魂の行方
■ 解毒薬
「なあ、いつになったら大賢者さん起きるんだ?」
和田がハルアットを見つめながら呟く。
”嘆きの雫”の完全版を手に入れた後、アポーツで王都へ帰還すると、意識の途切れそうになる大賢者/ワーラットは、なんとか解毒薬の作成法を話し終えた。
だが、そのままバタリと倒れてしまった。
そこから王宮の薬師が呼ばれ、解毒薬の作成が至急開始されたのだった。
出来上がった解毒薬が投与され、土気色だった肌は瑞々しさが戻り、正常な肌色となった。
呼吸も安定し、あとはいつ起きるのか?
そんな状態が三日も経過したのだった。
「さて、私にはよくわかりません。見た限りでは、いつ目覚めても不思議ではないと思うのですが……」
王宮のお抱えの医師も困惑している。
和田としても、この世界の医療レベルが不明だが、自身も医療知識がないので医師の言葉を否定もできない。
「和田にゃん、ちょっと話があるんだけど……」
葉山が和田を呼び出す。
病室の外に出ると、葉山が口を開いた。
「ハルにゃんが、たまにいるように思うんだけど、チュー吉から離れられないって、そいういう思考だけがわかる感じにゃ」
「それって、戻れないってことだよな。遅かったのか」
「でも、弱くなってるけど、確実にハルにゃんの存在は感じるにゃ。チュー吉も同じように弱くなってる」
ハルアットもワーラットも、意識を失って寝込んでいる状態だが、まだ意識はあるということはわかった。
だが、弱りつつあることも事実であり、早急に何か手を打つ必要がある。
「苦労して材料全部集めたってのにな」
和田が無念そうにハルアットを振り返った。
■ 代償
レッドアイの拠点では、ハルアットの件で様々な議論が行われていた。
だが、決定的な答えは見つからない。
このような話は、やはりハルアット頼みになっていたことが大きい。
魔術や儀式のこととなると、ハルアットの右に出るものはいない。
そもそもが魂魄移送なる奥義のことを、知る者がいないのだ。
誰も何も言えなくなり、沈黙が辺りを支配していた。
── コンコン
そのとき、ノックの音が響き渡る。
「はい、どなたでしょうか?」
長野が扉を開くと、司祭が立っている。
「私は宮廷魔術師をしております、カーリと申します。魂魄移送についてお話に参りました」
和田がカーリを中へ招き入れる。
ハルアットの意識が戻らないため、宰相ワンジヤンスへ魂魄移送について、何かわからないか依頼していた。
「わざわざお越しいただきありがとうございます。何かわかったのでしょうか?」
カーリは一礼すると話出した。
「ハルアット様は希代な魔術師でもあり、我々の想像をはるかに超える存在です。そのハルアット様が奥義とおっしゃる儀式ですから、申し訳ありませんが、私には詳細が分かり兼ねます」
宮廷魔術師と聞いて、一同期待していたのだが、瞬時に落胆する。
「ただ、少しだけ補足ができればと思い、聞いていただければと思います。まず、奥義の発動は簡単なものではございません。おそらくですが、ハルアット様は何かを捧げられているはずです」
「つまり、どういうことなんだ?」
カーリの言葉に和田が疑問を挟む。
「奥義ともなりますと、何か触媒であったり、依り代であったり、生贄であったり、術の内容や系統にもよりますが、必ず何等かの代償が必要になるのです……」
「ありがとうございます。カーリさん、続けてください」
カーリも理解してもらえるように、言葉を選んでいるようだ。
「もしも、ハルアット様が捧げた代償がなにかわかれば、そこから解決策がみつかるかもしれない、そう思うわけです」
その言葉にすっと進み出る豊明。
「なるほど、和田くん当時の状況を事細かく教えてほしい。全部の事実を並べて、もう一度議論するんですぞ」
諦めたらそこで終わりだ。
あとどれくらい時間があるか不明だが、できることはなんでもやるしかない。
── 暗殺行為が行われた時のことを回想する
「あの時、最初に異変に気が付いたのは俺だけだな。変な奴が近づいてきて、ダガーをいきなり……」
和田が思い出して身震いする。
「あっという間でやんした。それくらいの短い時間だった」
「そうね、和田殿も、タク殿も、反応はできても間に合わなかったし、私もヒールをすぐに掛けたのだけど、遅かった」
増山と外山が俯きながら話している。
「僕はあの時、チュー吉が騒いでいたから、全然気が付かなくて……」
葉山が申し訳なさそうに話す。
「なるほど、つまり何かを捧げるにしても、特別なものが用意できる時間もないんですぞ」
豊明がまとめる。
「葉山くん、そのチュー吉は何を騒いでいたんですぞ?」
「何か嫌がっていた、何かが来るって騒いでたんだ」
葉山の答えを聞いても、特に何も思い浮かばない豊明。
「あ、そういえば、今もなんだけど、たまにハルにゃんが”ウェス様、この命を…”って、うわ言というか、その言葉がよく聞こえてるかも」
その言葉に和田が反応する。
「そういえば、ウェスに呼ばれた時、大賢者さん何も言わなかったな」
和田の言葉を吟味するように豊明が唸る。
「和田くん、これは魂の固着とは関係ないかもしれないですぞ」
「豊明さん、どういうことですか?」
和田の問いに少し考え込む豊明。
「ウェス君と大賢者殿との間に、何か他の契約めいたものがあるのではないかと思うんですぞ」
もし、そういうことがあったとして、どうすればいいのか?
