目覚めのハルアット
■ 同盟
「チッ、ウェスガルガンの奴ら、反吐が出るね!」
膝まづく和田の報告を聞き、リズウェル女王が顔を歪める。
「その磔にされた兵士に最期の慈悲を与えてくれたのだな。貴殿らに改めて礼を言う」
キシャードが深々と頭を下げる。
「我々は味方だと考えておりますが、サウドレシグの同胞ではありません。勝手なことをしてしまいましたが、あの場ではそうすることが最善と思いました」
和田が頭を垂れる。
「いや、本当に礼を言うよ。ウェスガルガンを舐めてたね。実はあんたらが来た時、ウェスガルガンの使者が来ていてね。念のため、あんたらにも監視をつけさせてもらった。済まなかったね」
リズウェル女王が和田に頭を下げた。
「いえ、お気になさらず。国の対応ですから仕方がないことは承知しております」
「いい男だねぇ。ますます気に入った!」
和田の答えに身を乗り出すリズウェル女王。
「コホン、ワダ殿、してウェスガルガンの兵力はいかほど?」
やれやれという感じで、キシャード将軍が割って入る。
「それが、ワーウルフが相当おりまして。隠密の索敵でも気づかれてしまって。奥深くまで確認ができておりません。前衛だけでも二千は下らないかと。その後ろには倍、いや数倍は控えている可能性があります」
和田の答えにキシャード将軍が考え込んで発言する。
「陛下、本件いかがしましょう」
「決まってる。舐められっぱなしでは困るね」
リズウェル女王は玉座にすとんと座り、腕を組んだ。
「いいかい、ウェスガルガンの使者は追い返しな。降伏なんてするもんか」
「はっ、では使者の対応はこのキシャードが致します」
リズウェル女王へ一礼し、和田にも目礼するとキシャードは去った。
「我々の偵察も完了いたしました。可能であれば、今後イストリアとの同盟をお考え頂きたいのですが」
リズウェル女王はニタリと笑う。
「ああ、もちろん構わないさ。あんたが今後も使者をしな」
そう言って片目を閉じたリズウェル女王に、和田がウィンクをしたのだと気が付いたのはかなり後だった。
「ありがとうございます。いずれ正式な使者が参るかと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます」
(変なのに気に入られたな……)
頭を下げたタイミングで、顔をしかめる和田だった。
── こうして任務を無事果たした和田達
帰り支度をしていたところに、キシャード将軍がやってくる。
「ワダ殿、今回の件改めて礼をいう」
そう言ってキシャード将軍は手を差し出す。
「いえ、イストリアにとってもウェスガルガンは脅威ですからね」
和田はがっちりと握手を返す。
「今、偵察小隊が戻った。なんでも、国境付近からウェスガルガンの軍が撤退を開始したらしい」
「え、撤退!?」
キシャード将軍の報告に和田が驚く。
「おそらく、降伏への圧力をかけようとしたんだろうな。降伏を断って使者も追い返し、また、貴殿らが我が兵らを解放したこともあって、いったん撤退ということなのだろう。逆に、これからが本番だな」
軽く手を上げ、ポンポンと和田の肩を叩いてキシャード将軍は去った。
「俺たちも戻ろうか」
和田の言葉に全員が静かに頷いた。
■ 目覚めのハルアット
イストリアに戻った和田達は、すぐに王への報告へ赴く。
バストールはハルアットの様子を見に行くと、独り病室へと向かっていった。
── イストリア王城 謁見の間にて
「サウドレシグの現地調査、並びに同盟打診の件、御苦労であった。陛下も今回のレッドアイ諸君らの働きに大変満足されておる」
宰相ワンジャンスがそこまで言うと、イストリア王がワンジャンスへ手で待つように合図を出す。
「ワダよ、今回の働き見事であった。私からも直接礼を言いたい。同盟の件も上手く運びそうだな。ワンジャンス、すぐにサウドレシグへ同盟の使者を手配せよ」
「はっ、すぐに手配致します」
ワンジャンスが傍らの役人に指示を出すと、役人が一礼して退出していった。
