グウォール大陸の行方
■ 久しぶりの休日
大賢者・ハルアットが目覚めたことは、宰相の瞬く間に街中に広まった。
市場では人々の活気がさらに上がって、お祭り騒ぎとなった。
このことからも、いかにハルアットが国の中で重要な位置にいるか、改めて浮き彫りとなった。
「なあ、大賢者さんよ、もう大丈夫なのか?」
和田は呆れていた。
ハルアットは大量の木版を並べ、紙に書き写していたからだ。
「ふん、ワシにはあと六年しかないんじゃ。やることやっておかんとな」
がりがりと紙に書き写していたが、ふと手を止めて和田を見る。
「そういえばお主、なんか忘れてはおらんか?」
「え、何が? 何かあったか?」
はあ、とため息をつくハルアット。
「お主らを呼んだのは何のためじゃ。まだ紙のことしか聞いておらんが?」
「いや、誰だよネズミになったのは。そんな暇なかったよな?」
ハルアットと和田が口論を始める。
「ダハハハ、まあまあ、大賢者殿も、和田くんも元気なことは良いですがな。もう、旅もしばらくはいいでしょう? 私とタクでみっちり、色んな技術的貢献をするんですぞ」
豊明が割って入り、ハルアットもそれはそうかと納得する。
「ふん、ワダアよ、お主は好きにせい。トヨアケ、もう時間もないで頼むぞ」
その勢いで和田達は部屋を追い出されてしまった。
「僕は孤児院に行ってくるにゃ。うん、で、はい」
そういって葉山が手を差し出す。
「ん? なんだその手は?」
「お金にゃ! いつも無駄遣いするからって、お財布取られてるから」
和田は財布を一回渡したが、すぐに取返し、銀貨を数枚だけ渡す。
「お前ほんと、速攻で浪費するからな。それだけにしろ。それでも肉串何本食えるかわかるよな? 動けなくなるまで食うなよ?」
銀貨をさっとひったくると、葉山は駆け出していた。
「小学生かよ」
和田が呆れて葉山の後ろ姿を見ていた。
「和田殿、私も和食が恋しくなったので、こちらの食材でなんとか再現したいんです。だから、ちょっと市場へ行ってきますね」
増山もそう言って去り際に長野へウィンクして、肩をポンポンと叩いた。
長野がソワソワして、少し赤くなっている。
「キミさん、今日は久しぶりに休みよね? どこか一緒に行く?」
「あ、そ、そうだな。休み、ってことになるかな」
二人に間に微妙な空気が流れていた。
■ ロークス連邦 対ウェスガルガン対策会議
「イストリアと同盟を結ぶべきです!」
ロークス議連本部の討議会場にて、若い将校が声を張り上げていた。
「ザルツ少佐。主張はわかったがな。イストリアのような小国と我々では軍事力も国力も到底比較にならぬほどだ。同盟といっても、こちらが助けるだけになるのではないかね?」
ロークス議連本部の討議会場がざわついていた。
今はウェスガルガンとの対策を討議しており、少佐以上の将校を集めての対策会議であった。
一応少佐にも発言の機会はあるが、どちらかといえば形式的な意味合いしかなった。
ほとんどが大佐以上の発言に重きが置かれる状況が普通であった。
「お言葉ながら、バイルザック中将、我が海軍の守護神たるホストルが心を許し、盟友の契約を結んだ人物がイストリアにはおります。また、我々の技術をも凌駕する魔道に長けた人物もおり、馬が引かぬ馬車を操っておりました」
さらに続けるザルツに、議場はさらにざわめきが広がった。
── ダンダンダン
「みな、静粛に。議論中だぞ、静まるんだ」
そう言ってバイルザックが机を叩く。
「ふーむ、もちろん、海軍の守護神をないがしろにするつもりはないが、にわかに信じられん……」
「恐れながら、申し上げます」
バイルザックが考えているところに、新たに一人の将校が立ち上がる。
「よかろう、発言を許す」
バイルザックが頷いて発言を促す。
「ありがたき幸せ、私は陸軍少佐ドールフであります。私はウェスガルガン国境付近で、盗賊討伐の任に当たっておりました。その際、ザルツ少佐の話にあったイストリアの冒険者に遭遇致しました」
そこでいったん話を切り、バイルザックを確認するドールフ。
バイルザックは手を上げ、頷いて了承する。
「数百の盗賊に臆することもなく、たったの数名で賊をおびき出して罠にはめると、卓越した造形魔法と知略を用い、無傷で賊を討伐したのであります。彼らは黒死教と決着をつけるため、アフテンスラットへ向かっておりました」
バイルザックがそこではっとする。
「もしや、その彼らが黒死教を?」
ドールフが大きく頷いて続ける。
「はい、その通りでございます。”常夜の平原”で黒死教を壊滅させたのは、彼らで間違えありません」
ドールフがそこまで話、一礼すると静かに着席した。
「なるほど、ザルツ少佐の言葉は少し検討する余地はあるようだな。この議論の後に、詳細な報告書を上げたまえ」
「はっ。後ほど報告書を提出いたします」
ザルツも一礼し、着席してドールフに目礼を返したのだった。
その後、ウェスガルガン対策の議論は続き、各国との状況が確認された。
アフテンスラット皇国はあくまでも中立を取るとのこと。
サウドレシグは、イストリアと同盟の方向であり、ロークス連邦からの打診にも、同盟を希望との報告がきていること。
キレスジレドは基本中立であるが、ウェスガルガンとの国境を接していないため、様子見をすると報告してきた。
イストリアについては、どうするか決めていなかったため、ザルツやドールフの発言で少し同盟の方向になった可能性があるというところか。
そもそもが、イストリアは無視されていた、といったほうが正確かもしれない。
いずれにしても、ウェスガルガンの存在はこの大陸での脅威であり、いずれの国家も降伏や従属するようなことは避ける方向で話は進んでいる。
侵略も辞さないウェスガルガンの姿勢に、今後はロークス連邦を中心とした反ウェスガルガン連合が形成されるであろう。
■ 邪悪なる鼓動
ウェスガルガンの北部・セイダール山脈の奥深くに、人知れず闇の虚空がひろがっている。
その最奥にはマグマのような赤い光が立ち込めていた。
── ドクッ
本当にたまにだったが、何らかの振動があった。
── ドクッ
パラパラと一部の岩が剥がれ、その中には赤銅色の皮膚が見えていた。
(足りんぞ、まだ足りんぞ……)
目を開くこともできず、手足も動かない。
そこに倒れていたのは、あのマズルフだった。
(鼓動が聞こえる、封印が……もう少しなんじゃ、あと少し……)
よく見ると、岩にはクネクネとした文様が施されていた。
何等かの封印ということなのか。
マズルフの手がピクッと動いた。
── ビシャッ
マズルフの動きに反応するかのように、赤銅色の肌から触手が飛び出す。
── ズズズズズ、ジュルッ
触手はマズルフに差し込まれ、ストローで吸い込まれる紙パックのように、一瞬でひしゃげる。
── ドクッ
後には、皮だけになったマズルフの抜け殻が残った。
◇◇
この年、イストリアはウェスガルガンに対抗するため、新たに国軍の編成を発表した。
和田達レッドアイのメンバーも、特別顧問として招集され、正式に国軍の組織に編入されることとなったのだった。
グウォール大陸では、ウェスガルガンの野望により、大陸全土を揺るがす大戦が勃発する。
そして、邪悪な存在もまた、覚醒の時を虎視眈々と待っているのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第三部準備中です!!
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n8527mg/




