サウドレシグ国境偵察 後編
■ 監視
キシャード将軍から偵察の許可を受け、詳しい場所や今までの状況が共有された。
入国と謁見、キシャード将軍との会談などで、夕方になっていた。
夜にしか移動できないことを考えると、さすがに準備もしたいので今夜出発は難しい。
そのため、明日の夜に出立することに決まった。
一応国賓扱いとなったので、宿などは役人が案内してくれた。
大きな部屋を二部屋準備してもらっていたので、男女それぞれ分かれた。
荷物など置いて和田のいる部屋にみんな集まる。
長野が入ってくると、紙に書いたメモを見せてくる。
”王宮に敵がいた そして、ずっと監視されている”
こんな短いメモだった。
和田がみんなを見回して、唇に指を立ててこのメモを全員に見せる。
恐らく、索敵で何か引っかかったのだろう。
みんなわかったと頷く。
”明日出発するまでは、関係ない話をするように”
さらに和田がメモに追記し、みんなに見せる。
この部屋も用意されてもであるので、どこに”耳”があるかわからないからだ。
「和田にゃん、お腹すいたぁー」
葉山がお腹を手で押さえる。
「そうだな、夕飯食べないとな」
── 葉山の胃袋に導かれるメンバー
増山に手を握られ、葉山がどんどん進んでいく。
「葉山殿、ゆっくり! 食べ物は逃げませんよ」
増山がなだめるが、目の色を変えて葉山が突き進む。
「んんん、あそこにゃ!」
スパイシーな香りが漂うテントに葉山が吸い込まれる。
テントの中は煙がもうもうと漂い、ガヤガヤと活気に満ちている。
カレーにも似た刺激的な香りが胃袋を刺激する。
ちょうどメンバーが座れそうな席が空いたので、そこに滑り込む。
「片づけるから、ちょい待ってぇ」
軽いノリの感じの獣人が、帰った客の食器やジョッキなどを片付ける。
「お客さんたち、サウドレシグは初めて? 注文わかる?」
「あー、まあそうだな。今日初めてだ」
よいしょっ、そういって木の板を見せる。
どうやら、メニューのようだ。
「これ見てもよくわからないな、おススメは?」
「そうだね、暗黒蠍の炭焼きと、ヤックルの香草焼きかな」
暗黒蠍に葉山が反応する。
「ヤックル? それってなんだ?」
「なんだって言われてもね、ヤックルはヤックルだもん」
困る獣人の店員に、豊明が助け船を出す。
「ヤックルはラクダみたいなもんですぞ。前サウドレシグを調査したときに乗って移動したが、ヤックルの肉は癖はないが、少し硬いんですぞ」
「両方食べる!」
葉山が即答していた。
ここで何を言ってもダメだとわかっているので、和田がそれを人数分頼む。
── 唇が真っ赤に腫れ上がる葉山が苦しそうにしている
食べ終えたみんなが呆れていた。
「タエにゃん、もう苦しくて動けないにゃ」
増山におぶさる葉山の唇は真っ赤に腫れ上がっている。
「レイちゃん、食べ過ぎだから。その唇すごいことなってるし。ヒールで治るのかしら?」
確かにカレーにも似たスパイスによって、食欲が増したことはある。
だが、葉山は他のメンバーの三倍の量を完食していた。
「あの、これ食べ過ぎると、辛いし唇とか腫れちゃうっすよ?」
二度の完食の際に、獣人の店員が焦って葉山に説明する。
「いいから持ってくるにゃ」
この時点で唇は赤くなっていたのだが……
完食後にはぐったりしていた。
「全く、こんな状況でよくそんな食えるな。もう休んで、明日は準備して夕方には出発するからな」
■ 国境での偵察
テントの群れが後ろに遠ざかる。
外山がTTタンクを操作し、砂を巻き上げて爆走している。
国境付近までは数時間で到着できるだろう。
「ここまでくればいいだろう。で、てる美、王宮に敵がいるって詳しく頼む?」
昨日のメモの件を確認する和田。
「そうね、王宮の奥に敵意を感じたわ。二人いたってところかしら」
「ふーむ、考えらえることは三つなんですぞ」
長野の言葉に豊明が指を三本立てて言う。
「一つ目は、サウドレシグはウェスガルガンと繋がっている可能性。二つ目は、今まさに何か交渉中という可能性。三つ目はその両方」
長野はリズウェル女王や、その他役人や兵士からの敵意は感じ取っていない。
「ようするに、その二人というのはウェスガルガンの使者ですぞ」
「なるほどな、だから俺たちに監視がついていた、ということだな」
豊明の推測に和田が応じる。
「まあ、どっちだったとしても、気を抜かずに対応しないとな」
── そして、国境が遠くに見える距離まで来た
「和田っち、遠くに何か動いてるでやんす」
外山がTTタンク停止させ、声をかけてきた。
「よし、てる美は隠密で索敵してくれ、葉山もテイムをよろしく」
二人が頷いて走り去る。
和田は外山から望遠鏡を受け取ると確認する。
