■第23話 「違和感の連鎖――クラス全体が気づき始める」
――空気が、変わっていた。
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朝。
教室。
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「なあ神谷伊織」
声をかけてきたのは、
神保亘。
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「……なんだ」
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「これさ」
スマホを見せてくる。
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例の写真。
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「……」
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「似てるよな?」
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横から、
相葉正佳が口を挟む。
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「いや似てるってレベルじゃなくね?」
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「本人じゃね?」
さらに、
二宮真匡。
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「……違う」
即答。
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「いやでもさ」
神保が言う。
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「顔、完全一致じゃん」
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「……偶然だろ」
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「そんな偶然あるか?」
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――鋭い。
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そのやり取りを、
後ろの席で聞いていたのは――
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「……ねえ」
百瀬晴海が小声で言う。
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「やっぱりそう思う?」
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「うん」
三森祥子が頷く。
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「距離感、おかしいもん」
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「ね」
遠藤千夏も続ける。
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「普通のクラスメイトじゃない」
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――女子側も気づき始めている。
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「……」
教室のあちこちで、
同じ話題。
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そして――
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ガラッ。
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ドアが開く。
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入ってきたのは、
白瀬舞衣。
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その瞬間。
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全員の視線が、一斉に集まる。
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「……」
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無言。
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でも。
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“知ってる空気”。
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「……おはよう」
静かに言う。
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誰もすぐに返さない。
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一拍遅れて、
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「……お、おはよう」
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ぎこちない返事。
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――完全に変わった。
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「……伊織」
小さく呼ばれる。
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振り向くと、
水瀬蒼葵。
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「……やばいね」
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「……ああ」
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「もう“個人”じゃない」
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「……」
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「クラス全体が気づいてる」
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その通りだった。
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その時。
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「神谷くん」
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「……」
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西宮七瀬。
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「これさ」
スマホを軽く見せる。
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「止まらないね」
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「……」
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「でも」
一歩近づく。
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「まだ“確信”じゃない」
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「……」
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「つまり」
小さく笑う。
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「ギリギリセーフ」
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――本当にギリギリ。
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その時。
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「おーいお前ら」
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軽い声。
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新垣恒星。
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「朝から何騒いでんの?」
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「いやこれ見ろよ」
神保がスマホを見せる。
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「……え?」
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「……マジ?」
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一瞬で表情が変わる。
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「これ……白瀬じゃね?」
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「でしょ?」
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「で、隣……」
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視線が、こちらに向く。
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「……神谷?」
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「……」
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否定しても、もう遅い。
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クラス全体に、
“線”が繋がっていく。
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――違和感が、確信に変わる直前。
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その時。
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「はい、席つけー」
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教師が入ってくる。
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一旦、空気が途切れる。
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でも。
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止まらない。
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小さな視線。
ひそひそ声。
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全部が、突き刺さる。
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授業中。
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「……」
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前を向いていても分かる。
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見られている。
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そして。
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横。
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舞衣。
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視線は前。
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でも。
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手が、少しだけ震えている。
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「……」
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何もできない。
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それが一番、苦しかった。
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放課後。
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「……伊織」
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和真が呼ぶ。
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「……なんだ」
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「これ」
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「……」
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「今日一日で」
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「クラス、ほぼ全員気づいた」
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――終わりが近い。
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「……ああ」
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「で」
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一歩近づく。
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「どうする」
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「……」
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答えは出ていない。
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その時。
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「……ねえ」
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後ろから声。
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振り向く。
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百瀬晴海。
三森祥子。
遠藤千夏。
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「ちょっといい?」
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「……」
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逃げられない。
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「……なに」
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「正直に聞くね」
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百瀬が言う。
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「白瀬さんと」
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一拍。
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「どういう関係?」
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――直球。
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完全に、逃げ場が消えた。
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そして。
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その背後で。
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「……やっとここまで来た」
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廊下の奥。
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東繭子が、静かに笑っていた。
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――すべてが繋がる直前。
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秘密は、
もう“個人のもの”じゃない。
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クラス全体へ。
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そして――
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世間へ。
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広がっていく。
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