「ウェスガルガンの軍をどのように見るか?」
イストリア王が和田に静かに問う。
「はっ、兵は残虐であり、ワーウルフなど魔物も取り込んだ軍でした。また、現地で磔台などを作成する工兵もおり、直接戦ってはおりませんが、非常に厄介な構成かと存じます」
和田のウェスガルガンの軍容にイストリア王が考え込む。
「我が国も、そろそろ本格的に軍容を改める必要があるようだな、ワンジャンス」
「はっ、陛下、すぐに軍の改革を実施させます」
イストリアは平和主義を前面に押し出しており、冒険者による自衛が主で、正式な軍隊はあるにはあるが、必要最低限の軍隊しかなかったのだ。
「次に、ハルアットのことだが、本当に目覚めるのであろうな?」
王はそれが一番心配だ、と目で訴えていた。
イストリアを支えてきたのは、実際には大賢者・ハルアットなのだ。
「はい、これは信用していただくしかございませんが、我々は時の支配者と直接交渉致しました。そのなかで確実に……この世界の今後についても、色々と約束させられましたが。嘘をつく人物でもないと思います」
想像がつかないという表情のイストリア王。
「ふむ、そういうことであれば、貴殿らとウェス様を信頼せねばなるまいな」
こうして謁見が終了した。
── 謁見を終えて、拠点へ戻ろうとしていた矢先
「小僧! ここにいたか、ちょっと来い!」
和田を掴んでバストールが走り出す。
「ちょ、バストールさんよ、どうしたって……」
バストールが向かう先は病室であった。
「全く、主らは落ち着かんのぉ……」
そこには、病室で半身を起こし、ベッドに座るハルアットの姿があった。
「誰のせいで落ち着かないんだ!? 勝手に一人だけ先に逝こうとしやがって」
バストールがハルアットに怒鳴るが、どこか安心している響きがあった。
「ふむ、バストールとワダア達がおれば、何とかなると思ったんでな」
「勝手に決めるな。まだお前にも仕事はある」
一見、雑なやり取りにも見えるが、三百年を超える仲間の絆があるのだ。
「大賢者さん、一時はどうなるかと思った。まあ、よかったよ」
そう言い残し、和田達は静かに拠点へと戻った。
■ 悪の皇帝
「カルア、報告せよ」
平伏していた男が起き上がると、一礼をして口を開いた。
「このカルア、皇帝陛下にご報告いたします」
皇帝と呼ばれた男、ウェスガルガン皇帝・メイズンが玉座に頬杖をついて、軽く頷く。
「サウドレシグは降伏勧告に応じませんでした。また、前衛の工作部隊が何者かの襲撃を受け、工作物が破壊されたとの報告も受けております」
そこでカルアが一旦言葉を切る。
「何? もしや、例のイストリアのやつらか?」
メイズン皇帝がギロっとカルアを睨んだ。
「はい、忌々しい大賢者の配下共です」
── ガシャン!
メイズンが持っていた盃を叩きつける。
盃が砕け、酒が飛び散る。
「も、申し訳ございません。サウドレシグへ展開していた兵は一旦退かせ、次の準備に入りたいと存じます」
カルアが怯えるように縮こまる。
「カルア、もうこれ以上醜態を晒すな。よいな?」
一段と低くなったメイズンの声に、底知れぬ恐怖が漂っていた。
「は、はい、もちろんでございます。いずれ奴らにも鉄槌を食らわせ……」
怯えるカルアに、メイズンは手で下がれと言葉もなく追い払った。
「皇帝陛下、大賢者とその一味は厄介ですなぁ」
メイズンの傍らに、ふてぶてしい笑みを浮かべる男がいる。宰相のローゼストだった。
「もう、我慢ならん。ローゼスト、お前も何とかせよ」
メイズンの声に、恭しく一礼するローゼスト。
「皇帝陛下の命とあれば、このローゼスト全身全霊であたります。しばしお時間をいただきますぞ」
静かに頷くメイズンは、声もなく手を振ってローゼストを下がらせた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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