ソル奪還
■ 奇襲
── ドドドドドドッ
「なんだ、どういうこった!」
ソルの港町に、重低音の地響きが満ちていた。
音に驚いた兵士たちが、慌てて酒場から飛び出してくる。
装備もきちんと装備しておらず、赤ら顔の兵士たち。
酔って寝ていたのか、髪もぼさぼさな者が大半だった。
「なんで、こんなところにマッドライノがいるんだ!?」
目前には、まさに突進してくるマッドライノが十数匹があり、こちらへ向かっているのは明白だった。
その状況で、酒場に戻ろうとする者、酒場から出てこようとする者で、入口付近の小競り合いが発生する。
出せ、戻れの怒号が飛び交うところへ、マッドライノが殺到した。
兵士の数人が吹き飛ばされる。
その段階で、マッドライノはすっと反転し、引き潮のように引いて行く。
── シャアアアアアッ
呆気にとられている兵士隊の隙間を縫って、巨大なグレートボアが数匹が這い寄ってくる。
これもまた、グレートボアの巻き付きや、肩を噛まれるなどによって、数人の兵士が倒れる。
完全に混乱した兵士が逃げ出している。
その時、地上に巨大な影がすっと移動する。
怯えた兵士たちが見上げる先には、レッドドラゴンが旋回していた。
レッドドラゴンには葉山が乗っており、状況を確認すると軍船へ向かった。
「よし、リズ! この船燃やしちゃって!」
── ブフォォォォォォッ
レッドドラゴンのブレスが軍船を捉える。
マストや甲板に火の手が上がるのが見えた。
そこに来て、兵士たちも自分らの軍船が燃えているのが見え、大混乱に拍車がかかった。
「お前ら、消火しろ! 燃えたら帰れないんだぞ!」
ソドが激しく指示をだすものの、兵士たちは顔を見合わせるだけだった。
「ハギム、お前も早く火を消してこい!」
その指示が聞こえたのだが、ハギムは動かなかった。
「隊長、いや、兄貴! もう無理だって。逃げたほうがいい。どう見ても、荒くれものか罪人を押し付けられただけだって」
ハギムを遮って消火へ向かわせようとしたが、目の隅で兵士達が逃げ出すのが見えてしまった。
「く、ここまでなのかよ……」
ソドはそこまで言うと、小舟に向けて走りだした。
「ハギム、来い! 逃げるぞ」
ソドは飛び乗った小舟を出すと、がむしゃらに漕ぎ出した。
「兄貴! 待ってくださいよぉ」
ハギムが走って海に飛び込むと、ソドが漕ぎ出す小舟へ向けて泳ぎ出した。
■ 掃討戦
「大体落ち着いたかにゃ?」
葉山は軍船を炎上させ、しばらく空からの状況を確認していたが、ほぼ敵は逃げ出しており、沈静化に向かっていた。
レッドドラゴンを地上に降ろし、葉山が飛び降りる。
「リズ、ありがとうにゃ」
レッドドラゴンが頭を寄せてきたので、葉山が優しく撫でる。
このレッドドラゴンは、イストリア軍編成に伴って創設された葉山隊の増強のため、葉山がテイムしてきたものだ。
当初、葉山はレッドリザードだと思い込んでおり、レッドリザードだからリズだ、といつもの葉山の適当なネーミングで紹介した。
だが、それを見た者全てから、レッドドラゴンであると総突っ込みを受けることとなったのだった。
── チリリ
(ブレル:隊長、今どこですか?)
ブレルからの通信で、葉山のアポーツデバイスが反応する。
ブレルは葉山隊の中で軍師的な存在であり、葉山のサポートができるしっかり者だ。
(葉山:酒場の前にいるから、みんなで僕のとこに来て!)
(ブレル:じゃあ、落ち着いたってことでしょうか?)
(葉山:多分……ほとんど逃げてるけど、船燃やしてやったにゃ!)
