サウドレシグ国境偵察 前編
■ 王都オサワス
緑の月が照らす砂の海を、TTタンクが砂を巻き上げて爆走している。
昼間の気温は五十度を超えるため、夜に移動することにした。
目指すは王都オサワス。
ウェスガルガン国境にいち早く向かいたいところではあるが、状況が状況だけにいったん王都への各種報告と、今回の調査の許可をもらうことが目的だ。
「サウドレシグの王様ってどんなやつなんだ?」
和田の疑問にバストールが肩をすくめる。
「女王だな。まあ、ありゃ女とは思えんな。傭兵上がりの雑な女よ」
バストールの感想は辛辣だ。
仮にも一国の女王を捕まえて雑な女と切り捨てる。
「そもそも、サウドレシグは国といってもほとんど砂漠でな。街らしい街は王都だけだ。それ以外では暮らせないからな。だから、王都にすべてが集中する。まあ、行けばわかるさ」
── 夜中も走り続け、辺りが明るくなってきた
「和田っち! テントだらけでやんすよ!」
夜中に豊明と交代した外山が感嘆の声を上げる。
窓から顔を出す和田の目の前に、確かに壮観な眺めが広がっていた。
小高い丘の上を走っており、眼下にはオサワスの街並みがはっきりと見えた。
全てがテントであり、石や木の建物は見当たらない。
様々なテントが無数に寄り集まっている。
真ん中にひと際豪華で巨大なテントがあり、その周りを取り囲むような街並みだ。
「凄いなこりゃ、テントだらけって本当だな」
テントの寄せ集めのため、城壁などはない。
ただ、ロープが張り巡らされており、入口部分には兵士が立っている。
これ以上は進めないので、全員がTTタンクを降りる。
兵士が何事かと集まってきていた。
自分で走る馬車などこの世界にはないので、どうしても人目を惹いてしまう。
和田としては慣れたもので、兵士に向かってギルド登録証と、イストリア王からの依頼書を見せる。
扱いとしてはイストリア国の正式な使者である。
よっぽどのことがない限り遮られることはない。
街に入ると、先ほどは寄せ集めに見えたのだが、真ん中の豪華なテントまで放射状に綺麗に道が通っていた。
恐らく空から見た場合、蜘蛛の巣のように見えるのではないだろうか。
通りによっては、露店もあるようだ。
肉の焼けるいい匂い、刺激的なスパイスの様な匂いなどが漂ってくる。
葉山がしきりにクンクンしていた。
真ん中の豪華なテントに近づくに連れて、雰囲気がガラッと変わる。
兵士や役人が使用するテントが取り囲んでいる感じだ。
監視されているような視線を常に感じる。
そこから数分をかけて、ようやく豪華なテントの入り口に着いた。
「ここから先はサウドレシグ王宮である、何用か!」
誰何する衛兵に来訪の理由などを伝え、女王への謁見を依頼した。
ウェスガルガンの宣戦布告の際に、サウドレシグへいずれ正式に使者を派遣することは連絡してある、そう聞いていた。
数分待たされたが、中へ入ることを許される。
中は驚くほど広く、テントとは思えないほど天井と、豪華な刺繍の絨毯や、細かく区切られた布の壁にも豪華な装飾が施されている。
テントとはいえ、さすがは王宮である。
やがて、小さい部屋に入るように促される。
部屋に入ると、武器は置くように指示され、また、女王への謁見は三名までと伝えられた。
「じゃあ、俺とてる美、それから豊明さん、この三人で入ろう」
和田が人選をして、バストールと外山、増山は部屋に残ることとなる。
「小僧、今からお前が合うのは、例えるなら岩石人間だ。よく覚えておけ」
バストールが、和田を引き留めて耳打ちする。
和田にはよくわからないが、一応頷いておく。
小部屋を出ると、あと二つ小さい部屋を経由し、中央と思われる大きな部屋に入った。
真ん中に巨大な柱が立っており、その柱の根本には艶のある大理石のような石で作られた玉座が据えられている。
その玉座に座っているのが女王であろう。
バストール曰く”雑な女”とのことであったが、見た目は強靭という言葉が似あう外見である。
和田、長野、豊明が進み出て、膝をついて頭を下げる。
「イストリアより参りました、和田と申します。この度はウェスガルガンの宣戦布告を受け、貴国との連携の確認、更に可能であればウェスガルガン国境付近の偵察を許して頂きたく参った次第です」
和田の口上を聞くと、いきなり女王が立ち上がる。
「サウドレシグ女王陛下 リズウェル様の御前である。これより……」
役人がそこまで言ったところで女王が手で遮る。
