、壊れる気配のない穏やかな世界だった。
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