捨て駒
■ 烏合の衆
「兄貴!」
「はぁ、ハギム…… お前何度言ったらわかる? 隊長と呼べって言ってるだろ?」
ハギムと呼ばれた狐人は、しまったと頭を下げる。
「で、なんだ? ちっとはいい獲物でも見つかったか?」
「兄、いえ、ソド隊長、もうここいらに人はおりやせん。ほぼこの港町の制圧が終わりやしたんで……」
ソドと呼ばれた猫人の男は、手を上げてハギムを黙らせる。
「わかった、こんなシケた港町じゃあな、面白みもないな。まあいい、しばらく連絡があるまでここに駐屯だな」
この二人、以前もこの港町で悪事を働いていた。
その際は葉山や増山を奴隷として売り飛ばそうと企んでいたが、葉山の感覚共有によって悪事は暴かれ、船上から逃げ出した過去があった。
「ソド隊長、この港町はうちらにとって縁起悪い場所ですぜ」
「まあそれはあるが、もう俺も今じゃ隊長よ。今回はちと違うぜ」
ソドがふんと胸を張る。
以前の船上から逃げた際、ウェスガルガンの商船に救助され、今に至る二人だった。
付き合いのある奴隷商人からの伝手で、ウェスガルガンに取り入ったことにより、海軍の隊長の地位を得た。
「あの、兄貴。いや、隊長……実は」
「なんだってんだ、さっきから」
言い淀むハギムも、それを聞くソドも、何かおかしいそれはわかっていたのだった。
だが、お互いが認めたくない、目を背けたいそんな状況ではあった。
「実は、この海軍の兵士って、おかしいでしょ? いう事も聞かないし、そもそもこれ本当に兵士かって、罪人かなんかじゃ……」
鈍いハギムですら、薄々と理解しているようだった。
ソドは自分では天才だと己惚れる男だから、尚更に感じていることであった。
「まあ、最初は仕方ないさ。これをやり遂げれば、そのうち将軍になれるかもしれん」
ソドもそもそも、うさん臭さは感じていたのだが、せっかく掴んだチャンスだったから、それにしがみついていた。
だが、現実としては、このソルの港町を襲撃して以来、配下として入った二百名は、全く言うことを聞かず、酒を飲んでは喧嘩する始末であった。
(本当にウェスガルガンから後続部隊は来るのか?)
ソドへの指示は、ソルには駐屯している兵がほぼいないので、まずはそれを蹴散らししばらく確保し、その後やってくる海軍師団の到着を待て、ということだった。
「ハギム! 見回りに出るぞ!」
不安や懸念を打ち消すように言うと、ソドは配下のいる酒場へと向かっていった。
■ 朝霧隊
一方、サウドレシグ国境付近では、対ウェスガルガンの諜報活動として、長野以下十五名の隊員が潜伏して諜報活動を行っていた。
「隊長、戻りました」
長野の後ろにエルフが立っていた。
サウドレシグの軍務テントの一角を借りた執務室で、長野が書棚で国境付近の地図を選んでいたところだった。
金髪の長い髪は後ろでまとめられており、顔は布で覆われ目元だけが見えていた。
切れ長の目が美しく、布の下にも美しい鼻と口が見えるのでないか、そんな想像をさせる風貌だった。
「エル、どうだったの?」
長野は書棚から振り返りもせずに応える。
声から誰なのかわかっているからだった。
「さきほどソルの港町に、ウェスガルガンの襲撃があった模様です。先週出立した軍船だと確認が取れました」
そこで長野が振り返り、エルに頷いた。
エルと呼ばれているが、エルダニール・リンウッドという名で、さすがに長いため、エルと呼ばれていた。
「そう、あの陣容だと大した戦力ではないけれど、ソルの港町には兵力がないし…… 後続は出そうなの?」
ちょっと考えて、長野がエルに確認する。
「いえ、いまのところ正規海軍に動きはありません」
「なるほど、やはり陽動のようね」
エルの報告に長野が断定する。
「はい、間違いないかと。キミ団長にも報告なさいますか?」
エルが再度確認を行うが、長野がはあとため息をつく。
「エル、あなたのその”キミ団長”って、それどういう意味なの?」
「いえ、私の親愛の意味を込めて呼ばせて頂いています」
答えるエルの目はキラキラと輝いていた。
── 話は一年前に遡る
イストリアの軍編成が話し合われ、和田達も軍に組み込まれるという前提で、色々な構成案が模索されていた。