望遠鏡は外山が造形魔法で作成した部品を、豊明が仕上げたものだ。
距離があるので、明確には確認ができない。
だが、兵士と思われる連中が、色々と動き回っているが見える。
ウェスガルガンの兵が何かをしていることは間違えない。
何か大きな十字架のようなものが複数見えた。
「まさか!」
和田が声を上げる。
みんなが何事かと和田を見つめる。
「多分、あれは磔台だ。人が十字架に磔になってる!」
豊明に望遠鏡を渡す。
「なんと、確かにあれは磔ですぞ!」
ウェスガルガンの陣営は尋常ではない様子だった。
「まあ、ウェスガルガンのやることは野蛮だ。やつらに常識は通用しない」
バストールがそんな様子で拳を握り固める。
「やつら、ユウノシンもやりやがったからな……」
── ボフッ
握った拳を砂に叩き込む。
「黒死教の次は奴らだ。絶対に仇を取るさ」
バストールが握った拳を開くと、サラサラと砂がこぼれ落ちていった。
「キミさん、ちょっとヤバいかもしれない。全然奥に入れなかったけど、かなりの数はいるし、かなり傷だらけの磔にされた人たちが……」
索敵から戻ったて長野が真っ青な顔をしている。
「奥に入ろうとしたんだけど、気付かれちゃって、戻ってくるしかなかった。あの気配、悪意ってもんじゃないわ。恐ろしいものがいると思う」
長野が片腕を抑えていた。
気付かれた時に矢が腕をかすったようだ。
「恐ろしいもの?」
「あんな悪意は感じたの初めて。人なのかしら? レイちゃんが何か見えるといいんだけど」
和田の問いに長野が答える。
増山が長野の腕に気が付き、ヒールを掛けている。
ずっと目を閉じていた葉山が目を開ける。
「和田にゃん、ちょっとやばいかも。魔物がたくさんいる。見たことないやつで、真っ黒な狼人間みたいなのがたくさん」
葉山が身震いしている。
「厄介なことになってるな。で、数的なものってわかるか?」
和田が唸りながら聞く。
「私独りだと限界があるわね。かなり広範囲に陣が構築されてるし、奥まで全部見れてないもの。ほんとに前衛部分のざっくりでも二千はいそうだわ」
かなりの大軍のようだ。
「僕も見た感じだと、情報が追い付かないくらいに広いのと、狼人間が怖すぎて、鳥が近づけないんだよ」
かなり状況は切迫しているようだ。
どうしようかと考えているところに、何か聞こえてきた。
「おい、偵察きてるんだろ? 出て来いよ」
── ズズズズズッ
ワーウルフが引く木の巨大な十字架が、少しずつ引きずられてきている。
その数五台の磔台だった。
磔台にはぐったりとした兵士が磔になっている。
その軍服は、少し前にさんざん見たサウドレシグ軍のものだ。
「ワーウルフの嗅覚では、隠密も無意味なんだよ、ほれ見ろよ。偵察に来た奴はみーんなここだぞ」
その間も少しずつ引きずられてやってくる磔台。
「頼む、楽にしてくれ……」
「ワーウルフに噛まれて死ぬなら、いっそ味方の矢で死にたい」
「痛い、痛いんだよぉ」
磔にされた兵士達が口々に呻いている。
「ち、やつら弄んでやがるな」
バストールが吐き捨てるように呻く。
── スタッ
その時、一番先頭を引きずられている磔台に影が走る。
── ズシャッ
磔にされた男の胸にダガーが刺さっていた。
「あ、ありがと……」
刺された男は、静かに頭を垂れる。
「なんだぁ、お前、独りか? いい度胸してんなぁ、それ!」
ウェスガルガンの兵士が複数のワーウルフをけしかける。
── シュタッ
和田は瞬時に飛び去る。
「なんだ、すばしこいなぁ。面白いなぁ、お前」
ウェスガルガンの兵がニタニタ笑っている。
「てる美、すまんが残ってる彼らを楽にしてやってくれ」
瞬時に戻ってきた和田が言う。
── シュン、シュン、シュン、シュン
涙を流している長野が、目にもとまらぬ矢を連射する。
全てが磔されているサウドレシグの兵に吸い込まれる。
「あー、お前ら、このおもちゃ磔にすんの大変なんだぞ!」
ウェスガルガンの兵が怒り狂う。
「うるせぇ、お前らが消えろ!」
── バフッ、シュゥゥゥゥゥゥッ、ドドドドォォォォン
ウォーハンマーを振るうバストールが怒鳴る。
ウェスガルガンの兵とワーウルフが数十人吹き飛んでいく。
「後味悪いがな、いったん退くぞ」
和田の言葉に全員が頷く。
「タク! サウドレシグへアポーツですぞ!」
磔にされたサウドレシグの兵が緑の月に照らされている。
その顔は無念さが滲んでいるが、少しだけ穏やかな表情に見えた。
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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