「面倒だね、お黙り」
役人が慌てて一礼し、下がっていく。
「顔を上げな。ワダとか言ったね。まあ、堅苦しいのは好きじゃないんだよ。こっちもウェスガルガンには困ってるし、すぐ隣だからね。偵察はこっちからお願いしたいくらいさ」
(なるほど、雑というのはこういうことなのか。それにバストールの言ってた岩石人間とは、言いえて妙だ)
和田は内心そう思ったが、はい、と顔を上げる。
仁王立ちのリズウェルは、筋骨逞しく、女性とは思えない大きさで、盛り上がった肩、はち切れそうな太もも、まさに岩石のようだ。
「ほお、いい顔してるじゃないか。あんたみたいなのは嫌いじゃないよ、今夜どうだい?」
(冗談だろう? 悪いが、あんたとサンドワームなら、サンドワームを選ぶぞ)
「陛下、ご冗談が過ぎますぞ。偵察の件ですが、我々にお任せ頂けるということでよろしいでしょうか?」
少し考えるようなリズウェルだったが、頷いて口を開く。
「まあ、こちらからも何度か偵察に出しちゃいるんだけど、戻ってこないんだよ。兵士がさ……だからちょうどいいよ、行ってきな。情報を持ち帰っとくれ」
再び頭を下げ、和田が答える。
「是非とも情報を持ち帰ります。その後、我が国との連携のご相談をさせて頂きます」
リズウェル女王はわかったと、軽く手を上げる。
「軍のことはキシャードに任せてある。話ができるように手配しておくから、くれぐれも頼んだよ」
■ 将軍キシャード
謁見を終えた三人が小部屋に戻る。
「小僧、無事だったか?」
バストールがニヤリと笑う。
「いや、あんたの言った通りだったんで驚いたよ」
和田は置いていた武器などを装備しながら話していたが、長野が少し緊張した顔をしている。
「てる美? どうしたんだが? そんな顔して」
「うん、そうね。後で話す……」
ここでは話せない、そう表情で伝えている。
和田も静かに頷いた。
小部屋を出ると役人が待っていた。
「女王陛下からのキシャード将軍の元へご案内するよう仰せつかっております。私について着て来ていただけますか?」
役人は有無を言わさない雰囲気があり、和田も頷いてそれに続く。
王宮のテントを出ると、兵士の出入りが多いテントへ向かう。
流石に王宮のテントの豪華さとはかけ離れているが、大きなテントであり、やはり中は布の壁で仕切られていた。
そのうちの一室に案内される。
「キシャード様、イストリアからの使者をお連れしました」
役人が一礼し、部屋を出ていく。
椅子に座っていた男が立ち上がる。
「サウドレシグで軍を預かっているキシャードと申す。女王陛下から事情は聞いている。部屋が狭く申し訳ない、代表の方以外はあちらに控えて頂く」
スキンヘッド、筋骨隆々、むき出しの腕には無数の傷が見える。
眼光も鋭く、威圧するようなオーラを感じる。
「イストリアより参りました。和田と申します。では、失礼いたします」
向かい合うように和田が椅子に座る。
他のメンバーは一礼すると、後ろに用意されている長椅子に座る。
「単刀直入に話そう。我々サウドレシグでも、国境への偵察に兵を向かわせている。だが、一人として誰も戻っていない」
そこでキシャード将軍は一呼吸置いた。
「さすがにただ事ではない。そこで、小隊を向かわせようか検討していたところだ。ワダ殿、貴殿が情報を持ち帰ってくれるなら、我々も喜ばしいことだが、貴殿らを信用してもよいのだろうか?」
値踏みするように和田を見つめるキシャード将軍。
「困りましたね。キシャード将軍、どうすれば信用いただけますか?」
和田がニヤリと肩をすくめる。
「これ以上、いたずらに時間を費やすわけにもいかんので……」
── ダッ、ガタン
言いかけたキシャード将軍だったが、いつの間にか背後に和田いた。
和田の椅子がゆっくり倒れる。
そして、背後からキシャード将軍の喉元に、和田のダガーが当てられている。
「ほう、なかなか、イストリアの使者がこれほどとは」
キシャードは微動だにせず、拍手をしている。
「これは無礼を致しました。このようなことで信用いただけますか?」
和田が悪びれもせずにダガーを収め、キシャード将軍に一礼する。
「ふっ、面白いな。わかった貴殿にお任せしよう」
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
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