軍事面で重視すべきは情報である。
イストリアで最も遅れている分野であることも明白だった。
そういったこともあり、諜報活動のための専門部隊設立は急務という話が持ち上がる。
そうなると、必然的に隠密や策定を持つ長野が隊長となり、部隊を作ることとなったのだ。
当然部隊にも隠密や索敵を持った人材が必要となり、エルフの集落に能力に長けた人材の噂を聞いたため、和田と長野でスカウトに向かった。
その道中で、騒動に遭遇した。
十数人の盗賊が、何かを襲撃しているようだった。
長野の隠密からの索敵の結果、エルフが人族によって取り囲まれている、という状況だった。
魔法の痕跡があり、トラップのようなものにハマったようだ。
じりじりと範囲を狭める盗賊達の前に、いきなり和田が現れた。
盗賊達には瞬間移動に見えたが、強烈な踏み込みからの跳躍でエルフの前に立ちはだかったのだった。
そこからは、和田の斬撃と長野の弓で次々と倒れていく盗賊。
盗賊を追い散らすと、エルフの拘束魔法も消えたようだった。
「大丈夫かな?」
手を差し出す和田に、エルフが目を向ける。
── アッ
エルフを何かが貫いた、そんな衝撃を受けているようだった。
「キミさん、盗賊は片付いたわよ。 ………どうしたの?」
長野の言葉に反応するように、我に返るエルフ。
「あ、私はエルダニール・リンウッド。この先のエルフの集落の者です。あの、本当になんとお礼をしたらよいか… あなたは、キミさんとおっしゃるのですか?」
和田の手を握り締めるエルフが、顔を赤らめてもじもじしていた。
この後、このエルフが探していた人材と知り、スカウトをするのだが、二つ返事で朝霧隊への入隊を決めたことは言うまでもなかった。
この経緯を思い出しながら、長野が再度はあとため息をついた。
「団長へは私から報告は上げるので、あなたはウェスガルガンの監視に戻ってちょうだい」
長野の言葉に、少し不服そうなエルが音もなく消えて行った。
(長野:団長、今話せますか?)
長野がアポーツ通信を開始する。
(和田:こちら和田。何かあったか?)
(長野:ウェスガルガンから出た船が、ソルの港町を襲撃したみたいね)
(和田:ああ、こちらでも内容把握した。葉山達を向かわせた)
(長野:なら、こちらからは支援いらないわね。後続の海軍は出てないから、多分陽動ね。葉山隊なら大丈夫だわ)
(和田:エイホリックが朝霧隊を動かせって、騒ぎ出してるがねじ伏せた)
(長野:ありがとう、ほんとあの人疲れるのよね)
(和田:結果そっちにも伝えるが、てる美はウェスガルガンに集中してくれ)
(長野:了解です。オーバー)
通信を終え、長野も隠密を発動してスッと消えて行った。
■ 葉山隊始動
ソルの港町の手前にある森の中に、葉山以下十五名の葉山隊の姿があった。
「ニルニャン、鳥さん呼んで」
呼ばれた少女が進み出て頷く。
「わかりました」
葉山と同じくらいの年齢に見える、人間の少女だった。
名をニルナバーナといい、この葉山隊の中では特殊な役割だった。
通常は魔物や動物をみつけてからのテイムとなるが、ニルナバーナのスキルは離れていても感知できるものがあれば、呼び寄せることができるのだ。
静かに目を閉じると、ニルナバーナの髪の毛がふわりと浮き上がる。
そして、全身がわずかに光ったように見えた。
「隊長、三羽ですけど、スカイキャットが来ます」
数分して目を開いたニルナバーナが告げると、こちらへ飛んでくるスカイキャットが見えた。
猫に翼が生えており、鳥なのか猫なのかわからない。
海沿いには比較的によく見かける獣だ。
「鳥さんじゃないか、まあいっか、じゃあ偵察頼んだよ!」
そのスカイキャットを葉山がテイムし、およそ三キロほど先のソルへとスカイキャットを向かわせたのだった。
スカイキャットは従順に飛び去り、すぐに空へ溶けて行った。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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