「じゃあ、また”時の牢獄”に行くでやんすか?」
「いや、あそこに行ったから再度ウェスに会えると限らない。あのとき、俺たちはどこかに瞬間移動させられたからな」
外山の問いに答える和田。
「ダハハハ、瞬間移動! そうなんですぞ、アポーツならいった場所には移動できるんですぞ!」
「ん、だから”時の牢獄”へ行っても、ウェスがどこにいるかわからないって」
豊明の意図が和田には伝わっていない。
「だから、あの時我々はウェス君に呼ばれて、確かにウェス君のところに行ったんですぞ?」
「そうか、だから行ったところだから、呼ばれたとしても実際に行った場所だからでやんすね!」
豊明の言葉に外山が反応する。
「いやいや、ちょっと待てって、あそこはどちらかというと、なんて言ったらいいんだろうな? 精神世界みたいな。実在しない場所なんじゃないのか?」
豊明の推測はもっともかもしれないが、和田も慎重にならざるを得ない。
一番最初にアポーツで移動したときも、検証をちゃんとして安全を確かめたのだ。
だが、今回は検証する方法がない。
ぶつけ本番になるからだ。
みんな黙って外山を見つめた。
「ノンノン、心配は無用。小生はやるでやんすよ。もう迷ってる時間もないでやんしょ?」
「タク! もちろんだ。お前独りでやらせん、一緒に行くですぞ!」
外山と豊明が、二人盛り上がっている。
「誰もやめろと言わないし、行くなら俺もいくさ」
和田の言葉に、他のメンバーも頷いた。
■ ウェス再び
「いいでやんすか!」
外山が叫ぶ。
「みんな覚悟はできてる。いつでもいいぞ」
和田の言葉に、みんなが頷く。
外山が静かに目を閉じると、周囲の空気が震える。
── シューン
周りが膨張したような感覚の後、急に収縮する。
── ドサッ
地面に着地した。
満点の星空と、パチパチと火の爆ぜる音。
白く光るウェスが、焚火に薪を投げ入れる。
「やあ、また会ったね。といっても、来るって知ってたけどね」
ウェスがニコリと笑う。
「あのさ、大賢者さんの解毒薬を与えたんだけど、意識が戻らないんだ。何か知っているよな?」
焦れるように和田が問いただす。
「そうだね。ぼくが創った物語だからね」
焚火を棒でかき回し、火を調整するウェス。
「いいよ。ちゃんと話そうか。話聞きたいんだよね?」
── バタッ
その時、外山が倒れる。
「タク!」
豊明が駆け寄り、外山の肩を揺する。
「ああ、大丈夫だよ。外山さんは、魔力を使い果たしたんだよ。ぼくの精神世界まで瞬間移動とか、よくやったね? 外山さんじゃなきゃ、無事では済まなかったと思うよ」
相変わらず落ち着いた声で、焚火をかき回す。
「ここはぼくの中の世界だから、思い通りさ。君たちの世界に直接手を出せないけど、ここはぼくの思い通りさ。外山さんはゆっくり寝てたら回復するから」
── パチン
ウェスが指を鳴らすと、辺りは明るい部屋に変わっていた。
窓の外にはよく晴れた空と、どこまでも続く青い海が見えている。
「さあ、何が聞きたいんだい?」
本作品の世界観や設定の補足情報、登場人物についてまとめました。
あれ、これなんだっけ、誰だっけ、そのようなときにご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n8527mg/




