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■第35話 「記者の逆襲――“普通”を壊す記事」


 ――“普通”は、作られた瞬間から壊されやすくなる。



「……まだ出すの?」


 編集部の空気は重かった。



 東繭子ひがし まゆこがモニターを見つめている。



 画面には、例の二人。



 白瀬舞衣しらせ まい神谷伊織かみや いおり



 ショッピングモールでの写真。


 何気ない会話。


 自然な笑顔。



「これが一番危ない」



 東は呟く。



「“普通に見える芸能人”ほど壊しやすい」




「でも」



 林輝久はやし てるひさが言う。



「もう家族関係は公表されています」



「恋愛の余地は薄いです」




「だからよ」



 東は即答した。



「“距離”を疑わせるの」




 キーボードに手が伸びる。



 ――記事タイトル。



『義理の姉弟は本当にそれだけなのか?』




「……これでいく」




 その瞬間だった。



 東の指が止まる。




「……」



 モニターに映る写真。



 笑っている二人。



 買い物袋を持ちながら並んで歩く姿。



 ただ、それだけ。




 でも――



 どこかで“本当に幸せそう”に見えた。




「……」



 東はしばらく無言になる。




「これを出したら」



 小さく呟く。



「何が残るの?」




 林が答えない。




 編集室は静まり返る。




 東はゆっくり椅子にもたれた。



「……やめるわ」




「え?」




 林が顔を上げる。




「出さない」




「……本気ですか?」




「ええ」




 東は静かにモニターを閉じる。



「これ以上は」



「ただの“破壊”になる」




 ――記者としての線。



 その境界線を、初めて自分で引いた。




 一方。



 白瀬家。



「……終わった?」


 舞衣しらせ まいが言う。




 神谷紫苑かみや しおんはスマホを見て頷く。



「少なくとも“第二波”は止まった」




「完全に?」




「ええ」




 紫苑は少しだけ目を細める。



「珍しいわね」




「記者が“止まる”なんて」




 その言葉には、わずかな驚きがあった。




 その頃。



 神谷伊織かみや いおり



「……静かだな」




 和真かずまが笑う。



「嵐の後ってやつだろ」




 教室。



 百瀬晴海ももせ はるみ



「なんか……落ち着いたね」



 三森祥子みもり しょうこ



「やっと普通っぽくなった」



 遠藤千夏えんどう ちなつ




 西宮七瀬にしのみや ななせ



「これで終わりならいいね」




 水瀬蒼葵みなせ あおい



「終わりでいいよ」




「もう十分戦った」




 一方。



 夜。



 東繭子は一人で歩いていた。



 ビルの外。



 冷たい風。




「……壊すのは簡単なのにね」




 小さく笑う。




「でも」




 空を見上げる。



「守られてるものは、壊したくない時もあるのよ」




 そのまま歩き出す。




 記事は出ない。



 炎も増えない。



 そして――



 初めて。



 この物語に“戦わない選択”が生まれた。




 白瀬舞衣と神谷伊織は、



 ただの“普通”を取り戻していく。



 少しずつ。



 壊れかけた世界の中で。





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