(ブレル:わかりました。では全員でそちらに向かいます。オーバー)
アポーツ通信が終了すると、葉山はとある屋台のほうへ歩き出す。
そこには、見覚えのあるイカ焼きの屋台が、無残に破壊されていた。
その屋台を見つめ、葉山が静かに怒気を発していた。
── ドドドドドド
マッドライノに跨る葉山隊の面々が駆け寄ってくる。
先頭でやってきたのは、ブレルだった。
マッドライノから飛び降りたブレルは、葉山より少し年上の背の高い少年だった。
(ヤバ、隊長めちゃくちゃ怒ってるよ)
ブレルはすぐに葉山の状況を察した。
手を上げて、全員に止まるよう合図を出す。
「ブレにゃん、これやった奴ら許せん! キレイキレイしないとにゃ」
葉山がイカ焼きの屋台を指差している。
「そ、そうですね。街をこんなにするなんて」
(いや、隊長も船燃やしてますけどね……)
ブレルは心の中で突っ込んで、またかと独り呆れていた。
「イカ焼きが、僕のイカ焼きが……」
葉山のつぶやきは拾わず、ブレルが掃討戦の指示を出す。
「隊長、じゃあキレイキレイしていきましょう!」
ブレルはさっさと終わらせることを優先することに決め、すぐにマッドライノに跨ると、全員にも進軍を指示し走り去った。
それを見届けると、葉山もレッドドラゴンに跨ると再び空へと舞い上がった。
そこからはローラー作戦で、建物一つ一つを全員で確認していった。
空が夕日に染まる頃には、残敵数人がまだ建物にいたものの、全員が捕縛されていた。
住民はすでに避難していたようで、被害はなかったことが確認できた。
「隊長、これにて全ての掃討が完了しました。逃げた兵士は連絡しておきます。王都から捜索隊を出してもらいましょう」
「ブレにゃん、お疲れさん。じゃあ、それ報告しといてにゃ」
ブレルはいつものことと諦めていたが、些末なことから大事なことまで、とにかくブレルへ丸投げの葉山であった。
(ブレル:和田団長、ソル奪還につき急報失礼いたします。応答願います)
── チリリ
しばらく間があって、ブレルのアポーツデバイスが応答する。
(和田:こちら和田。ブレルか、そちらソルの状況詳しく頼む)
(ブレル:はい、こちらソルを奪還し、掃討も完了しております)
(和田:そうか、お疲れ様。それで、損害は? 住民の被害は?)
(ブレル:現時点の確認では、酒場、宿屋、および屋台三件の破損を確認。軍船二隻、こちらは敵のものですが、半焼しております。それから住民は避難済みと思われ被害はありません。敵兵は大半が逃げておりますので、王都からの捜索隊を要求します)
(和田:わかった。すぐに捜索隊を手配する。敵の増援は無いと把握しているが、念のためしばらく待機するように。明日の朝に定時連絡頼む)
(ブレル:了解しました。報告は以上です。オーバー)
「隊長、ワダ団長に報告入れておきましたよ。しばらく待機だそうです」
ブレルの言葉に、葉山が興味なさげに手を振って答える。
「全員、警戒に入る。二人ずつ警戒箇所入口、港を三交代で……」
ブレルは慣れた感じで、葉山隊員へ指示を出していった。
■ 蠢動
慌ただしく蠢く黒い点が徐々に増えている。
砂漠を渡る風と黒い点が動いた後からも、砂煙が上がっていた。
ここは、あと少しでサウドレシグの国境となる場所だった。
「増えて来てるわね」
望遠鏡を覗き込んだまま、長野がつぶやく。
「隊長、またワーウルフが全体囲んでます。詳しく索敵が難しい状況です」
エルが悔しそうに報告する。
「そうね、前もワーウルフのせいで調べられなかったわね」
そう言って、長野は静かに望遠鏡を外した。
「ただ、これはどう見ても、兵を増強しているわね。つまり、ソルの襲撃はここから眼を逸らすための陽動なんでしょうね」
そこまで話すと、長野がエルに尋ねる。
「詳細はわからないだろうけど、あの兵数はどの程度になりそう?」
エルが少し逡巡して答えた。
「前衛だけで、少なくとも十万は出てきています。後続も動いてますので、これはかなりの大軍となるかと思われます」
その報告を聞き、ため息をついた長野が見上げた空には、相変わらずの緑色の月が輝いていた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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