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■第32話 「暴露寸前――記事完成」


 ――すでに、止められる段階は過ぎていた。



 夜。


 白瀬家の応接間。



 白瀬舞衣しらせ まいは、静かに座っていた。



 そして向かい側。



 神谷紫苑かみや しおん



 ふたりきり。



「……記事、出るのね」


 舞衣が言う。



「ええ」


 紫苑は即答した。



 テーブルの上。



 タブレットには完成した原稿。



 ――“白瀬舞衣、義理の弟との関係疑惑の真相”



「もう止まらないわ」



「……そう」



 舞衣は視線を落とす。



「怖い?」



 紫苑が聞く。



「少し」



 正直に答える。



「でも」



 顔を上げる。



「逃げるのは、もっと怖い」




 紫苑は小さく息を吐く。



「いい答えね」




「あなた」



 紫苑が言う。



「覚悟はできてる?」




「うん」



 舞衣は即答した。



「女優としてじゃなくて」



「人として」




 沈黙。




「……伊織は?」



 紫苑が静かに聞く。




「同じ」



 舞衣は少しだけ微笑む。



「一緒にいるって決めたから」




 紫苑はその言葉をしばらく見つめる。



「……そう」




 タブレットを閉じる。




「なら確認するわ」



 紫苑の声が変わる。




「この記事が出た後」



「あなたたちはどうなるか分かってる?」




 舞衣は少し黙る。




「叩かれる」



「疑われる」



「仕事が揺れる」




「うん」




「それでも?」




「それでも」



 迷いはなかった。




 紫苑は小さく笑う。



「……やっぱり似てるわね」



「誰に?」




「あなたの父親と」




 その言葉に、舞衣が一瞬だけ目を見開く。




「強引で」


「不器用で」


「でも最後はちゃんと守る」




 紫苑は視線を窓へ向ける。



「だから私は頼んだの」




白瀬文隆しらせ ふみたかに」




 舞衣の表情が少し動く。



「……父に?」




「ええ」




「家族公表をね」




 静かな沈黙。




「……本当に出すの?」



 舞衣が聞く。




「ええ」



 紫苑は即答。



「でもね」



「これは“終わり”じゃない」




「始まりよ」




 その時。



 スマホが震える。




 紫苑の画面。



 白瀬文隆からのメッセージ。




『準備はできた』




 たったそれだけ。




「……来るわね」



 紫苑が言う。




 舞衣は静かに立ち上がる。



「ねえ」




「なに?」




「伊織には言ってあるの?」




 紫苑は一瞬だけ沈黙する。




「“全部はまだ”」




「……そう」




 舞衣は少しだけ笑う。



「びっくりするね、きっと」




「いいの?」




「いい」




 即答だった。




「一緒に生きるなら」



「全部一緒じゃないと」




 紫苑は目を細める。



「……ほんと、面倒な娘ね」




「よく言われる」




 少しだけ空気が柔らかくなる。




 でも――



 その柔らかさの裏で。



 すでに“公開ボタン”は指先のすぐ近くにあった。




 そして。



 世界はまだ知らない。



 この数時間後に起きることを。



 “家族”という名の真実が、



 全ての前提をひっくり返すことを。




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