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■第38話 「変わらない日常と、変わっていく視線」


 ――日常は変わっていないようで、確実に“見られ方”だけが変わっていた。



「行くか」


 神谷伊織かみや いおりが玄関で言う。



「うん」


 白瀬舞衣しらせ まいは自然に頷く。



 いつもの通学路。



 ただそれだけのはずなのに。



「……あ、白瀬舞衣だ!」



「ほんとだ!」



「テレビの人だ!」



 足を止める人々。



 スマホのカメラが向く。




 舞衣は軽く立ち止まり、丁寧にお辞儀をした。



「おはようございます」



 それだけ。



 派手な対応はしない。



 でも逃げもしない。




「すげえ、普通にいる」



「全然隠れてないじゃん」




 伊織はその横で歩き続ける。



 堂々と。




「……お前、慣れたな」



 小声で舞衣が言う。




「まあな」




「もう隠す理由ないし」




 その言葉に、舞衣は少しだけ安心したように笑う。




 校門。



 さらに視線が増える。




「おはよう」



 神保亘しんぼ わたる



「普通に登校してくるのすげえな」




「ほんとそれ」



 相葉正佳あいば まさよし




 二宮真匡にのみや ただしは腕を組む。



「もう日常だな、これ」




 そして――



 教室前。




 伊織と舞衣は立ち止まる。




 一瞬、視線が集まる。




 そして。



 ――同時に。



 二人は教室に入った。




 そのまま。



 手を繋いだまま。




「……え」



「え?」



「ええええ!?」




 一気にざわつく教室。




 百瀬晴海ももせ はるみが固まる。



 三森祥子みもり しょうこが口を押さえる。



 遠藤千夏えんどう ちなつが目を見開く。




「いやいやいや」



 柘植拓人つげ たくとがツッコむ。



「普通に手繋いで入ってくるな!」




「もう隠す気ゼロじゃん」



 戸次佳未とつぎ よしみが呟く。




 森本千穂もりもと ちほは顔を真っ赤にしている。



「すご……リアルで見た……」




 櫻井博和さくらい ひろかずがため息。



「逆に清々しいな」




 盛本貴文もりもと たかふみ



「もう普通の高校の光景じゃねえ」



 三好朱美みよし あけみ



「でもなんか……いいね」



 福島彌生ふくしま やよい



「隠さない方が安心する」




 その時。



 教室の後方。



 水瀬蒼葵みなせ あおい



「……やっとここまで来たね」




 西宮七瀬にしのみや ななせは微笑む。



「うん」



「これで“普通”だね」




 だが。



 その“普通”の中で。



 誰もがまだ一つだけ誤解している。




 ――白瀬舞衣と神谷伊織が「夫婦」であることは。



 まだ、誰にも知られていない。




 放課後。



 廊下。



「今日さ」



 伊織が言う。



「買い物行くか」




「うん」



 舞衣が即答する。




 その会話を聞いた誰かが言う。



「え、また一緒?」



「仲良すぎだろ」




 でも誰も気づかない。



 その関係の“本当の深さ”には。




 そして未来。



 この後…



 ――堂々とした買い物の日常。



 ただし。



 誰もまだ知らない。



 彼らがすでに“夫婦”だということを。




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